バレンタインの翌日 ③
「そうだ、もう私、花音ちゃんと上林君が付き合いだしたの広めているから」
「はい?」
突然、的場先輩から言われた言葉に俺は驚いて的場先輩を見る。
的場先輩は俺の驚愕の表情を見てもにこにこしている。満面の笑みだ。
「だって、花音ちゃんから聞いたら上林君とこれから仲良しだって周りに広めるんでしょ? 下手にそのままどーんって広めちゃったら反発とか起こってしまうかもしれないじゃない? 私は仲良しな花音ちゃんと上林君をずっと眺めていたいんだもの!! 今の内から広めておいて、どれだけ花音ちゃんと上林君が仲良しかを広めて諦めさせようとしているのよ。ちゃんと凛久さんと相談して進めているから変なことは書かないからね!!」
俺と花音が付き合い出したのは昨日なのに、すっかり的場先輩と凛久さんの間で、俺達が学園生活を送りやすいように話し合いが進められていたらしい。
「お兄ちゃん、本当に変なことはしとらんとよね?」
「俺はせんよ。何で俺にだけ言うとよ、花音!!」
「いや、だって的場先輩はちゃんとしてくれとると思うけど、お兄ちゃんはほら、私のことやとちょっと暴走しがちやん?」
花音は凛久さんに変なことをしていないかと、話しかけている。
俺は俺で……そっか、もう広められているのかと驚いた。どちらにせよ、来週からは花音と普通に過ごす予定はある。そもそも恋人になったのにもかかわらずこそこそする必要もないし、俺は花音とこれからの人生を歩んでいくことを決めているから問題はないが。
それにしても広められているというが、どれだけ広まっているんだろうか。……俺が花音の恋人であることを認めてもらえるのだろうか。いや、認められなかったとしても、認められるように努力をするだけの話だけど。
「上林君、何か不安そうな顔をしているわね? 花音ちゃんとの仲を認められないんじゃないかって不安になってる?」
「まぁ、少しは」
「花音ちゃんは人気者だものね。学園にいる聖母様としての花音ちゃんも素敵だけど、上林君の傍に居る花音ちゃんも素敵だものね。でもね、そんな素敵な花音ちゃんが上林君を選んだのだから、自信を持てばいいのよ」
的場先輩はにこにこと笑ってそんなことを言う。
そして的場先輩は続ける。
「認めないなんていう他人は気にしなくていいの。だって決めるのは周りじゃなくて、当人たちだけだもの。他でもない花音ちゃんが上林君のことが良いといっているのだもの。寧ろ選ばれなかったものがグチグチいうのはどうなの? みたいな気概でいればいいわよ」
……的場先輩も中々、思い切った性格だよなと改めて思う。的場先輩も人気のある先輩だし、それゆえの苦労も色々してきたからこその言葉なのかもしれない。
「それに認めないなんていうのならば、外堀を埋めて認めざるを得ないようにしちゃえばいいのよ。いいかしら、上林君。外堀というのは埋まるのを待つものではなく、自ら埋めにいくものなのよ!!」
外堀は埋まるのを待つものではなく、自ら埋めにいくもの――なんとも的場先輩らしい言葉に思える。
「だから私は花音ちゃんと上林君の外堀をどんどん埋めていくわよ。私は花音ちゃんと上林君に幸せに暮らしてほしいもの!!」
意気揚々と的場先輩がそんなことを言う。
そんな風に的場先輩と話していれば、
「きー君、きー君は不安にならんでよかけんね? きー君のことを認めんとか他の人が言ったとしても私がきー君のことを守るから!!」
いつの間にか凛久さんと話していた花音がやってきて、そんなことを言ってくる。
花音は心配しなくていいと俺に向かって、優しい笑みを浮かべる。花音の優しい笑みは、本当に人を安心させる力があると思う。
「――俺も守られるだけじゃなく、ちゃんと花音のことを守るよ」
「きゃー、きー君、その言い方かっこいい!!」
花音に守られるだけって言うのもなと思っていった言葉になぜか花音は大興奮であった。
「ふふ、本当に仲良しでいいわ。ね、ね、花音ちゃん、上林君、インタビューさせてよ。花音ちゃん達の事は広めているけど、ちゃんとばばばーんって学園新聞でのせたら素敵だと思うのよねー。それだけ花音ちゃんが上林君のことを大好きなんだなーって分かれば、余計なこと言う人もいなくなるだろうし、いい?」
「私は全然オッケーです!! いつでもいいですよ、幾らでも語ります!」
そのまま的場先輩が花音にインタビューを初めて、俺のことを語りだすものだから……こう、恥ずかしくて俺は凛久さんと一緒にインタビューが終わるまで出かけることにした。
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