69 副ギルドマスター

「顔見知りなの?」

「はい!料理のレシピを登録したときに対応して貰いました!」

「へぇ〜よく利く鼻だこと?」


その言葉にリンダさんがエミリーさんを一瞥すると目を細めた。

対してエミリーさんは笑みを絶やさずリンダさんを見つめ返している。

2人の間に見えない火花が散ったように見えたんですが。

不穏な雰囲気に2人の顔をチラチラ見ていると、シャロンさんにそっと頭を撫でられた。


「お二人さん、リサが戸惑っているから牽制はそれくらいにしたら?」


ため息混じりにシエラさんが注意すると、2人の間に流れていた不穏な空気が少し安らいだように感じる。

それにちょっと安心する。

2人ともいい人だとわかっているからあまり不仲になって欲しくないから。


「リサが許しているみたいだから、これ以上追求はしないけど、さっきリサが言ったみたいに、あんなのを雇うのはどうか思うわ」

「はい、それはもう。言い訳になってしまいますが、数日前にちょっと断れない筋からの推薦でねじ込まれまして。注意はしていたのですが、一部の職員が買収されたみたいです」


断れない筋…やっぱり貴族筋ってことだよね?

あの女の言い方から平民を見下しているの丸わかりだったし、むしろよく商業ギルドの職員になろうと思ったよね〜


「今回の事を機に、改めて雇用条件などを厳しくいたします。本当に申し訳ございません」

「後はお任せします!ただ貴族筋からの依頼って断れるんですか?あと雇用はできなくなっても買収される職員がいると意味ないかも?」


お金に目がくらんで買収された職員も問題だけど、権力で脅されていたら仕方ないのかな?

それを判断するのは商業ギルドだろうから、私がそこまで考える必要はないか。

対策は全て丸投げするが、ちゃんと対策はして欲しい。

じゃないと今後の利用も控えなきゃいけなくなるし。


「ご心配ありがとうございます。えぇリサ様がいらっしゃったので、今後は大丈夫ですわ」


エミリーさんはちらりと視線をリンダさんの方に向けて、にっこり笑って言い切った。

自信満々なようなので、今後も安心して商業ギルドを使えそうだ。良かった。


「リサを担当するなんてさすが、副ギルドマスターってところかしら?」

「たまたまですよ?リサ様のことを事前に把握する時間はありませんでしたよ?」

「たまたまでリサの専属になった上に信頼されるなんてね?」


リンダさんとエミリーさんの背後で、見えない雷がバチバチなっているように見えた。

何でかわからないが2人は相性が悪そうだ。

あまり険悪になって欲しくないので話題を変えてみる。


「エミリーさんって副ギルドマスターなんですか?」

「改めて自己紹介いたしますね。首都ラーナルの商業ギルド副ギルドマスターを務めております、エミリーと申します。今後ともよろしくお願いしますね」


副ギルドマスターってことは商業ギルドのナンバー2ってことだよね?

そんな人に対応してもらっていたのかと思うと、ちょっと焦るんですが。


「えっとあの日受付窓口にいたのは?副ギルドマスターってお忙しいんじゃないですか?」

「観察するためですね、職員とお客様の両方。女だからって舐めてかかってくる方もいらっしゃるので」


改めて聞くとエミリーさんはとってもいい笑顔で教えてくれた。

元々ギルドマスターが強烈な人なので、その人が目立てば副ギルドマスターは影が薄くなる。

それを利用して副ギルドマスターと知っている人を最少人数に押さえ、商業ギルド内のふるいとして使っているとのことだ。


「へぇ〜色々大変そうですね〜」

「リサ、実際に大変なのは正体を知っている直属の部下よ?下っ端はともかく、中間管理職や古株にしてみたら上司が常に職場訪問している状況よ?もし自分の部下が下手な対応したらと思うと」

「胃がキリキリしそうですね」


上司と部下に挟まれるのが中間管理職の宿命とはいえ、上司の秘密の職場訪問が毎日開催されていたら…もうぶっ倒れるか、新人はいりません状態になりそう。

あ〜どの世の中も雇用される側には選べる自由がないのかもしれない。


「まあまあ。今回みたいにコネ配属とかでとんでもないわがまま娘が放り込まれることがあるので、それに対処するにも有効なんですよ?」

「まあ、そうだろうね。副ギルドマスターが見ていたんだから言い逃れなんてできないわね」

「そうです!決して趣味だけじゃないですよ?」

「…!」


今趣味って言った…?言ったよね?

中間管理職をいじめるのが趣味とか言わないですよね?


「あぁ勘違しないでくださいね!趣味と言ったのは下っ端と思っていた女が自分より遥かに上役である副ギルドマスターだったことがわかったときのクズどもの顔を見るのが趣味なだけなんですよ!決して善良な部下をからかうのが趣味なわけじゃないですよ?」


つまりエミリーさんはいわゆる『ざまぁ』がお好きなようだ。

話を聞くほど受付嬢のエミリーさん像が崩れていく気がするが、クズが成敗されるのはいいことなので、深く考えないようにしよう。


「とりあえず、今回の件はエミリーさんにお任せということでいいでしょうか?」


色々考えるのにも疲れたので、保湿剤のレシピをさっさと登録して、後はエミリーさんとリンダさんたちに任せたい。

ここまで色々巻き込まれるとお腹いっぱいです。

早くじいじとふたりでのんびり旅に戻りたいです。

そんな思いもあって、エミリーさんから渡された用紙に保湿剤のレシピをサクサク書いていて渡す。


レシピの内容も無事登録できたようで、これでリンダさんたちとの約束は果たせた。

後はレシピを元に貴族お抱えの薬師にでも調薬してもらえばいいだろう。

リンダさん達にはお世話になったけど、やっぱり貴族関係者の近くにいるのは怖い。

今回のように巻き込まれてしまうことが起きるかもれないから、オークションが終わったらさっさと首都を離れよう!


「はい、登録できました。お疲れさまです」

「は〜い、疲れました。後は、えっとレシピが売れたら商業ギルドの口座にお金が入るんですよね?」

「そうですね〜あと、リサ様おめでとうございます!」

「おめでとう…?」


登録が無事終わっておめでとうってことってことかな?

あまりに脈絡がなさすぎて、何がおめでとうなのかわからないのですが?

理解不明のため、まぬけな声をあげてしまった。


「ふふふ、唐突過ぎましたね〜なんと驚きのDランクに昇格です!」

「Dランク?Eランクではなく??」


今Fランクで来年はEランクかもっていう話はしていたけど、それをすっ飛ばしてDランクなの?

えっ?それっていいの?不正とかじゃないよね?

なんかこの下り冒険者ギルドでもした気が…。

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