文化祭前日


「じゃじゃじゃーん!!」




 文化祭の前日、家に戻ればもう花音が俺の部屋にいた。

 ガチャと俺が扉を開けて中へと入れば、「おかえりなさい」という言葉もなく、玄関に現れた花音。




 花音は美しいドレスを身に纏っていた。

 白と薄い桃色の、薔薇の装飾のついたドレスは、ふんだんにレースなどがつけられていて、キラキラした石――ビーズのようなものがついている。

 頭につけられたティアラも美しく、花音に良く似合っている。



 俺の家に異世界のお姫様が迷い込んできた……って、そんな気分になるほどだった。あと花音、カラコン入れているのか目の色が緑色だし。

 思わず見惚れてしまって、固まってしまう。




「あれ、きー君? まさかの無反応ですか? 私、超可愛くないです? もしかしてきー君の好みとは違います?」

「いや、違う。見惚れてただけ」

「見惚れて……」



 思わず口にしてしまった言葉を花音は繰り返して、一気にカァアアと顔を赤くする。そしてプイッとそっぽを向く。

 花音は俺の言葉に照れたらしい。自分で感想を聞いておいて、俺が素直に口にしたら恥ずかしがるなんてと俺は思わず笑ってしまう。

 笑っていれば、花音はこちらを見て、むっとした顔をした。




「きー君、何を笑ってるんですかー!!」

「いや、自分で聞いといて恥ずかしがって花音は可愛いなって」

「きー君!! 私の事、からかってるでしょ!!」



 ぷんぷんしている花音と一緒に、家の中へと入る。ソファに俺が座れば、その隣にドレス姿のまま花音が腰かける。




「それで、その服は明日の文化祭で着る服か?」

「そうですよー。超似あってるでしょう? きー君に本番前に見せたいなーって思って持ち帰っていいか交渉して持ち帰ったのですよ。このドレス、クラスの子たちが一生懸命作ってくれたんです!! 私に似合うものを!! ってすごい気合を入れて作ってくれて、私、凄い感激しましたもん」



 えへへと嬉しそうに笑いながら花音はそんなことを言う。



 わざわざ俺に見せようと思って、持ち帰るとは凄い手間だと思うんだが……。でもまぁ、よっぽど花音は俺に見せたかったのだろう。



 やっぱりなんというか、玩具を持ってきて褒めてほめてと言っている犬とかが連想される。



 それにしても文化祭でこれだけ気合を入れて衣装を作るって、やっぱり花音がクラスメイトたちからそれだけ好かれているって証だよなと思う。嫌いな人の衣装のためにこれだけ気合を入れないだろうし。近くで見れば見るほど手の込んでいることが分かるドレスだ。




「そうだな。凄い花音に似合っているし、良い出来だと思う」

「ですよねー。クラスの子たち、私に似合うようにって話し合いしてましたもん。私は可愛いですからどんなものでも似合いますけど、こうして私に似合うことを考えられて作られたものを着れるっていうのは良いですよねー」



 花音はにこにこと笑いながら、ソファから立ち上がる。




 そして俺の方を向いて、



「きー君、撮影会しましょーよ!! 私の写真を撮ってくださいよ!! あときー君とも写真を撮りたいのですよ!!」


 そんなことを言う。



「はいはい」




 俺は撮ってほしいと目を輝かせる花音の要望に応えようと立ち上がってスマホを手に取るのだった。

 あれだな、スマホの容量の問題もあるし、こんな風に花音の写真をどんどん撮るならカメラとか有った方がいいだろうか? まぁ、それだけ花音の写真がたまるほど花音と一緒にいるかどうかは分からないけど。



「きー君、どうです? このポーズ、凄い高貴な感じしません?」



 などと、台詞はいつも通りだがその後の表情やポーズは本当にお姫様のような高貴さがあった。なんというか、花音は形から入るタイプだからよっぽどお姫様らしくあろうと勉強したんだろうなとは思う。



 その努力がうかがえるのを見ると花音の願いを聞いて、花音が望むように写真を撮ろうと思った。

 


 それから花音の写真の撮影会をして、花音と劇の練習をした。夕飯を食べる頃には花音はドレスから普段着に着替えていた。……でも戻るのが面倒だからと俺の家で着替えるのはどうかと思った。

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