バレンタインの翌日 ②

「花音ちゃんと上林君、恋人になったのよね!! どちらから告白したの? どんなふうに? 絶対に花音ちゃん可愛かったでしょ!!」

「和巳、せからしか。花音と喜一が驚いているだろ」

「凛久さん、邪魔しないでください!! 私は花音ちゃんと上林君に聞いているんですよ!!」



 家にやってきた的場先輩と凛久さんはやっぱり口喧嘩をしていた。……というかいつの間にか名前呼びになっている? 二人とも喧嘩しているが、仲良くなったのだろうか。


 俺は先ほど花音にキスされそうになったことの戸惑いがいまだに残っている。




「ふふふ、的場先輩聞いてくださいよー。きー君から愛の告白してくれたんですよー」

「まぁ!! まぁまぁまぁ!! 花音ちゃん、是非そこんところ、詳しく!!」

「おい、なんかすごい若者の恋に興味津々のおばちゃんみたいだぞ」



 花音の言葉に的場先輩が食いつき、それに対して凛久さんは呆れた様子を見せる。



「まぁ、いいや。喜一、俺とちょっと話そうか」

「……はい」


 凛久さんに睨むように言われた言葉に俺は頷く。




「お兄ちゃん、私のきー君を虐めたら許さんけんね」

「心配せんでよか。そがんことする気はない」

「ならよかよ。私は的場先輩と恋バナしとっけん」



 そんな会話を花音と凛久さんがした後、俺は凛久さんと一緒に俺の部屋で話すことになった。花音と的場先輩はリビングに残る。



「えーと、凛久さん、ごめんなさい」

「それは何の謝罪だ?」

「いや、だって花音とそういう関係になるつもりはないって俺言っていたのに……。結局花音のことを好きになって、告白してしまったから」



 凛久さんと二人になって、俺は真っ先に凛久さんに謝った。



 だって俺は花音とそういう関係になることなんて想像できないと最初に凛久さんに行っていたのだ。それなのに俺は花音に惚れていることに気が付いて、花音に告白してしまった。


 好きだと気づいたからと勢いのままに告白して恋人同士になってしまったが、凛久さんはどう思うだろうかと不安になっていたのだ。




「いや、それは気にしなくていい」

「え」

「というか、俺の実家まで来ているんだからいつかそういうことにはなるだろうなとは覚悟していた」

「え」

「そもそも実家にまで来て、互いの両親と旧知の仲にまでなっていて、クリスマスまで一緒に過ごしていて、寧ろそういうことを意識していなかった喜一にびっくりだ」



 なんか凛久さんにそんなことを言われた。



 なんだか俺が花音と付き合うかもしれない――ということは凛久さんにとって想定の内だったらしい。俺は自分が花音と付き合うことになるなんて考えた事もなかったのに……。


 でも考えてみれば、付き合う前に花音の実家に行ったし、クリスマスも一緒に過ごしていたし、合鍵は持っているし……確かに普通逆な気がする。



「俺も別に喜一ならいいぞ。俺の義理の弟になるのを許してやる」

「気がはやくないです……?」

「あぁ? 花音と付き合えておきながら花音を振る可能性があるのか?」

「いや、ないです!! 俺は花音のこと好きだし、花音とならずっと一緒に居たいです。でも花音の方が俺を振ることもあるかもしれないですよね……?」

「大丈夫だ。俺の可愛い妹は一途だろうからな。多分、そんなことはない」



 何故か本人でもないのに凛久さんはそう断言する。未来のことなんてその時になってみないと誰にも分からないものだろうに、そんな風に断言をされると本当にそんな未来が訪れるようなそんな気持ちになってしまう。



「それよりだ。花音と付き合いだしたというのならば、花音を悲しませるなよ? 悲しませたら俺は許さないからな」

「えっと、はい」

「あと父さんと母さんの所にも近いうちに行くぞ」

「え」

「母さんたちも喜一が恋人になったと聞いて、また実家に来てほしいって言っていたからな」

「……はい」

「そんなに怯えなくていい。どうせ、花音が望んで恋人になったら父さんも何も言わないだろうしな」



 改めて凛久さんは花音を悲しませないようにと俺に念押しをしたかったらしい。花音と恋人になったわけだし、もっと色々何か言われてしまうかと思っていたのでちょっとほっとする。



「それでキスぐらいはしたのか?」

「ぶっ」

「その反応はしていないな。キスぐらいなら学生でもいいと思うが、その先は花音にははやいと思うぞ」

「……そうですね。俺も責任とれるようにならないとそんなことするつもりありません」



 何でこの兄妹、二人してキスキス言うんだろうか……。さっき花音のキスをされそうになったことも含めて驚いて噴き出してしまった。



「凛久さんは何時の間に的場先輩と仲良くなったんですか?」

「あ? あの女と仲良く? 仲良くなってない」

「いや、だって名前呼びになっていたじゃないですか」

「それは成り行きだ成り行き」



 十分仲良くなっていると思ったが、凛久さんには否定された。そもそも凛久さんってこんな美形だから女性に囲まれて大変な思いをしているらしいから、女性の事を名前呼びしているだけでも仲が良いと思うんだが。



 

 凛久さんと話した後、リビングに戻れば、



「それできー君かっこよかったんです!!」



 と花音が嬉しそうに的場先輩に告白の時のことを語っていた。



 ……いや、花音、そんなことを話されると俺は恥ずかしい。

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