61 ソースとプリン
宿に帰るには早い時間だったので、エミリーさんのイチオシのお店に早速行ってみることにした。
聞いたお店はチキンステーキが美味しいお店で、名物は照り焼きチキンだという。
早速名物をいただくとその味に感動する。私も照り焼きチキンを作ったことあるけど、それとは比べ物にならないくらい美味しい。
タレの味も美味しいけど、一番すごいのはその焼き方だろう。
どこを食べてもパリッとした皮と柔らかい、でも噛みごたえのあるモモ肉、その2つの食感がたまらない。
皮から鳥の脂が、肉からは鳥の旨味が出てきて味わいたいのに飲み込んでしまう。
さらにご飯を一口食べればもう美味しいしか出てこない!
あぁ美味しい、本当に美味しい。本当にエミリーさんに聞いて良かった。
今度商業ギルド行くときは手土産持って、お薦めのお店を聞こう!
「あぁ〜お腹いっぱい!」
鳥のモモ肉を1枚使用したボリュームのある照り焼きだったので、その一皿でお腹いっぱいになった。
こんな美味しい焼き方は真似できない!でもちょっと惜しいな。
「照り焼きだけじゃなくて、トマトソースとかバジルソースにしても美味しそう…」
後はタルタルソースとか、ホワイトソースとかも美味しそう。ネギソースもいいなぁ。
このパリッとジューシーなチキンステーキに合うはず、合わないはずないんだから!
いくつか持ち帰れるように焼いてもらえないかな?そのままアイテムボックスに入れておけば今考えたソースをかけるだけでいつでも食べれるよね?
「すみません、持ち帰り用に何枚かチキンステーキのまま焼いてもらうってことできますか?照り焼きのみならのみでもいいんですが」
「そりゃあさっきあんたが言ったソースを付けて食べるためかい?」
店主らしき人にお願いすると逆に質問されてしまった。
意識していなかったがどうやら食べたいソースについて口に出していたらしい。
知られて困るようなことでもないので頷くと、店主は少し考え込んで頷いた。
「今そのソースあるかい?一度食べて美味しければ焼いていいぜ?」
「えぇっと、待ってくださいね」
マジックバッグを漁るフリをしてアイテムボックスからつくおきしておいたソース類を取り出してみる。
「トマトとバジルとタルタルとホワイトソースはあって、ネギソースは使ってしまって、ないですね」
唐揚げとか油淋鶏を作った時にいつでも食べられるように作っておいたソースをテーブルの上に取り出す。
ネギソースはこの間使ってしまったのでまた作り直さないと。あっオニオンソースとチリソース、レモンソースもあるからこれも出しておこう。
「あとソースじゃないですけど、今の照り焼きにマヨネーズを足しても美味しいですね!」
「はっ?」
とりあえず今持っている7種類とマヨネーズの提案をしてみたのだが、どうやら店主は成人前後の女の子がマジックバッグを持っていることと、持っているソースの種類の多さに驚いて固まってしまったようだ。
しかしそれで放置して、お肉を焼いてもらえない事態は避けたいので、バッグから追加で出したお皿にソースを注いでいく。
「ほら?食欲をそそる良い匂いですよね?似たような材料を使っているものもありますが、それぞれひと味違うので、飽きがこないですよ?」
店主にお皿を近づけてソースの匂いを嗅がせてみる。
焼き方はプロに負けるが味付けの種類の豊富さについては自信を持って提案できるからこそできることだ。
そのいい匂いに釣られ固まっていた店主は無意識にソースを指に付けて口に含んだ。
「…あの?」
「ちょっと待ってな!」
みるみる目を見開き、また動かなくなった店主に声をかけると厨房へ駆け出し、小さく切り分けられたお肉とお皿を持ってきた。
そして、テーブルの上に出されたソースを付けて次々に食べていく。
一心不乱に食べる様にちょっと引きそうになったが、不味い顔をして食べているわけではないので店主の判断が出るまで食べ終えるのを待った。
「…このソース、お前さんが作ったのか?」
「そうです!お味はどうですか?私は店主さんのチキンステーキに合うと思うんですよ!だからお持ち帰りできないですか?」
美味しければ焼いてやると言質は取れているから後はソースが美味しいと認めて貰えればいいはずだ。
祈る気持ちを込めて、そっと合わせた手を顔の前に置いて首を傾げて聞いてみる。
「もちろんいいぜ!ただしそのソースのレシピを登録してくれ!」
「登録?」
詳しく聞くとこのお店、照り焼きは焼き加減・味とも満足いくメニューが作れたが、それ以外のメニューの味が気にいらないため名物の照り焼きのみの販売になってしまっているという。
照り焼きのみだと毎日食べるのは辛いので必然的にリピーターの頻度が減っていく。首都だから人の入れ替わりが激しいこともあって今はどうにか営業できているが、このままでは飽きられてしまう可能性があると店主は感じていたようだ。
そんな不安を感じる中、新たなソースのことを口にした私に思い切ってソースの事を尋ねたのだ。まさに藁を掴むような気持ちだったらしい。
「商業ギルドに登録しなくても、店主さんだけに教えることもできますよ?」
先程商業ギルドに登録に行ったばかりなのですぐ引き返して登録するのも面倒だ。それならお店だけにレシピを開示するのは?と思って提案したのだが、店主は激しく首を横に振って否定した。
「このソースは他の料理でも応用できる!俺みたいに困っているやつもいるだろうから登録して助けてやってくれや!」
新しいソース1つ開発するだけでもとても時間がかかることを知っている店主からしたら今ある7種類のソースは魅力的ですぐ使いたいはずなのに、他の見知らぬ店の人のためにそう言われると頭が下がる。
「なに、こっちにも利益はあるんだよ。さすがに7種類全部作るのは大変だからな。弟にソースを販売してもらえたらと考えているだよ」
そうしたら弟も商売になるし、俺も助かると店主は笑う。
確かに個人で食べる分は問題ないが、飲食店が自前で7種類もソースを作るのは大変だ。
家族がそれを担ってくれるなら安心だよね。
レシピの登録は明日でもいいということだったのでそのお言葉に甘え、先に10枚以上のチキンステーキを焼いてもらい宿に戻った。
*
宿について一息いれると、ちょっと甘いものが食べたくなってきた。
しょっぱい物の後にはやっぱり甘いものだよね〜
甘いものの作り置きはしていなかったので、食べたいなら作るしかない!
今ある材料でできるのはプリンかな?クリームブリュレや牛乳プリンも作れそうだからまとめて一緒に作ってしまおう!
夕食の支度前だったので宿の空いていた厨房を借りてプリン系のデザートを複数作ると、その味が気になった宿の料理長が味見を希望してきた。
先程のチキンステーキ店でのやり取りと酷似していて嫌な予感がしつつ、厨房を貸してもらった手前拒否できなかったので、作ったものをそれぞれ1つずつ提供する。
そして試食した料理長は市販されているプリンとは違う食感と味に大興奮し、案の定レシピの登録を依頼される。
ソースを含めると20を超えるレシピを登録することになるので、商業ギルドで目立つことは必須。そのためレシピを登録することは避けたかったが、食べれば予想がつくレシピを勝手に登録されるより、作ったお前が登録しろ!と料理長は譲らなかった。
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