バレンタインの翌日 ①
「きー君!! おはよ!!」
バレンタインの翌日、土曜日の朝から花音の元気な声が聞こえてくる。眠たくて、俺は中々目を覚ませない。
「えへへー、きー君の寝顔かわいかねー」
頬に何かがあたる感覚がする。花音の嬉しそうな声に俺は目を覚ます。
「きー君、おはよー」
花音がふにふにと俺の頬を指でつついていた。そして何処までも優しい笑みを浮かべる。幸せそうな、全てを許すような優しい笑みだ。
寝ぼけていた俺はその笑みにはっと目を覚ます。
「花音……おはよう」
「きー君、ねぼけとーね? 朝ごはんつくっけん、顔あらってきー」
起き上がって、ベッドに座った状態になった俺の頭をなぜか花音は撫でた。そしてそのまま台所に向かっていく。
俺はパジャマのまま起き上がり、顔を洗う。というか、花音、洗面所のタオルとかも変えてくれてた。
「ふふふふふ~ん♪」
花音はアイドルもののゲームの歌を歌いながらご機嫌な様子を浮かべている。
花音の用意してくれた朝食を食べる。今日は卵とハムを使った朝ごはんである。
「ねーねー、きー君、今度さ、お揃いの食器とか買いにいかん? 折角、一緒にご飯たべとるし、お揃いとかほしかなーって。ほら、私たち恋人になったわけやし」
にこにこと笑いながら花音が言った言葉にそうか、昨日告白して恋人になったんだよなぁと自覚した。
花音を好きだと気づいたのも、花音の告白したのも、そしてそれを花音が受け入れてくれたのも――あまりにも俺たちの関係がいつも通りで何だか夢心地な気分になっていたけれど、俺と花音の関係は昨日確かに変わった。
それにしてもそういうお揃いが欲しいと言っているのも花音は可愛いと思う。
「そうだな。俺も色々そろえたい」
「てかきー君、うちん家の食器とか使うやつとかこっちもってきてもよか? どうせ、私ずっときー君家におっし!!」
「うん。まぁ、花音が困らないならいいけど。でも花音の家で食事を取ることもあるだろ」
「そうやねー。あ、そうだ、きー君さ、うちん家きーよ!! うちん家できー君のこともてなしたかもん。よか?」
「花音がいいなら」
花音の家に行っていいなら俺は喜んで行くだろう。花音がどんな部屋で過ごしているかも気になるしな。
「いいにきまっとーやん!! いつでもきーよ!! 寧ろ、私はきー君が朝からうちん家に来て、おきーよ!! っていっても全然幸せよ!!」
「……花音、俺のことを信頼しすぎじゃないか? 警戒心は大事だぞ」
「きー君ならよかもん。というか、きー君は私が嫌がることせんやん」
昨日恋人になったとはいえ、そんなに簡単に家に行ってもいいのだろうか……思ったが、花音は俺を信頼しきっているらしい。まだ使ったことはないけど、花音の家の鍵を持っているから俺も花音の家、入り放題なんだよな。花音が来てほしいって言わないといくつもりはないけれど。
「というか、恋人になったんやけんチューとかすー?」
「ぶっ」
「わっ、きー君、大丈夫?」
急に花音に言われた言葉に思わず飲んでいたリンゴジュースを噴き出してしまった。花音が慌てたようにティッシュを持ってきて、零れたジュースをふいてくれる。
「花音……急に言い出されるとびっくりするだろ」
「えー、でも恋人やったらキスぐらいするやろ? 私きー君とキスしたかよー? きー君はしとうなかと?」
「いや、普通にしたいけど」
あ、思わず本音が出た。いや、でも普通に恋人になった好きな子にそういうことしたいと思うのは当然なのではないかとは思う。
花音に引かれたらどうしようかなと思ったが、花音はいつも通りの笑みを浮かべている。
「ならチューすー? もっと先のことも全然よかよ!!」
「いや、キスはともかく、そういうのはちゃんと責任を取れるようになってからだろ」
花音とずっと一緒に居たいと思って、大切にしたいと思っているからそういうのはちゃんと責任を取れるようになってからだと思う。そのぐらいの未来まで、花音と一緒に居れたらなと思ってならない。
当然俺も年頃の男子高校生だから、興味がないわけじゃないけれど。
「ふふ、きー君は真面目さんやねー」
花音はそんなことを言いながらにこにこしている。そして花音の顔が俺に近づいてくる……それに驚いていればピンポーンとチャイムがなった。
「わっ、お兄ちゃんもうきたんかな。ちょっといってくる!! 残念やけど、また今度ね!!」
花音は慌てたように俺から離れて玄関に向かった。
俺は花音からキスされそうになったことに心臓をバクバクさせながら、やってきた凛久さんと的場先輩を迎え入れるのだった。
というか、凛久さん、住んでる所がこのあたりじゃないのにまだ朝なんだが、来るのはやくないか?
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