花音の実家 ①

「きー君、此処が私の実家よ!!」



 花音の実家の最寄り駅に辿りついてから、俺は花音に手を引かれてとある家の前に来ていた。

 昔ながらの日本家屋と言った雰囲気の、瓦の乗った家。それが元々花音の祖父母の家であった、今の花音の実家らしい。



「大きいな……」

「大きかよねー。元々おばあちゃんとおじいちゃん家やったんよ」



 花音がそう言いながらにこにこしている。俺は花音の実家が目の前にあると思うと緊張してしまう。



「緊張せんで、よかよ。いこ!」



 花音はそう言うと、俺の手を引いて、ピンポーンとチャイムをならす。中から「はーい」という女性の声が聞こえる。花音の母親だろうか。俺は流石に初対面の花音の母親の前で手を繋いだままはどうかと思って、手を離す。花音が少しだけ寂しそうな顔をしていたが、仕方がない。



「あら、花音、おかえり! それが花音のきー君?」




 そして出てきた女性は、花音によく似た黒髪の綺麗な女性だった。



「初めまして。上林喜一です。年末年始にお邪魔することになり、すみません」

「私は天道咲綾(てんどうさあや)よ。よろしくね。全然気にしなくていいわ。花音がいつもお世話になっているわね。ありがとう」



 微笑む姿は花音に似ている。



「さ、きー君、どうぞー!! あ、お母さん、お父さんおる?」

「栄之助さんならいるわよ」



 ……花音の母親はともかくとして、花音の父親は花音を可愛がっていると聞いているし、あったら何を言われるのだろうかとそんな不安にさいなまれる。

 花音はそんな俺の不安を感じ取ったのか、俺の顔を見て笑う。



「きー君、心配せんでよかよ。お父さんがきー君虐めるって言うんやったら私がきー君を守るけんね」

「大丈夫よ、喜一君、栄之助さんは怖くなかよ」



 咲綾さんも花音に引きずられてか少し方言が出ていた。父親の実家が此処と言っていたので、父親以外は方言が出るのだろう。


 花音と咲綾さんと一緒に家の中へと足を進める。リビングに、一人の男性がいた。その男性は俺達がやってきたことに気づいたのだろう。顔をあげてこちらを見る。何処か凛久さんに似ている。



「お父さん、ただいま!! お父さん、こっちがきー君よ!! 私と仲良くしてくれとる先輩やけん、お父さんも仲よくしてね!!」

「おかえり、花音」



 その男性は、花音に向かって優しくそう告げ、俺の方を見る。俺を見る目が少しだけ鋭い。



「君が上林君か」

「はい。上林喜一です。お邪魔します。しばらくよろしくお願いします」

「……ああ。私は天道栄之助だ」



 逆にその簡単に受け入れている風な部分が怖い。凛久さんのように色々言ってくるかと思っていたが、花音の父親の栄之助さんはそれだけしか口にしなかった。じっと俺を何か言いたげに見る。



「もー、お父さん、いいたかことあっとやったらいいーよ!!」

「……上林君、花音を傷つけたら許さないからな。この家で何かやらかしたらすぐにおいだす」

「お父さん!! きー君は、優しか人やけん、そんなことせんとよ。お父さんがそがんこといって、きー君に私が嫌われたらどがんすっとよ!! 私はきー君に嫌われたくなかとやけん、お父さんもきー君に優しくせんとよ!!」



 何かしたらすぐにおいだすなどと言われ、その眼光の鋭さにびくりとしていたら花音が栄之助さんに文句を言っていた。栄之助さんは花音の言葉にショックを受けた様子を浮かべる。



「きー君、私ん事、嫌いにならんでね!!」

「大丈夫だ、嫌いになったりしない」

「やったら、よかった!! よし、きー君、家ん中案内すーよ!!」



 栄之助さんのことは放っておいていいのだろうかと思うが、花音はそんなことを言いながら俺の手を引く。

 栄之助さんは咲綾さんに慰められているようだ。



 まずは客間を案内された。俺は此処で眠る形になるらしい。花音は「私ん部屋でもよかとけどね」と言っていたが、流石にそれは駄目だろう。まぁ、花音が寂しいと言ったら家族全員で布団を敷いて一緒に眠ったりも今回もするだろうって花音は言っていて、「その時はきー君も一緒やけんね」などと言われてしまったが。



 その客間に荷物を置いて、花音に手を引かれながら花音の実家を案内された。花音は終始、嬉しそうな表情を浮かべていた。



「きー君が実家におるってよかね。きー君がおるってだけで今年の年末年始は楽しかって決定しとるもん。きー君、実家にお持ち帰りさせてくれてありがとー!」

「俺こそ一人で過ごすところを実家に連れてきてくれてありがとう。おかげで楽しく過ごせそうだよ」



 花音は俺にお持ち帰りさせてくれてありがとうなどというが、俺の方こそお礼を言いたくてそう告げる。そうすれば花音はまた花が咲くような笑みを溢すのだった。

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