文化祭①
「喜一、今日は頑張ろうな」
「ああ」
ゆうきに声をかけられて、俺はそれに答えた。
今日は文化祭当日。うちの学園の文化祭は二日間行われる。凛久さんは明日、こちらにやってくるという話だった。
本当は二日とも来たいけれどという嘆きの言葉がスマホに届けられていた。今回も花音の写真を欲しがっていたので、今回はゆうきに事前に頼んである。
したがって俺が花音の劇を見に行くのは明日である。
家での練習はともかくとして、学園での本格的な練習は一度も見学していないので、本番の花音の劇画どれだけの劇なのかとひそかに楽しみだったりする。こういう事には本格的に取り組む花音はきっと凄い演技をするんだろうなと思うし。
花音の劇は、二日間で五回ほど公演される。今日二回公演、最終日の明日は三回公演らしい。そこそこ長い劇みたいだし、花音は大変だと思う。なので、今日と明日も疲れている花音のために花音が好きな料理を用意しようと思っている。
もしかしたら体育祭の時と同様に打ち上げがあるかもしれないけど、クラスの打ち上げには参加せずに花音を労わろうかなと考え中だ。多分、花音もそういうのには参加せずに家に帰りそうだし。
今日は俺は花音の劇の時間はがっつりチョコバナナを売るための接客をする予定である。花音はそのことを知って「きー君がチョコバナナ売ってるときに買いにいけないじゃないですか!!」と文句を言っていたが、明日は花音の空き時間に俺の接客があるので買いにくると言っていた。
まずは朝から俺はチョコバナナを準備したり接客をすることになっているので、やるからにはきちんとやる予定だ。
最初に開会式が行われる。そのため、俺とゆうきはクラスメイトたちと一緒に体育館に向かった。体育館には椅子がずらりと並べられている。ちなみに花音の劇もこの広い体育館で行われる。
人気者の花音が主役の劇なら体育館で問題がないということになって、この場所がもぎ取られたらしい。
席に着くときに花音の姿が見えた。いつも通り花音は周りから視線を浴びている。俺のクラスのクラスメイトたちも「花音ちゃんのお姫様きっと似合うよな」「天道さんの劇楽しみ」とそんな声をあげている。
なんだろう、朝から俺の家にやってきて「きー君、きー君、私頑張りますからね!! 私の劇の本番はきー君とお兄ちゃんが見に来てくれる明日ですからねー!! 頑張ったら褒めてくださいね」などと元気よく声をあげていた花音と、今の大人しい花音はやっぱり同一人物かと疑いたくなる時がある。
やっぱり静かな花音よりも、元気で楽しそうな花音の方がいいよなと俺は一人で思ってしまう。でも確かに聖女様みたいだってキャラ付けされていたらそれを壊すのも勇気がいるよな……、それに花音みたいな見た目が良い美少女がとっつきやすい性格だと知られたらややこしいだろうし。
「ではこれから第××回文化祭を――」
そんな挨拶から開会式は始まる。学園長の挨拶、生徒会長の挨拶……と続き、なんだか眠くなってくる。ただこういう場で寝るのは嫌なので頑張って起きていたが……。
もう少しこういう挨拶が面白ければいいのにと思う。素の花音がやったら面白いだろうなとかそんな馬鹿みたいなことを考えてしまった。
隣のゆうきもうつらうつらと眠そうで、他の生徒たちも一部、真面目で長い生徒会長の言葉に眠たそうだった。
というか、あれだよな。確かこの生徒会長もよく花音に話しかけているんだよな。
花音のファンクラブの連中も生徒会長なら許せるとか言っているらしいし。噂に疎い俺もそういう噂は知っている。……まぁ、美形だし、生徒会長やってて、モテモテな人だしなぁ。同じ男である俺でもかっこいい人だなという気持ちはある。
本当に俺が花音と仲よくしているって知られたらどうなるんだか……と恐ろしい気持ちになる。花音のファンクラブの筆頭の下級生とか中々、煩い人らしいし。
そんなことを考えていれば、気づけば開会式は終わっていた。
開会式が終わったあとは、早速チョコバナナを売るための準備をしなければならないので俺もゆうきも大忙しである。
屋台を設置している場所から近い、第一調理室を借りて俺はチョコバナナの準備をする。どのくらい売れるかは分からないが、やるからには売れればいいなと思う。
「上林君、永沢君、今日は頑張ろうね」
ちなみに明知も同じ作業の担当だった。
そんなわけで俺は彼らと共に黙々とチョコバナナを作ったり、トッピングをつけたり……と進めていくのだった。
それにしても売るために用意されている俺のクラスのチョコバナナは美味しそうだ。
俺も担当じゃない時間帯に来て、自分のクラスのチョコバナナも買おうかと思っている。
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