俺の地元へ ⑧
花音のおかげで、俺は藍美と普通に会話が交わせるようになった。そのことを冬人と菊夜に告げれば、驚いた顔をされた。
昔の俺と藍美のことを知っている人たちは、藍美が暴走しているのを見て、俺と藍美が昔のように戻るのを諦めていたのだと思う。というより、第三者の立場だからこそ花音の話を藍美たちは聞いてくれたように見える。――それかやっぱり花音だからというのもあるだろうか。
花音の包容力というか、そういう芯の部分の強さというか、そういう花音だからこそだと思う。
「なんかきー君の実家にいると思うとうれしかー。きー君も今度、長崎一緒いこーね。私、地元にきー君連れて行きたいって思うもん」
「ああ」
俺も花音が俺の実家にいると思うと、何だか嬉しい気持ちになる。
さっきまで花音は母さんに電話していた。俺よりもすっかり母さんと仲良くなっているなぁと思った。
「花音、喜一、今日はどうするんだ? 二人で何かするなら俺どっかぶらぶらしてくっけど」
「お兄ちゃん、そがんこと気にせんでよかよー。きー君といちゃつきたか気持ちはあっけど、お兄ちゃんとも仲良く過ごしたかもん」
「まじかわいかなー!!」
花音の言葉に喜一さんはそんなことを言う。喜一さんは俺の実家にきてから特に連絡をしている様子はあまりないが、その辺は連絡とっているんだろうか。俺がそんなことを思って居たら花音も同じことを思ったらしい。
「ねー、お兄ちゃんは的場先輩とちゃんとやりとりしとる?」
「もちろん。喜一と花音の様子を教えると喜んでるぞ」
「いやいや、恋人同士なんよー? もっといちゃいちゃしーよ。それとも実はお兄ちゃんと的場先輩って結構いちゃいちゃしとる?? 私たちの前やけん、こういう態度をしているけれども、本当はいちゃいちゃしとっとやろ?」
花音の言葉に凛久さんは笑うだけである。
それにしても凛久さんと的場先輩ってどんな風に普段過ごしているのだろうか。少し気になったが、それ以上は聞かなかった。
花音は「むー、お兄ちゃんがいちゃいちゃしとるのみたかとに。私ときー君のいちゃいちゃの参考にすっとに」なんて言ってたけど。
そんな会話をした後、三人でご飯を食べに行った。
藍美とのわだかまりが消えたのもあり、前よりも地元を歩くのが億劫ではなくなっていた。
地元を出る時は、こんな風になるとは思ってなかった。藍美のことがあって、地元に帰ることは気が重くなっていて、こうして状況がめまぐるしく変わると驚いてしまう。
手を繋いでいる花音を見る。
「どうしたん? きー君」
「花音がいてくれてよかったなって思って。ありがとう、花音」
「ふふ、なんかお礼いってばっかやね? 気にせんでよかとよ? 私はきー君が大好きやけん、きー君のために何でもしたかとやもん」
そう言って笑う花音が可愛くて、俺も思わず笑った。
凛久さんには「外でいちゃつくなよ」って言われたけどな。食事をとりに向かう最中、何人か知り合いにもあった。
地元を出てからあまり地元の知り合いと連絡を取っていなかったけれど、こうして帰ってきてみるとやっぱり俺は自分が中学生まで過ごしてきた地元が好きだなと思った。
これからは時々、地元に友人たちに会いに帰ってこよう。両親も海外での勤務が終われば、また此処に戻ってくるだろうし、やっぱり俺にとっての地元は此処なんだなぁと実感した。
生まれ育った場所というのは、どこか特別な感情を抱くものだ。これからその場所になんのわだかまりもなく、ただ帰ってこれることが嬉しかった。
その後は地元で仲良かった友人たちにあったり、知り合いに会ったり、あとは藍美とおばさんも含めて食事をしたり、充実したGWだったと思う。
「楽しかったね。きー君。私をきー君の地元に連れてきてくれてありがとう。きー君こと、沢山知れて私、うれしかよー」
「俺の方こそ、ありがとう。花音がついてくれて心強かった」
「ふふ、きー君の役に立てたならよかった!」
帰りの電車に向かう最中にそんな会話を交わした。
素直な感情を口にする花音は、やっぱり可愛い。こういう花音だからこそ、俺の全部を知ってほしいなと思う。ずっと一緒に居たいと思うし、花音が俺のことを知ってくれることも嬉しいと思った。
「花音も喜一も俺もいること忘れているのか?」
「お兄ちゃんがいることわすれとらんよ! すねとっと? お兄ちゃんも仲間外れにはせんけんねー」
「俺の妹、本当かわいか!」
花音と凛久さんがそんな会話をしているのを聞きながら、俺は思わず笑うのだった。
そうして俺の高校最後のGWは終わった。
去年なんて、ゆうきと遊ぶ以外は一人でのんびり過ごしていて、ほぼ部屋に引きこもっていた。やっぱりそのころの俺が見れば、今の状況には驚くだろう。
俺自身もこんなに俺の周りが変化するなんて思ってなかった。
だけど俺はこの辺かが嬉しいと思う。
――来年には俺も大学生になって、花音も高校三年生になる。変わることはあるだろうけれども、それでも隣に花音がいてくれると思うと、その変化さえも俺は楽しみで仕方がない。
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