GWの予定

「――なぁ、花音、GWに俺の地元に行かないか」

「きー君の地元?」

「ああ。……高校に入って、一度も帰っていなかったけれど、逃げてばかりでもいられないし、帰ろうと思ったんだ」





 ――他でもない花音と付き合いだしたから。花音が俺の隣で笑ってくれるから。だから俺はどんなことでも乗り切っていける気持ちになっている。




 花音の存在は俺にとってどうしようもないほど特別で、それだけ俺に影響を与えている。



 花音は俺の言葉に驚いたような顔をしていたけれども、次の瞬間には笑った。





「ふふ、きー君がそう決めたんやったら私は応援すーよ。一緒行こう」




 昔の話は、ある程度花音にも話してある。花音はどんなことを聞いてもただただ受け入れて笑っている。

 そういう包容力が花音の素敵な部分の一つだと思う。




「でもきー君、実家に帰るんやったら百合さんたちにちゃんと相談しよーね。あと、ずっときー君の地元に行くのか、それとも他にもお出かけするのかも決めたかよねー」




 花音はソファに腰かけたまま、そんなことを言う。

 ああ、でも確かに母さんには相談していたほうがいいかもしれない。そう思って頷けば、花音がさっそく母さんに電話し始めた。




「あ、百合さんこんにちは。今いいですか?」



 花音はにこにことしている。



「うん。そうなんですよー。きー君が地元かえるって言ってて、私もついていくんですけど」



 それから花音はしばらく母さんと会話を交わしていた。本当に花音は母さんと仲よさそうで俺も嬉しくなる。



 しばらくしたら、母さんが俺に変わるようにいったのか、花音がスマホを俺に渡してくる。



 ストラップのついたスマホを預かって、電話に出る。



『喜一、実家に帰るのね。鍵は持っている?』

「うん。大丈夫」

『それで、帰るなら藍美ちゃんに会うこともあるわよね? 気をつけなさいね。喜一が一人暮らしするようになってからもうちの実家の周辺をうろついていたって聞いてるから。それに知美さんの方は藍美ちゃんに同調して暴走気味だから気をつけなさいね』

「え」



 幼馴染――藍美が良く分からない思い込みでややこしい事になっていたことは知っていたが、もう中学を卒業して二年と少し経っているのでその問題も問題ないかなと思っていたのだ。だけれども、母さんの言い分を聞く限りまだまだ藍美はややこしい思い込みをしている可能性が高いらしい。


 それに藍美のお母さんであるおばさんも同調しているとはどういうことだろうか……。





『私たちが実家を離れて二年経っているけれど、それでもまだそういう態度を見せているって話だから、帰るならちゃんとそれを踏まえた上で行きなさいね。あとはお友達たちに連絡をしておいた方がいいかもしれないわ。それと花音ちゃんに守ってもらうのよ』

「……そっか。分かった。それも踏まえた上で行く」




 二年も経過しても俺のことをきにしているらしい幼馴染に正直良く分からない。そもそも中学生の頃も中学デビューしておかしくなっていたから、今も高校生に上がっておかしなことになっているのかもしれない。

 地元には地元の学生が通う高校もあったし、あのまま高校生になったのかもしれない。





『でもまぁ、久しぶりの地元なのだから楽しみなさいね。喜一』

「うん。また帰ってきたらどうだったか教えるよ」




 そう言えば電話越しに母さんが笑ったのが分かった。

 そんな会話を終えた後に電話を切って、花音にスマホを返す。



そして花音に母さんの話した内容を教えれば、



「そーなんねー。私がきー君のことはちゃんと守るけん、安心しーね」




 なんていって花音は満面の笑みを浮かべた。



 なんて頼もしい笑顔だろうかと思う。こうやって花音が笑ってくれているのならば、俺はどんな場所にだって行ける気がする。



 それから俺はしばらく連絡を取っていなかった昔からの友人たちに久しぶりに連絡を入れてみることにした。中学を卒業したっきりだったから、少し不安だったけれども花音が隣でにこにこしているからメッセージを送ることが出来たのだった。



 返事は思ったよりもはやく返ってきて、俺から連絡が来たことが嬉しいこと、GWに久しぶりに会えることが嬉しいことなどが書かれていた。俺もそのメッセージを見て、嬉しい気持ちになった。



「きー君、良かったね!」

「全部花音がいたからだよ。花音と恋人になれなかったら……、俺はこんなにはやく地元に帰ろうと思わなかっただろうし、昔の友人たちに連絡を取ろうと思わなかっただろうから」

「ふふ、私がきー君の役に立てたんやったらうれしかよ」



 本当に花音がいてくれたからこそ、俺はこうして一歩前へ踏み出せているのだとそう実感したのだった。





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