109 ダンジョン1階層
Gランクのスライムの次はFランクの魔獣へと変わり、ホーンラビットやゴブリンが出てくる。
奥に行くに連れて単独から数匹の集団へと変わっていくが、複数の矢を同時に射ることができるクリスの敵ではない。
相手の耐久力もないため、矢の一撃で相手はすぐに倒されてしまう。
「Fランクの魔獣なら大丈夫だね!」
「では次はEランクの魔獣にしましょう。ちょうど右の行き止まりにゴブリンソルジャーが出る所があります。そちらに向かいましょう」
「1階層でEランクの魔獣が出るんですね?」
勝手に1階層ではFランクしか出ないと思っていた。
何も下調べしていない初心者が出会ったら痛い目を見そうだ。
「ギルドでも新人冒険者に注意を促していますが、自分が強いと思っている冒険者ほど聞き入れないみたいですね」
「クリスには説明なかったよね?」
「Gランクの説明だけだったね?」
「…やっぱりもう少し懲らしめておくべきだったな」
クリスがダンジョンに入ると思っていなかったのかもと考えたときに、リアンさんから昏い呟きが聞こえた。
これも聞いちゃいけない呟きなんだろうから聞こえなかったフリをしておこう。
「ギィギィギィ!」
「シッ!」
リアンさんから聞いたら行き止まりへの道を曲がったところに、聞いていた通り1匹のゴブリンソルジャーが現れた。
野生ではゴブリンソルジャーが1匹だけで現れるなんてないからちょっと不思議だ。
Eランクとは言え、元はゴブリン。
遠距離攻撃のクリスには関係ない。
すぐさま仕留めてしまう。
「流石ですね。遠距離なのに攻撃力が強いので殆どの魔獣を一撃で倒してしまえそうです」
「うんうん!だよね!」
「この先の行き止まりに数匹まとまっているのでそれで1階層は終わりです」
リアンさんが示した先を見ると、粒のような大きさで3匹のゴブリンソルジャーが固まっているのが見えた。
相手はまだこちらに気づいていないようだ。
「どうせ行き止まりならここから攻撃してみよう!」
そう言うとクリスはいつもより射る力を溜めると3本を同時に放った。
ゴブリンソルジャーに向かっていく弓からはクリスの魔力を感じる。
これって弓版の魔装技かな?
じいじとの対戦では使用していなかったけど、クリスも使えるんだね。
魔力を帯びた弓は通常のスピードより早く、ゴブリンソルジャーが弓に気づく前に頭に命中。
すると、大きな爆音とともに砂埃が舞い、爆発を起こした。
…爆発?
「ちょっとクリスさんや?」
「ちょっと魔力込めすぎたみたい、テヘッ」
弓矢では起こりうることない爆発に顔を引きつらせて尋ねると、クリスはペロッと舌を出して可愛いポーズで誤魔化そうとする。
しかしそんなポーズでゴブリンソルジャーが爆発した大惨事は誤魔化せられないよ。
今回は行き止まりで他の冒険者がいなかったからそれほど問題にはならなかったけど、もし階層のど真ん中とかで他の冒険者がいる場所だったら…。
その場合は他の冒険者を巻き込んでいたかもしれないと思うと顔が青くなる。
爆音だけで驚くだろうし、戦闘中だったら集中力が切れて負傷したかも。
そうでなくても爆音が気になって冒険者が集まってくるかもしれないし、下手したら魔獣も呼び込んでしまっていたかもしれない。
威力の調整ができないようなら弓の魔装技は控えてもらわないと!
「クリス、見てよ?威力が大きすぎてすごい爆音と砂埃だよ?周りに人がいたらどんだけ騒ぎになるかわかっている?」
「わ、わかっているよ〜ちょうど行き止まりで人がいないし、ここで練習するから〜」
「そうしましょう!まだ力が慣れないだけですから、練習すればすぐ調整できるようになりますよ!」
クリスが両手を組んで上目遣いのうるうるした目でお願いするとリアンさんは速答した。
あっさり陥落したリアンさんに呆れるものの、練習が必要なのは変わらない。
クリスの様子をみると反省しているかわからないけど、致し方ないと同意する。
「じゃあさっさと練習する!」
このまま、なあなあにしてはいけないと、クリスを焚き付ける。
まだダンジョンの1階層なのだ。
のんびりしている時間はないのだ。
「はいは〜い!じゃあさっきの半分くらいの力から〜」
「それは近すぎる!」
「えっ?」
「っ!じいじ!」
クリスは何故か行き止まりに近づいてから弓を引く。
さっきの半分の力をその距離から射ったら、どうなるか考えてから挑戦してー!
反射的にじいじの名を叫ぶと、じいじはわかっていたようですぐに結界魔法を展開する。
結界魔法が張られたのを感じた瞬間、暴風が辺りを突き抜けた。
間一髪だったみたい。
間に合って良かった。
「…はぁ〜良かった」
「いい判断でしたよ」
じいじはにこやかにそういうけど、もし判断が遅かったらお叱りを受けるパターンだったのだろうか。
やけにクリスの戦闘に何も言わないと思っていたけど、クリスの指導は私の修行の1つだったりするのかな。
それはちょっと遠慮したいけど、とりあえずそれは後から考えるとして。
「クリス…何が悪かったかわかる?」
「…あぁ!ごめんなさい!こんなことが起こるは思ってなかったのー!」
気を取り直してクリスを問い詰めると、クリスは蒼白になりながら謝ってきた。
叫ぶような謝罪にこちらが驚いて戸惑ってしまう。
そんなに強く怒ったつもりはなかったのだが、クリスにとってはそんなに怖かったのだろうか。
「怒っているわけじゃないよ?ただやっちゃいけないことをわかって欲しいだけで…」
「うん!もう少し力を抑えるようにする!じゃないとダンジョンが穴だらけになっちゃう!」
「そう、ダンジョンが穴だ、らけ?」
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