始業式
学園への道を歩いている。朝から俺と同じように学園に向かう天道のことを見かけた。一瞬、こちらに気づいたようだが、俺が学園の連中に知られると面倒だと言ったからかちゃんと知らないふりをしてくれた。
俺と同じように学園に向かう生徒もちらほら周りに見られて、彼らは天道の姿に気づくと、チラチラと天道の方へ視線を向けていた。
……黙って、登校している天道って本当に昨日も俺の隣にいた天道と同一人物には見えない。なんというか、何日も俺の部屋にいて、一緒に遊んだ仲だが、それが夢だったのではないかと思えるほどだ。
学園まで歩いて、教室へとたどり着く。
クラスメイトたちが「おはよう、久しぶり」と声をかけてくる。俺のクラスは比較的にクラス仲が良い方だと思う。俺はクラスの中では目立たない方だし、特定の友人以外とはそこまで深い付き合いはしていない。それでも俺に挨拶をしてくれたりするからこのクラスは居心地が良い。
中学の時はちょっとややこしい人間関係になっていたから、この学園での生活は楽しく過ごせていて嬉しいものだ。
「おはよう、喜一」
「おはよう、ゆうき」
ゆうきも笑顔で俺に声をかけてきた。
やはりゆうきは俺が天道と仲よくしていることを言いふらしたりはしなくて助かる。カラオケに行って以来、ゆうきからは連絡もそこまで来てなかったし、どこかのタイミングで聞かれることはあるかもしれないが、流石に教室で聞くような真似をゆうきはしない。
「今日さ、朝から花音ちゃんの事、見ちゃったんだよ。朝から本当、完璧美少女!!」
「天道さんは本当に可愛いからなぁ」
「聖母様は、優しい笑みを朝から浮かべているよね。天道さんともっと仲良くなりたい。どんなシャンプー使っているのとかも聞きたいなーって思っているんだよ」
「私、今朝、おはようって言ったら「おはようございます」って天道さん返してくれたんだ。凄く可愛いー」
クラスの中でも中心グループのメンバーも天道の話をしていた。
その中の一人が天道に惚れているということや、クラスの中心の女子も天道のことを可愛い後輩と思っているようで、よくこうして学年も違うのに天道の話はされている。
ゆうきと会話を交わした後、ちらりとスマホを見れば天道からなぜか連絡が来ていた。
『上林先輩、おはようございます!! 今朝は挨拶出来なかったのでこちらで挨拶なのです』
今朝、気づかないふりをしたことを気にしてわざわざ連絡してきたらしい。俺が気づかないふりしてほしいって言っているんだから気にしなくていいのに、マメな奴だと思いながら小さく笑ってしまう。
『天道、おはよう。俺のクラスで天道の話がまたされてるぞ』
『私は可愛いですからね!』
同時にドヤ顔のスタンプまで送られてくる。自分でそれを言っちゃうあたり、本当に天道だなぁと思う。
教室でスマホを使っているだろうから実際の天道は普段の学園での天道のように、すました顔をしているんだろうけれど……、内心ドヤァと、ドヤ顔をしているかと思うと面白い。
イメージがついてしまったからなどと言っていたが、素をさらけ出してもきっと学園では相変わらず人気だろうと思う。
まぁ、もしかしたら心優しい物静かな聖母のような女の子っていうのに幻想を抱きすぎて、素を曝け出したら「騙された」とか言い出す人間も世の中にはいるかもしれないけどさ。俺は素の天道の方が話やすいし、いいと思うんだが。
そうやって天道と連絡を取り合っていたら、担任がやってきたのでスマホを鞄の中にしまった。
今日は始業式なので昼前にはもう学園は終わる。
担任からの連絡事項が終われば始業式の会場である体育館に向かった。夏休み明けの始業式で、昨日夜更かしでもしたのかちらほら眠ってしまっている生徒も見かけた。年配の学園長の話が長いから眠くなるのは気持ちが分かる。俺はなんとか起きていた。
生徒会長のあいさつもあった。三年生である生徒会長も、天道の事を気にかけているのは噂として知っている。真面目で美形な生徒会長は時折天道に話しかけているのもあって、天道と生徒会長は時々噂になっている。実は付き合っているのではないかとか噂もそういえばあったというのを思い出した。
夏休み後半に俺の部屋に入り浸っていたのをみるに、その噂は嘘だろうというのが今ならよく分かる。天道は付き合っている人間とかいたら流石に異性の部屋に入り浸ったりしないだろうから。
始業式が終わった後、宿題などを提出して、いくつかの話があった後、もう放課後になった。
「喜一、今日はこのまま帰るか? 昼食一緒に食べるか?」
「あー、ちょっと待て」
放課後、天道と遊ぶ約束はしているものの、昼食をどうするかは決めていなかった。あとすぐに俺の部屋にやってくるのか、数時間後にやってくるのかも聞いていない。
『天道、昼食はどうするつもりだ?』
『上林先輩の家で食べようかなって思ってました』
『分かった』
俺の家で食べる気満々だったらしい。……天道はどんだけ遊びたがっているんだろうか。いや、俺と遊びたいっていうより大好きな乙女ゲームを俺にやってほしいとかいう気持ちの方が強いのかもしれないが。
「すまん、ゆうき、俺は家で食べる」
「あー、なるほど。まぁ、仲良くしているようで良い事だな。というか、俺も昼食だけでもお邪魔していいか?」
ゆうきは俺が天道と連絡を取ったことを察したらしく、楽しそうな顔をしていた。そして自分も一緒に昼食を食べたいなどと言った。
俺は構わないが、これも天道に聞いておくべきだろうと天道に引き続き連絡を取る。友人のゆうきも一緒に良いかと聞けば、いいですよーと返ってきた。あと入り浸っているお礼に昼食は天道が用意してくれるらしい。
『押し付けますから、買って帰ってきたりしないでくださいね? ごはんが無駄になるだけですからね? 上林先輩の友達の分も用意しますから!!』と書かれてしまった。こういう時の天道は引かないので、大人しく昼食を恵まれることにする。
学園を出て歩きながら「昼食は用意してくれるらしい。ゆうきの分も」と口にすれば、「うわー、なんて贅沢な」などとゆうきは口にしていた。
……そうだよな。何だか当たり前のように天道がご飯の準備してくれたり、家に入り浸っているけど、普通に考えて学園の人気者が昼食準備してくれたりするのは贅沢なことだよな。俺も適応能力がある方だからか、すっかりグイグイくる天道が俺の家にいるのに慣れてきてしまっているが。
「それにしても思ったより仲良くなっているな。そのあたりは家で聞かせてくれ」
「ああ」
ゆうきと歩きながらそんな会話を交わして、マンションへとたどり着く。
部屋に戻ってから天道へと連絡を入れれば、『買い物してるんで終わったらいきまーす』と返ってきた。
多分、昼食を購入してくれているのだろう。
ゆうきは、
「天道さんがこれから来るって妙に緊張するな」
などと口にしていた。
しばらくして、ピンポーンと鳴る。来客者の顔を確認すれば、想像通り天道だったので扉を開けて中へと入れた。
やってきた天道は、もう制服から私服に着替えていた。そしてその手には二つほどの袋を抱えていた。見るからにパン屋か何かの袋だ。
「こんにちは、上林先輩。おじゃまします!」
天道は元気よくそう言って、俺の部屋に上がるのだった。
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