付き合ってからはじめてのデート ③

 昼になり、花音と一緒に動物園の中のレストランで食事を取る。花音は終始にこにこしている。



「きー君、楽しかね」

「ああ。楽しいな」



 動物園に来るのは久しぶりだけど、楽しい。やっぱり花音と一緒に居るからより一層楽しいのだと思う。花音が自然体だし、あまり特別な日な気はしないけれど、花音がバレないように変装することもなく、こうして付き合いだして初めてのデートなので、改めて考えると特別な日なのだなと思う。



「きー君、これおいしかよー!!」



 花音はそう言いながらフライドポテトを食べている。ケチャップが口のよこについている。



「花音、ついてるぞ?」

「ん? 何が?」

「そこだ」


 そう言いながら俺はナプキンで花音の口についたケチャップを拭う。



「ありがとう、きー君!!」



 花音はにこっと笑ってそう告げる。



 そして何を思ったのか、「ねぇ、きー君もフライドポテト食べる?」と俺に問いかけてくる。



「じゃあもらう」



 そう俺が告げれば、なぜか花音は自分の手に持ったフライドポテトを俺の方に差し出してくる。



「はい、きー君、あーん」

「……えーと、花音、恥ずかしい」

「えへへー。恥ずかしがっているきー君、可愛い!! きー君が恥ずかしがってるからこそ、私はあーんをしたかと!!」



 花音の言葉にえー……という気分になる。



 花音からあーんされること自体は別に問題はない。家でやられるのならばそのままパクリとそのまま食べるかもしれない。でもなんというか、はじめてのあーんが外はちょっと俺は恥ずかしい。


 でもなんというか、花音がキラキラした目で、期待したようにこちらを見ていて……加えてなかなかあーんをしない俺に落ち込んだ風な表情を見せるから……、俺が折れることにした。



 ぱくりと花音の手からフライドポテトを食べる。



 その途端、花音の表情がぱぁああああと明るくなる。うん、可愛い。それだけ喜んでくれるのなら、ちょっとぐらい恥ずかしくてもいいかという気になる。まぁ、恥ずかしいことには変わりがないけれど。


 そしてもう俺へのあーんタイムは終わりかと思ったのに、



「はい、きー君!!」

「……まだ続けるのか?」



 何故か花音は満面の笑みでフライドポテトを差し出している。まだ俺にあーんしたいらしい。



「だって恥ずかしがってるきー君、かわいかもん!! 恥じらってるきー君、もっと見たかもん。それになんかきー君に餌付けしている気分になってこう……気持ちが高揚するというか!!」

「なんだそれ、俺で遊ぶなよ……」



 恥ずかしがっている俺が可愛いなんて言うのもよく分からないし、その餌付けしている気分になって高揚するも意味が分からない……。いや、でも確かにちょっと花音に餌付けとかは楽しそうだけど。



「花音、俺だけ恥ずかしいのはずるいだろ。花音も恥ずかしがれ。ほら、あーん」

「え」



 花音が自分からグイグイ来るのはともかくこっちから言うと照れるのはもう知っているのでやり返すことにした。というか、俺だけ恥ずかしいのもなんか嫌だし。



 フライドポテトを手にとって花音へと差し出せば、花音はちょっとだけ顔を赤くして視線をさ迷わせる。


 改めて人の多いレストランであーんをすることに羞恥心を覚えているらしい。




「ほら、花音、あーん」

「……」

「俺からのフライドポテト食べたくないのか?」

「……」

「俺は花音からのフライドポテト食べたのになぁー」



 しばらく顔を赤くして無言で固まっていた花音だが、俺がそこまで言うと、意を決したようにぱくりと俺の手のフライドポテトを食べた。



 花音の顔は相変わらず赤い。

 俺も花音にも恥ずかしがらせようとフライドポテトをあーんしたわけだが、俺も何だか恥ずかしくなってきた。



「……きー君、これ、なんか恥ずかしかね」

「……ああ」



 そして二人して顔を赤くして、そんなことを言いあうのだった。






 少しだけ恥ずかしい昼食を食べた後は、俺達はまた動物園を見て回った。





「きー君、お土産買おう!」



 昼食を食べた後、残りの動物たちを見て回ってから俺達はお土産を買うことにした。こういう動物園とかの買い物コーナーってなぜか気持ちが高揚して必要じゃないものまでいつも買ってしまうんだよな。



「かわいかねー。こがんかわいか動物グッズを家に持って帰れると思うと色々ほしくなる」

「そうだな」



 動物をモチーフにした様々なグッズがあって、花音は目を輝かせている。



「ねーねー。きー君、こういう食器買おうよ!! 家で使おう。あんね、こっちが私で、きー君、こっちね!」




 花音はそう言いながら色違いの食器を手に取る。もう買うことを決めているらしい。



「きー君、みてー。クリアファイルよかねー。なんかクリアファイルって普段使い出来そうですぐにかっちゃうんよねー」

「俺はこのライオンのを買おうかな」

「きー君、ライオンの買うと? じゃあね、私は……兎買おうかなー」



 クリアファイルは記念に俺がライオンを、花音は兎のを買うことにしたらしい。そして花音は次にぬいぐるみコーナーで立ち止まる。



「わぁ、かわいかね。こういうもっふもふほしくなっとよね」



 目をキラキラさせている花音。

 そんな花音を見て、「どれが欲しいんだ?」と俺は問いかける。




「んー、どれもすてがたいんよね。だってもふもふよ? かわいかし、ぎゅってしたら幸せな気分になりそうやんか。パンダも捨てがたかけど……んー」




 悩んだ花音は、「この赤ちゃんライオンがよか!」といった。

 なので、その赤ちゃんライオンのぬいぐるみを俺は手に取る。



「じゃ、これプレゼントな」

「え、よかと?」

「うん。俺があげたいから」



 そう言って花音に買って渡せば、花音は「ありがとう」とまた俺の好きな花が咲くような笑みを浮かべるのだった。



 それからゆうきや的場先輩、凛久さんへのお土産にお菓子もかった。ついでに自分たち用の甘いお菓子も買ったけどな。

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