花音の実家 ②
花音に実家の中を案内してもらった後は、俺は花音に連れられてリビングにいる。
リビングには花音のお母さんである咲綾さんと、お父さんである栄之助さんもいる。俺はひとまずお土産として東京から買ってきたお菓子を差し出す。
「わざわざありがとう。皆で一緒に食べましょうね」
「……もらおう」
咲綾さんはにこにこと笑ってくれたが、栄之助さんはそれだけしか口にしない。やっぱり俺のことが気に食わないのだろうというのは想像が出来た。
凛久さんは凛久さんの方から俺と話す時間を設けてくれて、それで結果として仲良くなれたが……栄之助さんは俺と進んで話そうとはしない。それでいて俺が花音に何かしないかと思っているのか、じっとこちらを見ている。
鋭い眼光でじっと見られるとちょっと落ち着かない。
「お父さん、なんばきー君をじっとみよっとよ!!」
「なんでって……こいつが花音に何かしないかを見ている」
「なんもすーわけなかったい。きー君は優しかとよ? お父さんはきー君がどうみえとっとよ」
「いや、しかし……男は狼なんだぞ」
「お兄ちゃんもそがんこといいよったけど、結局きー君のことみとめとっとよ? お父さんもあきらめーよ。きー君はよか男ったい。お父さんも気に入るはず!!」
じーっと俺のことを見ている栄之助さんに、花音が突っかかっている。栄之助さんの声は距離があるから聞こえないが、花音の声は大きくて丸聞こえである。
「花音は本当に喜一君のことが大好きなのねぇ。喜一君、栄之助さんがごめんなさいね」
そう言いながら気づけば咲綾さんが俺の隣に腰かけていた。
テレビの前のソファに咲綾さんと二人並んで座っている。花音と言い、咲綾さんもなんというか、簡単に距離を縮めてくる。そういう所、花音に似ていると思う。
「いえ、気にしないでください。俺も栄之助さんの立場ならなんだこいつってなると思います」
「あらあら、そうなのね。それにしてももっと砕けた口調でいいのよ? 花音と仲よくしてくれているっていうのならば私も仲よくしたいもの」
「ええと……そうはいっても」
やっぱり花音にそっくりだと思う。それにしても咲綾さんは黒髪の美人さんで、将来花音もこんな大人になっていくのかなと想像出来た。
「お母さん!! なん、きー君、こまらせよっと。それにお母さんはきー君と距離ちぢめんでよかとよ? 私がきー君と一番仲良しなんやけん。私より仲良くなったらやーよ!!」
「あらあら、ごめんね。花音。でも安心していいわよ? 花音の喜一君はとらないからね?」
いつの間にか近くに来ていた花音と咲綾さんがそんな会話を交わす。咲綾さんはその後、「栄之助さんの所行くわね」と口にして栄之助さんの所へ向かった。栄之助さんは何処か、落ち込んでいるように見えた。花音が色々言ったからだろうか。
「きー君、私ともっと仲良くしよう!!」
「相変わらず何に張り合っているんだ、花音は」
「だってきー君と一番仲良しなんは私やもん!!」
「咲綾さんと栄之助さんと仲よくしたとしても俺と一番仲良しなのは花音だから別にいいだろ」
本当に今の所、俺が一番仲良しって言えるの花音だろう。本心からそう口にしたら花音は「よね!! 私ときー君は仲良し!!」と嬉しそうに笑っていた。
それにしても花音の実家にいるというだけで落ち着かない気持ちになるけれど、花音が普段と変わらない笑みを浮かべてくれているといつものような感覚になってしまう。
花音と特番のテレビ番組を見る。今日見ているのは大食い番組である。小さな体でどんどん口の中に含んでいく様子は圧巻である。
「きー君、すごくなか? 私と身長とかかわらんとにこんなに入ってこがんほそかとかびっくりやね」
「そうだなぁ。何処に入っているのか不思議だな」
「あ、でもさ、巨大パフェとかならきー君と二人で食べるとか楽しそう。こがん量はたべれんけど、そんくらいやったらいけるかも」
「それもありかもな。大きなパフェとか出しているところあるもんな」
「近くにあったらいきたかよねー。デートしよーよ、きー君、デート!!」
テレビ番組を見ながら花音が話しかけてきたので、いつも通り話していたら後ろからこほんっという大きなわざとらしい咳が聞こえてきた。
その咳の主は栄之助さんである。
「……花音と上林君は恋人ではないのだろう。デートではないだろう。そして二人とも距離が近い」
などと言われてしまった。
……よく考えればいつも通り、俺と花音って今もほぼくっついているってぐらいの距離で隣り合ってテレビ見てたからなぁ。花音はグイグイくるし。
流石に離れた方がいいかと少し花音と距離を置くと、花音がその分距離を縮めてくる。
「花音……? 縮めたら意味がないだろ」
「離れる必要なかもん!! お父さんのことはきにせんでよかよ」
「いやいや、栄之助さんの目が怖いから」
「大丈夫。お母さんがお父さん止めてくれっし、私もきー君のことを守るもん!!」
結局そういう花音に押し負けしていつも通りの距離でテレビを見ることになるのだった。
栄之助さんからの視線は痛かった。
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