157 精霊女王の旅支度

「じゃあ一緒に旅に行こう!」

(コクコク!)


クリスだけじゃなくてパックちゃんも女王に近づいて喜んでいる。

反対しているのって私だけ?

常識的なこと言ったよね?


「まずは準備しよう!その格好じゃ絶対に旅なんてできないし!」

(コクコク!)


女王が旅に行くのは決定事項ようで、私のことはおいてどんどん話しが進んでいく。

確かに女王の今の装いは、裾の長いドレスだ。

その格好で旅は無理だね。


「それであればこちらを」


さらっとじいじが出したのは、例の規格外の素材が使われている旅仕様のチュニックとズボンだ。

世界樹とドラゴンの素材を混ぜてあるので防御力は抜群である。

抜群ではあるのだけど、それを旅初心者に渡していいのかな。


「なんだか、とても魔力が籠もっているようですが…?」

「ちょっと魔力が強い素材を混ぜてあるから、攻撃とかされても大きな傷はならないよ!」

「そうなんですね」


じいじが出した服が尋常ではないことをすぐ察知したのはさすが精霊の女王だ。

けどクリスの言葉に疑問に思いながらもそのまま受け取ってしまった。

前世の記憶があるといえは対人経験も少なそうだもんね。

善意で出されたもの出されたものを疑うなんてしないね。


「着替えと、あとは精霊の花蜜は必須だね!」

「はあ、花蜜ですか?」

「そうそう!僕はできるだけたくさんもらいたいんだよね!元々イタズラの対価にもらおうと思っていたし」


クリスがものすごく欲しがっていた蜜だ!

けど女王の反応は芳しくなさそうだけど。

クリスがいうほど美味しいものなのかちょっと不安になる。


「花蜜は準備できますが、旅に持っていくには荷物になりませんか?…と思いましたが皆さんの持ち物は少ないですね。もしかして?」

「僕たちにはマジックバッグがあるからね!」

「まあ!」


クリスは旅に出る際に族長のリアさんからもらったマジックバッグを見せびらかすように掲げた。

女王の目は今までにないくらいにすっごく輝いている。


その気持ちはよく分かる。

前世の生きた世界が私と似たような機械が発達した世界なら、魔法の代名詞的なマジックバッグは夢みたいな道具だからね!


火とか水とか土魔法もすごいんだけど、やろうと思えば前世の機械や重機でも再現できるものはある。

火炎放射とかウォーターカッターとかパワーショベルとかでね。

けれど4次元ポケットみたいなマジックバッグは再現できていない!


「女王用のマジックバッグも用意してもらおう!それなら荷物も楽だし、花蜜もたくさん持っていけるよね?」

「まあまあ!いいんですか?」

「いくつかありますから大丈夫ですよ。ただあまり身軽すぎるのも危ないので、こちらのバッグをお勧めします」


取り出した複数のマジックバッグの中でじいじは斜め掛けバッグをお勧めしていた。

見た目が大きいからたくさん持っているように見えるし、斜め掛けならありふれているデザインだから目立たないと思うので良いチョイスだ。


「これがマジックバッグですか!手を入れても本当に底に届かないんですね」


女王は初めて手に入れたマジックバッグにはしゃいでいらっしゃる。

私も前世の記憶が戻った時に同じようなことしたな。

楽しそうで何よりです。


「外にはこんなに便利なものがあるんですね」

「あ、普通でもマジックバッグは珍しいよ?おじい様のように複数持っているのは高位貴族とか王族とかだから注意してね!」

(コクコクコク!)


おっとー?

マジックバッグを複数持っているのは高位貴族以上の人なの?

珍しいけどダンジョンとかでも手に入ると聞いていたから、そこまで希少だとは思わなかった!


パックちゃんも激しく同意しているということは知っていたんだね。

人族なのに私の知識は妖精以下なのか…。


「とりあえず持っていきたいものはいれて行こう!」

「はい!花蜜は、あなた!今ある分を全て持っていらっしゃい!」

「は、はいー!!」


おぉう!女王らしい!

女王を辞める予定なのにそんな命令していいのかと思うけど、花蜜は欲しいから黙っていよう。


「準備できたら、さっそく冒険者ギルドで身分証を作ろう!」

「冒険者ギルド…!はいすぐに!」


冒険者ギルドというワードに女王はさらに目を輝かせている。

前世ではラノベの愛読者だったのかもしれない。

時間ができたらその辺りも話せるといいな!


女王が荷造りをしている間に、イタズラ精霊が花蜜を持ってきてくれた。

クリスがガン見していたので、ちょっと味見をすることになった。


クリスは味見という量を超えてスープ皿一皿分くらい食べている。

パックちゃんも精霊の花蜜は食べれるようで一口あげると、美味しそうにクルクル踊りだした。


私も味見したが、精霊の花蜜は驚くほど花の香りが濃いのに後味がさっぱりとした蜜だった。

そのまま食べてもいいし、どんな料理でも合いそう。

こんな蜜は確かに他にないな。


それに包有している魔力が多い気がする。

これもしかして魔力回復薬にもなるんじゃ…。

後でじいじに聞いてみよう!


花蜜は甘味以外にも色々使えそうなのでマジックバッグにどんどん入れていくけど、精霊がどんどん持ってくるのできりが無い。

この量を持っていって大丈夫なのかと心配になったが、精霊にとってはそんなに特別なものではなく、すぐに回収もできるから問題ないと言われた。


問題ないのなら遠慮なくもらっていくよ!

私のアイテムボックスにもどんどん入れて保管しておくことにした。


「準備できました!行きましょう!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

間に合いました−!精霊の女王を連れての旅になります〜(たぶん)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る