文化祭の準備①

「うまい」



 俺が今、何をしているかと言えば文化祭で売る予定のチョコバナナの試食をしている。

 バナナもチョコも好きだし、美味しくて思わず口元が緩む。甘いものを食べるのは幸せな気持ちになるものだ。



「上林は美味しそうに食べるな」

「倉敷か。美味しいからな」



 パクパクと試作品として配られたチョコバナナを食べていたら、倉敷が寄ってきた。倉敷は甘い物がそこまで得意ではないようで、皿にはチョコバナナが残っている。



「そうか」



 そう言いながら倉敷は笑っている。俺が自分のチョコバナナを食べ終えたからか、「俺のを食べるか? 俺には量が多いから」とそんな風に言ってチョコバナナをくれた。



「本当か!? ありがとう」



 これだけしか今は食べられないのかと少し落ち込んだので、もらえて嬉しかった。思わず大きな声を出してしまった。クラスメイトたちに見られて、ちょっと恥ずかしい。



 いや、でもクラスで試作したチョコバナナ、女子生徒たちが張り切って作っていたのもあってとても美味しかったのだ。

 これだけ美味しいものをまた食べれると思うと嬉しくなるのも当然だ。是非とも、甘いものが好きな花音にもこのチョコバナナを食べてほしいなと思うな。

 まぁ、花音が食べにきたら色々と騒がしくなりそうだけど。



「うまい。本当にありがとな、倉敷」


 俺がそう言うと、倉敷はまた笑う。


 倉敷と少ししか話したことがなかったが、チョコバナナをくれるとはいいやつかもしれないとそんな風に単純な事に考えた。



 花音も今頃、文化祭の準備を頑張っているだろうか。チョコバナナを出店するうちのクラスよりも劇をやる花音の方が疲れそうな気がするし、出来たら美味しいものを用意してやろうかな。花音は主役だし、台詞も沢山覚えなきゃならないだろうし。



「上林君はそんなに甘いものが好きなんだね」

「ああ。というか、これは美味しい。文化祭で客として買いに来ようと思うぐらい美味しい」



 明知にも声をかけられて、俺はそう答えるのだった。

 その後、他の甘い物苦手なクラスメイトからチョコバナナを追加でもらってしまった。




 ……こう書くと俺が試食しかしていないように見えるかもしれないが、もちろん、試食以外の文化祭の準備も進めている。




 チョコバナナは外で屋台として売ることにしているので、屋台の組み立てとか、看板を作ったりとか、そういうことも進めなければならないのだ。正直言って俺は絵心も、上手に文字を書くのもそんなに得意ではないので、それらは得意なクラスメイトがやっている。



 それにしても完成予想図を先にイラストが得意なクラスメイトが仕上げていた。あまりの出来に驚いたものだ。本当に漫画家とか目指せるではと思えるぐらい洗練されていた。とはいえ、それを他のクラスメイトが言ったら、その子は「漫画家は簡単に目指せるものじゃない」などと言っていたが。



 こうして一丸となって、目的を叶えようと協力し合うことは結構楽しいと思う。クラスメイトとの交流ももてるしな。まぁ、体育祭や文化祭が終わった後は、またゆうきとのんびり話して過ごすことになりそうだけど。一時期でもこうやって楽しんで何かをやるのっていいなと思うんだ。



 というわけで、今日も俺は真面目に文化祭の準備に取り組んだ。

 明知には「やっぱり上林君は真面目だよね」などと言われてしまった。自分がやりたいからやっていることをそんな風に言われると正直むず痒い気持ちにはなる。




 その日の帰宅時間になって、ゆうきに途中まで帰ろうと言われて一緒に帰ることにする。





「今日は喜一、沢山チョコバナナ食べてたな」

「美味しかったからな。流石女子が気合入れて作っていたチョコバナナというか、絶妙な甘さで凄く美味しかった」



 あれは良いものだ。

 花音にもうちのクラスのチョコバナナがどれだけ美味しかったか伝えておこうと思う。

 そんなことを考えながらゆうきと一緒に帰路を歩く。




「喜一は真っ直ぐ帰るのか?」

「いや、花音が好きそうなもの買って帰ろうかなと」

「相変わらず仲良しだな」

「劇で主役だからな、多分凄く疲れてるだろうし」



 文化祭の準備で忙しいというのに、あの日曜日の勉強会以来、花音は俺に勉強を教えようとよくしてくれているし。毎回伊達メガネをかけて教師モードとやらに入るのは何やってるんだとは思うけど……。



「へぇ、そうか」



 なんかゆうきはにやにやして楽しそうだった。



 それから駅に向かうゆうきと別れて俺はスーパーに向かった。

 今日はお肉を焼こうとお肉を買った。ちなみに普段は買わない国産のちょっと高めのものである。あとは花音が好きそうな甘いものなども購入した。


 家に戻った時、まだ花音は帰っていなかったので、帰ってきてすぐ食べられるように夕食の準備を俺は始めるのだった。

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