先輩を出迎える前の朝

 あっと言う間に土曜日の朝を迎えた。



 今日は昼から的場先輩がくる予定である。平日の放課後にちょくちょく掃除を進め、すき焼きの材料ももう買ってあるので、あとは細かい部分を掃除するだけである。



「きー君、おはようございまーす」



 ちなみに花音は俺が目を覚ました時、もうすでに俺の家に来ていた。朝早く目を覚ましたから俺の部屋にやってきて、朝食を作ってくれていたらしい。花音と朝食を食べてから、二人でリビングの掃除をする。俺の部屋に関しては的場先輩を入れる気はないので、特に掃除はしていない。あとはトイレも綺麗にした。



 そうこうしているうちに9時になり、ピンポーンとチャイムが鳴る。的場先輩は昼からと言っていたので、凛久さんだろうか。何だか今日は来るのがはやい。



「お兄ちゃんやね。ちょい迎えてくるー」

 花音は朝から元気に凛久さんを出迎えに向かった。

「お邪魔するぞ、喜一、二週間ぶりだな」

「はい。凛久さん、おはようございます」



 凛久さんは朝ごはんを食べていないようで、花音が作った朝ごはんの残りを凛久さんは食べていた。



「ねーねー。お兄ちゃんききーよ。先週のきー君とのデートめっちゃ楽しかったとよ。ふふふー、私ん方がお兄ちゃんよりもきー君と仲良しなんやけんね」

「花音はよっぽど喜一と出かけたのが楽しかったんだな」

「そーよ、めっちゃ楽しかった。えへへー。お兄ちゃん、これきー君がプレゼントしてくれたとけど、私に超似合うやろ? かわいか私にぴったりやし、きー君が私のために選んでくれたと思うとめっちゃ嬉しかとよねー。私が考えたデートプラン、きー君楽しんでくれて、一緒に沢山おいしかスイーツたべて幸せな気分になったと。カラオケできー君の心地よか低音の歌もきけたし、幸せな気分になったい。お兄ちゃん、きー君のカラオケで歌う姿とか見た事なかでしょ? やけん、私ん方がきー君と仲良かとは一目瞭然!!」



 ……なんかもう早口すぎるのと、少し距離が離れているのもあって、俺には何を言っているかは理解は出来ない。ただわざわざ持ってきていて俺のプレゼントした帽子を手に、意気揚々と語っているので前にいっていたように俺とのデートを自慢しているのだろうか?



「喜一、喜一は花音とのデートどうだったんだ?」

「きー君、楽しかったですよね? 私との方がきー君は仲良しよね?」



 急に話を振られたかと思えば、楽しい以外の感想を認めないとでもいう風に言うようにこちらを見る。花音には「楽しかった」とはもう告げてあるのだが、凛久さんの前でも俺の口から聞きたいのだろうか? やっぱり花音は変なところで凛久さんと張り合っている。



「俺も凄く楽しかったですよ。花音が俺を楽しませるためにお出かけの予定を練ってくれてましたし」

「だよな!! 可愛い花音と出かけて楽しくないとかありえないよな。これで楽しくないとか言うなら喜一にどれだけ花音と出かけるのが楽しいのか語る所だった」

「よね!! かわいか私と出かけて楽しくなかはずなかよね。私もきー君と出かけてめっちゃ楽しかったんよ!!」



 やっぱりこの兄妹、似ているよなと思う。同時に同じようなことを言っている。



「そういえば、花音、喜一、今日来る女性というのはどんな人なんだ?」

「新聞部に所属していて、花音ほどじゃないけど人気の先輩ですよ。なんか実は仲が良い関係が好きだから見たいっていってました。話していた限り、俺と花音の事ばらしたりする気はなさそうでした」

「私も的場先輩の事は噂でしっとっけど、わるか人ではなかと思う。まー不測の事態会った時はお兄ちゃんが守ってね! そのために土曜にしたんやけん」

「……二人とも楽観的だな。女というのは、時に非情な生き物だから気を付けた方がいいぞ。まぁ、その女性が花音と喜一に何かしないように俺も牽制しておこう」



 凛久さんは女性にモテモテなので、その関係でよっぽど嫌な思いをしたのだろう。それでそんなことを言う。



 まぁ、俺も中学の時に嫌な思いはしたことはあるが、それ以外は特に嫌な思いはしていないので、凛久さんほど警戒心がないのは確かだ。

 見た限り的場先輩は嫌な人間ではないけれど、俺の見る目がなかったら大変なことになるし、凛久さんがいてくれると心強い。



「ところで、お兄ちゃん、きー君、もうしばらく時間ありますけどなにすー?」



 掃除も終えて、準備は万全。しかしまだすき焼きの準備をするのにも時間がある。花音は俺と凛久さんを見て、問いかけてくる。



「俺は花音と喜一がやりたいことでいいぞ」

「そうだなぁ。最近やってなかったし、ゲームを進めるか?」

「よかね!! なんのゲームします? 私としましてはやりかけの乙女ゲームの続きやりたか!! あとはお兄ちゃんにもやらせたか。現実でモテモテのお兄ちゃんならきっと面白かプレイしてくれると思うけん」



 花音がそんなことを言うので、的場先輩がくるまで三人で乙女ゲームを勤しむことにした。


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