文化祭の準備②
「きー君、ただいまー!!」
夕飯の準備をしていたら、花音の元気な帰宅の声が聞こえてきた。
リビングに顔を出した花音は、制服姿のままだ。そのまま直行して家にやってきたらしい。鍵を渡してからというもの、こうして直行することもあれば、着替えてから俺の家にやってくることもある。まぁ、どちらにせよ、俺の家にやってきてはいるわけだが。
花音はくんくんと匂いを嗅いで、パアアアアとその表情を明るくした。
「お肉の焼ける匂い!? きー君、今日の夕飯はお肉ですか??」
花音はにこにこと笑って、俺の傍にやってくる。そしてそのにおいをかいでいたからか、ぐるるるるるううと花音のお腹が鳴った。
「お腹なっちゃいました!! 劇の練習、凄く頑張って、声出したりしてたらお腹すきまくりなのです!!」
「ちょっと待ってろ。すぐに出来るから」
「はーい。ふふ、なんかいいですねー。お腹すいてかえってくると、ご飯が準備されようとしているって!!」
花音はそんな風に言って、手を洗いに向かった。
やっぱり先に夕飯を用意しといてよかったな。文化祭までは、劇の練習で花音は疲れているだろうから、花音が好きそうなものを用意しておこうか。お腹を空かせて待たせたら可愛そうだしなぁ。
明日は何にしようかな、花音にリクエストでも聞いておくか。
「というか、きー君、これ、高いお肉じゃないですか?」
戻ってきた花音はそう言って、お肉を焼いている俺を見る。
「そうだな。国産のちょっと高めの奴かってきた」
「え、なんですか。今日は何か記念日とかですか? きー君の誕生日とか?」
「いや、俺は早生まれで誕生日は二月だからまだ先だ」
「へー。あれ、じゃあもうすぐ私きー君と同じ年になるんですか!!」
「花音の誕生日はまだなのか?」
「私は十二月ですよー」
十二月が花音の誕生日か、覚えておこう。ということは二カ月ほどだけ俺と花音は同じ十六歳になるのか。ちょっと不思議な気分になった。
「それで、何で国産のお肉をわざわざ?」
「花音が劇の練習で疲れているかなと思って」
「え、私のためですか!? きー君、優しい!! きー君、甘やかし上手!!」
「いや、そんな言われるほどじゃないだろ。明日は何か食べたいものあるか?」
「そうですねー。刺身が食べたいです!!」
花音は俺が理由を言うと、俺が驚くほどに感激した様子を見せた。ちょっと高めのお肉買ってきただけなんだが……。花音は刺身を食べたいらしいので、明日はスーパーで刺身を買ってこようと思う。
刺身は結構高いからあまり買わないけど、花音が疲れているときぐらい良いだろう。
というか、これだけ喜ばれるとまた色々用意しようという気になる。花音は俺に甘やかし上手とかいってくるけど、絶対花音が甘え上手だから色々やってやろうって気になるんだと思う。
「わー、美味しい。きー君が私のために用意してくれたお肉~♪」
なんか花音は食べている最中にご機嫌になって、鼻歌まで歌っていた。
食事を終えれば、花音から「劇の練習一緒にしましょーよ」と誘われた。
「きー君の良い声で、一緒にやってくれたら私のやる気が超でます!! てか、きー君が演じているのを私が聞きたいだけなのですけれど!!」
素直だなぁ、って花音の言葉に思う。
劇の台詞を言うのは恥ずかしいという気持ちもあるが、やっぱりこんなキラキラした目で、「聞きたい」って全身で示されるとよし、やるかとなる。それに花音の前では散々、花音が希望する台詞言ったし、今更恥ずかしがってもなと。
……そんな気持ちでやると口にしたら、「やったぁああああ」と花音は嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。
それで花音と一緒に劇の練習をすることになったわけだが、
「姫、私の手をお取りください」
とか、恥ずかしい台詞が多かった。
というか、花音の台詞以外、全部俺がやるっていう。花音はキラキラした目で俺をそのたびに見てるし、多分騒ぎたいけど劇の練習の最中だしと我慢しているようだ。そういう所は花音は真面目なのだ。
その分、劇の練習が終わったあとが凄く花音は元気だった。
「きー君、きー君、やっぱりきー君の声ってよかね。色んなきー君の一面見れて私、すっごくよか気分になった!! また明日も付き合ってくれますか?? やってくれたら私凄い、やる気でるんですけど!!」
ちょっと疲れたものの、花音がこれだけ喜んでいるならやった甲斐はあった気がする。
「いいよ」
「ありがとうございます!!」
花音は俺が了承すれば、嬉しそうに笑うのだった。
その後は勉強を見てもらったり、ゲームをしたりといつも通り過ごした。
……翌日、花音が劇の練習を張り切っていて、昨日より練度が上がっていると噂になっていた。
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