花音の実家 ④
「きー君、今日お兄ちゃんくんね」
花音の家にお世話になった二日後。
正直花音の家で落ち着いて過ごせるだろうか、緊張や不安でいっぱいになるのではないか、などと考えていたわけだが、思ったよりこの花音の実家は落ち着く。
やっぱり花音が隣にいるからだろうか。花音が共に居るだけで、なんだか自分の家にいるようなそんな気持ちになってしまう。
お世話になっているため、家事の手伝いは花音と一緒に行っている。栄之助さんは案外、俺と普通に話している。たまに観察されるように見られていることはあるけれど、それ以外は普通である。話しかければ言葉は少ないが、会話も交わしてくれる。
さて、そんな感じで俺は花音の実家でのんびり過ごしている。……花音の実家でこんなに自分の家みたいに寛げている事実は改めて考えると不思議だが、まぁ、良しとしよう。
今日は凛久さんがこちらに戻ってくる日である。咲綾さんは「凛久が戻ってくる日だわ」とにこにこと微笑み、栄之助さんも口には出さないが凛久さんが帰ってくるのが楽しみな様子だった。行動に出ている。
こうして家族で仲良しな様子を見るといいよなという気持ちになった。俺の家も家族仲が悪いわけではないけれど、此処まで仲良しオーラ満載というわけでもないからな。
「上林君、凛久を迎えに行かないか」
「え、は、はい」
「待って私もいきたか!!」
「いや、私と上林君で行こう」
栄之助になぜか凛久さんを迎えに行こうと誘われてしまった。花音が一緒に行きたいと口にしていたが、「まぁまぁ、花音、一緒にお留守番しましょう」と咲綾さんに言われていた。
「むー、きー君、お父さんに虐められたらいうんよ? 私がきー君を守るけんね!!」
俺に向かって、花音はそう告げる。そして次に栄之助さんの方を向いて言う。
「――お父さん、きー君、虐めたらお父さんこともきらいになっけんね?」
「……虐めないから安心していい」
花音が冷たい声で言い放って、俺は聞いていて驚いた。花音が俺の味方をしてくれるのは嬉しいが、栄之助さんがショックを受けてしまっている。
「花音、俺は大丈夫だから」
「きー君。気を付けてね。いってらっしゃい。私まっとけんね?」
「ああ。いってきます」
花音に笑顔で見送られ、俺と栄之助さんは花音の家を出て駅へと迎えに行く。
俺と栄之助さんは駅に向かって歩いている……その間に会話は今のところない。
「……」
無言のまま歩くというのは、気まずいものだ。駅までの距離はそこまでない。凛久さんを迎え入れれば、きっとこの気まずい雰囲気はなくなるだろう、と俺はそんな風に期待をして、歩く。
「上林君」
「はい……」
無言が続いていたかと思えば、栄之助さんに話しかけられた。急に話しかけられて正直驚く。
というか、二人で会話を交わすのはこの数日なかったから、緊張してしまう。
「……上林君は花音のことをどう思っているんだ」
「……仲が良い後輩ですね。俺は花音と居ると楽しいですね」
「そうか」
栄之助さんの問いかけに答えれば、栄之助さんはその後無言になった。
栄之助さんは、花音や咲綾さんたちと違って、結構口数が少ないなぁと改めて思った。
やはり緊張はするものの、栄之助さんは俺のことを心から嫌っているわけではないだろう。というか、本当に俺が栄之助さんにとって目に余る行動をしたなら追い出されただろうな。栄之助さんも一緒に過ごした感じは有言実行するような存在だろうしなぁ。
そんなことを思いながら駅で二人で凛久さんを待つ。
……流石に栄之助さんと一緒にいる間にスマホをいじるのも悪いか、などと思っていたのだが、スマホが震えた。
「見ていい」
栄之助さんにそう言われたので、スマホを見れば花音からの連絡である。
『きー君、いじめられとらん?』
『大丈夫だ』
『本当? いじめられたらいうんよ。私がお父さんを退治すっけんね』
花音は何を言っているんだか、と思いながらも花音らしいなぁと笑ってしまう。
「花音か?」
「はい」
「……本当に仲が良いな」
栄之助さんは何か思案するような素振りでそう言う。
そんなこんな話していれば、「父さん、喜一」と凛久さんがやってきた。
「凛久さん、久しぶりです」
「凛久、おかえり」
「ただいま」
凛久さんはにこやかに笑って俺達の元へやってきた。
凛久さんが戻ってきて嬉しいのか、栄之助さんは凛久さんが戻ってきて嬉しいのか静かに微笑んでいる。花音とは違って、全身で嬉しい!! を表現する感じではないけれど、栄之助さんは表情で分かる。
「喜一、家では落ち着けてるか?」
「はい。咲綾さんも栄之助さんもよくしてくれていますから」
「……私はよくはしていない。普通だ」
「いや、父さんが花音が連れてきた男追い出さないだけでもよくはしているだろう」
「凛久……」
何だか凛久さんがそんなことを言って、栄之助さんに小さく睨まれていた。
「喜一、このあたりに美味しいラーメン屋あるんだ。いかないか?」
「行きたいです」
凛久さんにラーメン屋さんに誘われたりしながら俺達は家へと戻るのだった。ちなみに栄之助さんは時々会話に混ざっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます