先輩を出迎える ①

 的場先輩がやってくる時間になった。的場先輩は俺の部屋を知っているわけではないので、マンションの下で待ち合わせをしている。マンション名を伝えたら、インターネットで調べてやってくるといっていた。



 的場先輩からの連絡がきていたので、俺は下に迎えに行くことにした。花音が「私もいきたかー」っていっていたけど、とりあえずお留守番してもらうことにした。

 マンションの下に下りれば、的場先輩がいた。




「上林君、こんにちは」

「こんにちは、的場先輩」

「上林君、良い所に住んでいるわね」



 白いブラウスにピンクのスカートを着た、お出かけ衣装の的場先輩は、綺麗な笑みを浮かべる。

 楽しそうな的場先輩を連れて、俺は部屋へと歩いていく。




「ふふ、此処が上林君の家なのね。あれ、『聖母』様とそのお兄さんはどこにいるの?」

「あー、もう家に居ますね。俺の家に」

「上林君家に二人ともいるの? 『聖母』様と同じマンションだとは聞いてたけど、普通にいるものなのね……」



 花音と同じマンションだとは告げていたが、もう俺の部屋の中に花音と凛久さんがいるとは思っていなかったようだ。

 鍵を開けて中へと入る。



「ただいま。的場先輩連れてきた」

「きー君、おかえりなさいです。的場先輩はこんにちは」

「おかえり、喜一。それが花音と喜一の事をしった女か」



 玄関まで二人がやってきて俺と的場先輩を出迎える。凛久さんは警戒するように的場先輩を見ている。

 的場先輩は、なぜか凛久さんに睨まれるように見られているというのにも関わらず目を輝かせていた。



「『聖母』様、おかえりっていって上林君を出迎えるのね。まるで家のようね。いいわ。というか、花音ちゃんって呼んでもいい?」



 そんな風ににこにこと笑って、的場先輩はそういう。凛久さんという男の俺から見てもかっこいい男性を見ても、的場先輩の興味は花音にいっているらしい。



「いいですよ!! どうぞ、中に上がってください」



 でも本当、的場先輩が言うようにすっかり花音は自分の家みたいに的場先輩を出迎えているなと思う。





 中に入ってきたらすき焼きの美味しそうな匂いがする。







「あ、的場先輩。これは私のお兄ちゃんです」

「……天道凛久だ」

「あらら、私警戒されてますね。私は的場和巳です。よろしくお願いします」

「ああ。よろしく」



 凛久さんは相変わらず何とも言えない表情で的場先輩を見ている。

 とりあえず、俺達は食事を取ることにして、四人でテーブルを囲んですき焼きを食べる。



「おいしいわ。用意してくれてありがとう」

「喜んでもらえて良かったです」



 というか、花音は少しだけ的場先輩に警戒心を持っているのかもしれない。俺の友人であるゆうきが来たときはもっと元気だったんだが。食事を終わった後もなんだか花音はちょっと大人しい。



「花音ちゃん、私、上林君と花音ちゃんの仲が良い姿を見たくてきたの。だから緊張しないで、いつも通りの姿を見せてほしいわ」

「お前が帰れば花音はいつも通りの姿を見せるだろう。花音に警戒されているのだから、帰ればいいだろう」

「いや、凛久さん、的場先輩きたばっかりですからね」



 何を気に入らないのか、凛久さんは的場先輩に結構冷たい。まぁ、俺も最初会った時、滅茶苦茶警戒されていたけれど。



「天道さん、私は天道さんには用はありません。私は上林君と花音ちゃんの仲が良い様子を見たいだけなんですよ。眺めたいんですよ。天道さんはとりあえずいいんですよ。私が気に食わないなら天道さんが去ればいいんじゃないですか」

「はぁ? 何で俺が。俺は先週こっちに来なかったから今日は花音と喜一と遊ぶって決めてんだよ」



 なんだか口喧嘩をしだした凛久さんと的場先輩。んー、俺はどう口を挟めばいいんだ。そう思いながら花音の傍による。



「花音、どうしたんだ?」

「んー、なんが?」

「的場先輩がくるのいいって言ってただろ。でもなんか元気ないから」

「んー……いや、何て言えばいいんでしょう。きー君家に女の人おっと、なんかもやもやすーっていうか、いや、毎日入り浸ってる私が言うことじゃなかかもけど」



 何故だか花音は自分でいいですよーって言ってたくせに、いざ、的場先輩が此処にいると変なもやもやを感じているらしい。ちょっと何とも言えない表情をしている花音を見ていると……もっと笑ってほしいなと思う。


 俺の前で花音はいつもにこにこしていたから、いつも通りの元気な笑みを見せてほしいと思って、花音の頬を軽くつかむ。



「きー君、なにふるんでしゅか」

「んー、なんか花音が元気ないと調子狂うから。花音は元気な方がいい」 



 そう言いながら手を離せば、花音は俺をじっと見る。そして、俺の言葉を理解したのか、いつも通りの花が咲くような笑みを浮かべる。



「きー君、私が笑っとるとが好きなんね。やったら私、もっとにこにこすーよ。きー君もにこにこしーね。私もきー君が笑っとると嬉しかもん」



 へにゃりと笑って花音はそう言った。





「なにそれなにそれ、可愛い。花音ちゃん。超可愛いじゃん。方言って可愛い! しかも何上林君とのそんな会話、なんて可愛い会話」

「花音が可愛いのは全面的に同意するが、ちょっと静かにしろ」




 ……気づけば口喧嘩を終えていた的場先輩と凛久さんが、こちらの会話を聞いていてそんな風に言葉を放っていた。


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