162 魔獣のお勉強
アンさんは精霊として生まれたから、薬草などの植物の知識はあったけど、魔獣の知識なんてあるわけがなかった。
「ということで、アンさんは最低でもこの魔の森の魔獣の勉強です!」
その日は狩りを中止して、さっさと冒険者ギルドに戻った。
狩ったところで素材にならないなら意味がないし、魔獣の勉強をするのであればギルドの資料室が一番だからね!
浅瀬で採取した薬草とゴブリンの討伐、そして中腹の辛うじて取れた魔獣の素材を納品し、すぐ資料室に向かう。
ここも懐かしい。
冒険者登録した初日にじいじにスパルタで覚えさせられた場所だ。
流石にじいじのように国内外のあらゆる図鑑を覚えさせるような鬼畜なことはしない。
「まずここの魔の森にいる魔獣から覚えていきましょう!」
「この魔の森だけでもかなりの量がありますね」
けれど取り出した図鑑を見てアンさんは引き気味だ。
この魔の森だけの情報なのに、図鑑の厚さは5cmくらいはあるもんね!
ここの魔の森は広いためか、出てくる魔獣の種類も多い。
その豊富な素材を洩れなく手に入れたいギルドは、素材の細かいところまで図鑑にまとめているためこの厚さになっているのだ。
一番貴重な素材のところには解体の手順まで記載してあるし、熱量が違う。
実際に使用している冒険者は少ないそうだが、1人でも読んで希少な部位を持ってきてもらえたらギルド的には御の字なのだろう。
「大丈夫ですか?よく行きそうな森の浅瀬から中腹に出る魔獣だけにします?」
それでも図鑑の3cmくらいはありそうだけど。
「いいえ!こういうファンタジーなものが読めるのは楽しいから大丈夫です!内容もわかりやすいですし!」
本を開いて中を見たアンさんが目を輝かせだした。
魔獣の図鑑だけど、ファンタジーっていえばそうかも?
意味は私にしか伝わらないと思うけど。
それに内容も某ゲームモンスターの図鑑みたいに整理されて書かれているから理解しやすいもんね。
まあ、だからじいじのスパルタに喰らいつけたようなものだけど。
それでもよく私、ついていけたよね。
覚えるだけとはいえ、1日でかなり詰め込まれた量を覚えさせられたもんだ。
「クリスたちはどうする?」
じいじはもちろんのこと、クリスも長年蓄えられた世界樹の知識があるだろうから必要ないだろうし。
「う〜ん、今日だけなら一緒に勉強しておこうかな?ほら、人族と知識が違う場合があるし」
あー確かにー!
世界樹の知識の方が正しい気がするけど、知られていないことを知っていると知られるのはまずいかも。
内容を精査するだけなら今日1日で終わるだろうしね。
じいじはどうするんだろう?
「そうですね…少し掃除などを行おうかと」
「掃除?」
掃除する場所なんてあったかな?
宿もほどほどグレードの高い宿だから部屋の清掃もちゃんとされていたと思うけど。
「宿の部屋ではなく、身の回りのものをキレイにしておこうかと思いまして」
身の回りのものって言っても、ぱっと見た感じでは、じいじの服に汚れは見当たらない。
今まで使った鍋とかの汚れかな?
「えぇ、こびり付いたものがございまして。1日あれば大丈夫ですので」
「そうなんだ〜おじい様ついでに何か掘り出し物があったらお土産よろしくね!」
クリスよ、掃除するだけだよ?お出かけじゃないよ?
私は首を傾げたけど、クリスはじいじを見てニヤニヤしている。
じいじは何かいいものがあればですねと言って部屋を出て行ったので、じいじには伝わっているっぽいけどどういうこと?
「クリス掃除でお土産はないんじゃない?」
「マジックバッグの肥やしになっているものがありそうでしょう〜!面白いものがあればちょうだいってことだよ」
じいじもマジックバッグどころかアイテムボックスを持っているから、忘れ去られている魔道具とかありそうだけど、クリスの言葉が意味深な言葉に聞こえるのは気のせいかな?
クリスがにやにやした顔だから、素直に受け取れないだけかな?
気になるけど、絶対知りたいわけじゃないし、そのまま勉強することにした。
クリスとアンさんが図鑑を読んでいる間は暇になるので、ワーキングルームを出してポーションを作ることにした。
ちなみに作るポーションはエルフの里のリップさんに教えてもらった解毒ポーションだ。
じいじにも教えてもらったポーションがあるのだけど効果がありすぎて、他の冒険者たちがいる前では使えないものなので。
リップさんにも驚かれる効果だったもんな〜
エルフの里で腕前を確かめるために作ったポーションを出したけど、驚いていたことを思い出す。
ドラゴンの内臓を使用しているから解毒どころか異常状態すべて癒せるポーションだったから仕方ない。
じいじ曰く症状を判断するのも、それに合わせたポーションを作るのも面倒なので全部一気に治せるものがあったほうがラクという理由だったけど。
その理由だけならラクだけどどう考えても生産コストが合わないので、リップさんに教えてもらった症状別のポーションを作って常備しておくようにしているのだ。
じいじの頭には生産コストって言葉がないからな。
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