バレンタインの翌日 ④

「花音といつもこういうところで買い物をしているのか?」

「んー、いつもじゃないですね。そもそも花音と一緒に買い物に行ったのも数回ですし。これからは沢山買い物に行くかもしれないですけど」

「そうか」



 ちなみに俺と凛久さんは何処に行っているかと言えば、近くにあるショッピングモールである。



 今まで花音と仲良いことを隠そうとしていて、だからこそ一緒に出掛けてはなかったけれどこれから花音とずっと一緒に居るのならば……花音と一緒にショッピングモールで買い物をしたりもするんだよな。そう思うと楽しみだ。

 花音と一緒ならば、きっと何気ない日常でも楽しいんだろうなとそんなことを考えていた。



 そうしていれば、


「あっ!!」



 そんな声が聞こえてきた。



 俺と凛久さんが驚いてそちらを見れば――、こちらを睨みつけるように見ている少年が一人いた。あ、あの子って、花音とよく一緒に居た生徒じゃないか。



 嫌な予感を感じながら俺は彼を見る。



「変なメールが来たけど、あんたが花音ちゃんと付き合ってるなんて嘘だろ!!」



 間一髪でそんな風に叫ばれた。……というか、ショッピングモールでそんなこと叫ばれると注目を浴びてしまって、困惑してしまう。



「本当だ」

「嘘だろ! なんで??」

「何でも何も花音が喜一と付き合いたいって言ったからだろう。つか、お前、こんなところで騒いで注目を浴びているだろ。ちょっと外行くぞ」

「え、あれ、貴方って、花音ちゃんのお兄さん!? え?」



 俺が答えた言葉にその生徒――確か名前は小林——は信じられないとでもいう風に叫んで、その後、凛久さんに声をかけられて驚いた表情を浮かべた。



 それから俺と小林は凛久さんに連れられるままショッピングモールを後にした。俺達はショッピングモールから少し離れたファミレスに入った。

 小林は凛久さんの存在に驚き、固まっていたが正気を取り戻したらしい。



「それで上林先輩が花音ちゃんと付き合っているってなんですか!! あの花音ちゃんが恋人にするならもっとかっこよくて完璧じゃなければ許されないのに……」


 そんなことを言われても……と困惑している俺の変わりに凛久さんが口を開く。




「花音が誰と付き合うかどうかは花音が決めることであって、お前が気にすることでもないだろう。花音は喜一と恋人になりたいと思ったから恋人になったわけだし」

「……花音ちゃんのお兄さんは、花音ちゃんがこんな男と付き合って許せるんですか」

「許せるさ。喜一のことはよく知っているからな。喜一が俺の可愛い妹を泣かせるなら許さないが、喜一は花音を悲しませることはないだろうしな。花音が喜一と付き合うのは信じられないとお前は言っているがな、花音は望んで喜一と付き合ってるんだからちゃんと現実を受け入れろよ」



 凛久さんが一気に言い切ったら、小林は黙り込んだ。



 そんな小林に凛久さんは続ける。



「まぁ、お前が花音のことを好きだろうと、花音の恋人に喜一が鳴るのが気に食わないだろうとも、花音が選んで花音が望んだのは喜一なんだから、諦めろよ。下手に喜一の事を認めないと花音に嫌われるぞ」

「……そ、そうはいっても」

「まあ、花音のことが大切だからこそ喜一に何か思うのは当然かもしれないが、それでもちゃんと客観的に見ろよ。花音が喜一と居て幸せそうにしているのならばちゃんと認めた方がかっこいいだろ」

「……」



 小林は凛久さんの言葉に無言になって、こちらに視線を向ける。



「上林先輩は本当に花音ちゃんを悲しませることはないですか。そして花音ちゃんのお兄さんが認めているってことは……花音ちゃんに無理強いをしたり、花音ちゃんを脅したりしているわけではないってことですか」

「……悲しませないようにするよ。それと花音を脅したりなんかはしていない。そもそもそんなことをしたら凛久さんにどんな目にあわされるかもわからないし」

「そりゃそうだ。俺は喜一がそう言うやつだったなら許さない。まぁ、だから喜一は花音を脅したりなんかはしていないから安心しろ」



 俺の言葉に、凛久さんが続ければ、小林はまた黙った。


 凛久さんの頼んだドリンクバーのジュースをちびちびと飲みながら、小林はこちらを見つめる。



「分かりました。上林先輩が花音ちゃんの事を悲しませないという言葉を信じましょう。花音ちゃんみたいな聖母みたいに優しくて可愛くて素敵な人が上林先輩みたいな人を選ぶのは正直信じられませんけど、花音ちゃんが選んだというのなら俺はこれ以上何も言いません!!

 でも花音ちゃんが少しでも幸せそうじゃなかったら許しませんからね!! 花音ちゃんは幸せになるべき人ですから」



 何だかんだでそう言って俺を見る小林は、何だかんだ理性的で、花音のことを大切にしているのだと思った。



「そうだぞ。それが良い」

「……でも俺が認めても許せない! っていう生徒は絶対に居ると思いますからね。花音ちゃんの恋人だって言うなら花音ちゃんを悲しませないようにしてくださいね」


 小林はそんなことを言い放つ。



「ありがとう。小林。気を付けるよ」



 そう言えば、小林はふんっと口にしてそっぽを向いた。

 



 それから花音からの連絡が来るまでの間、凛久さんと小林と花音のことで盛り上がるのであった。

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