お出かけ②

「きー君、この鍋どう思います?」



 花音は鍋をかかげて、俺に見せてくる。ちなみに花音は鍋を見ることで一生懸命なので、先ほど買った漫画は俺が全巻手に持っている。

 花音が見せている鍋は、ピンク色の見た目で、一人暮らしには大きすぎる鍋である。二人でも大きいかもしれないと思う。



「二人でも大きくないか、……かのちゃん」

「そうですか? 大きい方が大量に作れるじゃないですか。そのまま冷蔵庫に入れて温めればしばらくは食事を作らなくて済むんですよ。あ、それともきー君はずっと食べていると飽きる方ですか?」

「いや、カレーは好きだし、飽きないが」

「ですよねー。カレー美味しいですもんね。私も全然飽きないですよ!! まぁ、飽きたら何か買うか作ればいいですしね!! あと大きくても問題ないです。私は結構食べますよ」



 花音はただカレーを作るというだけなのに、心の底から楽しそうに満面の笑みを浮かべている。


 花音の笑みを見ていると、大きくても問題ないかと思った。作り過ぎたら作りすぎたでそれは良いかと結局大きな鍋を割勘で購入した。

 その鍋を持って、食品コーナーに向かう。そして食品コーナーでカレーの具材を二人で買うことにする。



「花音は甘さはどのくらいがいいのか?」

「私は辛いのは駄目なので、中辛か甘口ですね。どっちがいいです?」

「じゃあ、中辛にするか。具材は? 俺は大体箱に書いてあるのしか買わないけど」

「私もそうですね。あんまりこだわりの食材は入れたりしませんね。とりあえず、どうしましょう? お肉はどうします? 私は牛肉でも、肉団子でもウインナーでもなんでも好きなんですけど」

「そうだな。俺もどれでも好きだけど、……かのちゃんが食べたいのでいいぞ」



 それにしてもやはりかのちゃんと呼ぶのはなんとなく呼びにくいものだ。学園が近いから知り合いがいないとは限らないしな。今の花音の姿を見て、学園での聖母様のような花音と結びつかないだろうが。



「んー、じゃあ肉団子にしましょう!! 安いですしね。今度作る時は違うお肉にしてみましょう。色んな味を楽しんでいきましょうね!!」

「ああ」



 花音は籠の中へとカレーの材料を入れていく。



「きー君、飲み物も買いましょうよ。あとお菓子も」

「ああ。そうするか」

「チョコレートがちょっと安いですね!! お菓子が安いと嬉しい気持ちになりますよね。私、買い物も好きなんですよね。美味しそうなものを見つけたり、安く売られているだけでも幸せな気持ちになりますし!! それに今日はきー君と一緒にお買い物ですからね!! 凄く楽しいですよ」


 花音はそう口にしながら、お菓子や飲み物も買い物籠の中へと入れていく。



「きー君、これ美味しそうじゃないですか?」

「美味しそうだな」

「じゃあこれも買いましょう!!」



 花音は俺との買い物が楽しいのか、機嫌よくどんどんお菓子を入れていく。結構な量になっている。俺もお菓子が好きだし、二人で食べればすぐに減ることだろう。

 マスクと眼鏡をつけて顔はほとんど見えないのに、雰囲気や話し方から花音がうきうきしているのが分かる。



「あ」



 スキップでもしそうなほどに軽い足取りで、うきうきと前を歩いていた花音は足を踏み外す。なんとか手を引いてこけるのを支えた。

 はしゃいでいてこけそうになってしまったようだ。



「うぅ……きー君、ありがとうございます」

「ああ。花音はちょっと落ち着こうな」

「はい……。きー君との買い物が幾ら嬉しくてももっと平常心を持ちます!!」



 花音はキリッとした顔でそう言ったかと思えば、深呼吸をした。買い物をするだけで何でそんなに嬉しいんだか……と思ってしまうものの、それだけ喜んでくれるのを見るとこちらも嬉しくなる。

 花音はそれからなんとか自分を落ち着かせたのか、それ以降こけることはなかった。何故か興奮しないようにか、声も小声になっている。



「きー君、会計しましょう!! とりあえず私が会計しちゃいますねー。レシートもらうので、半額、あとで払ってもらっていいですか?」

「ああ」



 花音と一緒にレジに並んで、店員さんに商品を読んでもらう。ピッピッという音と共に、画面の金額が徐々に上がっていく。

 うん、結構な量を買ったからそれなりの料金になっているな。一人で買うときは此処まで沢山お菓子も買わないからな。


 会計を終えてから、二人で袋に詰める。

 詰め方がちょっと変になって、入れ直しをしたりもしてしまった。たまに上手く入れられないんだよな。




「じゃあ帰りましょう、きー君」

「ああ。……かのちゃん、重くないか」

「問題ないですよ。コミックスや重いものはきー君がもってくれてますし。寧ろ重いなら私も持ちますよ」

「いや、俺は大丈夫だ」


 そんな会話をしながら、帰路につくのであった。



「家に帰ったらすぐにカレー作りますか?」

「あー、それもいいけど食材の残りも冷蔵庫にあるからな。夜にカレー作ってもいいけど。どっちがいい?」

「んー、どっちでもいいですね。でもとりあえず帰ったら漫画読みたいです」



 カレーを昼に作るか、夜に作るか。

 俺はどちらでも構わない。花音はとりあえず先にコミックスを見たくて仕方がないらしい。



「じゃあ、帰った時の気分で考えるか」

「ですねー。それでいいです。うふふ、考えたら本当に『煉獄戦記』を読むのが楽しみです。きー君も私が読み終えたら読んでくださいね。面白い作品だって予感がビンビンしているので、読んだらきー君と語りたいんですもの」

「ああ。俺も気になるから。かのちゃんの後に読む」



 花音は面白いものに出会ったら、すぐに語りたいと思っているらしい。俺も気持ちはわかる。面白いものに出会ったら語りたくなるものだよな。

 というか、結局花音は特に口調変えてないな。でも見た目が違うから大丈夫だろうけど。



 そして花音と一緒に家へと到着する。荷物の少ない花音が鍵を開けて中へと入る。俺もそれに続くのだった。


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