花音の実家 ③

「花音、喜一君、昼ご飯を食べに近くのファミレスにいきましょう」

「ファミレス!! 私、ファミレスいくん、久しぶりやけん楽しみ!! きー君とファミレス初めて!!」

「はい」



 咲綾さんがにこにこと笑って、俺達にファミレスに行こうと誘ってくれる。栄之助さんが無言なのは恐ろしいが、そのまま外に出て車に乗った。運転は栄之助さんがしてくれるようだ。助手席に咲綾さんが座って、後ろに俺と花音が座る。



「きー君、あんね、学園の近くにはなかけど、向こうでよくいっとったファミレスこの近くにあるんよ。なんかやっぱ長崎とこっちやとあるファミレスも違うから、なれんとよねー。一人暮らしだとファミレスとかあんまいかんし」

「そうなのか?」



 俺は逆に九州には行ったことがないので、俺はそのあたりはよく分からない。でも確かに住んでいる場所が違えば、色々違うというのは聞いたことがあるけれど。



「そうよー。九州発祥のファミレスらしくて、こっちなかとって。向こう沢山あったけん、こっちにそんななかって知ってびっくりしたんよね。学生たちの憩いの場みたいになっとった場所がなかとねーって。逆にこっちのファミレスの名前聞いたことなかったけん、なんの店やろーって思いよった」



 確かに全然知らない名前のお店を聞いたら、一瞬何のお店か分からなくなるかもしれない。そんな会話をしながらファミレスに辿り着いた。



 そのファミレスは俺が全然知らない名前だった。ここのファミレスが花音にとってはなじみ深いものらしく、花音はにこにこと笑っている。……花音と仲よくしていると、栄之助さんの視線が痛い。咲綾さんの手前か何か言われることはないけれど……。



 ファミレスの中に入って、俺と花音が隣同士に座り、栄之助さんと咲綾さんが向かいに座る。


 花音の実家に滞在する分のお金は多めに母さんにもらっているとはいえ、あんまりお金を使いたくはない。そこまで高くない値段で、選ぼうと決めた。



 のだが……、



「喜一君、遠慮せずに頼んでいいのよ。お金は払うから」



 などと咲綾さんに言われてしまった。



「いや、でも……」


 流石にそれはと思っていると、



「子供が気にするな」



 と栄之助さんにも言われてしまった。



 栄之助さんとしても、俺の分は払う気満々らしい。



「きー君、気にせんで良かったい。私が散々お世話になっとーけん、どんどん食べてよかよ」



 花音にもそうにこにこと笑われ、咲綾さんも微笑み、栄之助さんには断らないよな? と視線を送られる。そのため俺は断れず、もう開き直って食べることにした。

 流石に暴食って程は食べないけど。




「きー君、私これたべる!! きー君はなん、たべっと?」

「んー、これかな」



 花音が選んだのはグラタンである。グラタンもおいしそうだよなぁ。俺はランチメニューを頼むことにした。ハンバーグ定食である。ちなみにドリンクバーも頼んでくれた。


 花音は無邪気に笑って色々混ぜ合わせて飲んでいた。



「ねーねー、きー君、これおいしかねー」

「そうだな」



 俺が花音と話していると栄之助さんからじーと見ていて話しにくい部分もあった。



 けど咲綾さんが、「栄之助さん、おいしかー?」とにこにこと聞いていて、そちらに視線を向けた栄之助さんは優しい表情を浮かべていた。


 それにしても咲綾さんもやっぱり方言出るのだな。やっぱり咲綾さんと花音は流石母娘というべきか似ている。



 食事を取り終えれば、そのまま栄之助さんの車に乗って、花音の実家に戻った。

 家に泊まらせてもらうわけだし、昼ご飯も支払いをしてくれたので、その分手伝いなどをしようと家に戻ってから咲綾さんにお手伝いを申し出た。



 何故か花音も「きー君がやるなら、私も―」と言いながら俺の傍にやってきたので、二人で咲綾さんの手伝いをした。栄之助さんも「俺も手伝うか」と言っていたが、「大丈夫よ。三人で出来るけん」と言われていた。ちょっと寂しそうだった。

 そんな栄之助さんを見て、咲綾さんは俺と花音に洗濯物を干すのを頼むと栄之助さんの元へ向かった。



「お母さんとお父さんイチャイチャしたかみたいやけん、きー君は私と仲良くお手伝いやろ!! お父さん、いつも働いてくれとっけん、休みの時はゆっくりしとってほしかってお母さんも思っとるし」

「ああ。一緒にやろう」




 それにしても花音の両親は、俺という他人がいる前でも結構仲が良い様子を見せている。それは咲綾さんがグイグイ行っているからだと思うけど。

 俺の両親は仲は良い方だけど、こんなにイチャイチャはしてないなとそんなことを思った。



「きー君、どがんした?」

「ちょっと両親の事を考えただけだ」

「さびしかとー? 大丈夫よ!! 私がきー君の傍におっけんね」



 なんというか、こんな風に笑う花音を見ると、寂しさなんて感じる暇もないよなと思わず笑ってしまうのだった。




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