後輩の兄もついてくる気満々である。
『喜一、花音と一緒に喜一の地元行くんだろ? 俺も行くぞ』
「え? 凛久さんも?」
『ああ。だって喜一は問題のある幼馴染の所に行くんだろう。俺も行って文句は言わせないようにする。それに俺も喜一の地元気になるし』
「俺は心強いですけど、花音がいいって言ったらいいですよ」
凛久さんも俺が地元に顔を出すということで、心配してくれているらしい。
花音もだけど凛久さんも親しい人には本当に優しいよなと思う。そういう身内枠に入れてもらえていることが俺は嬉しいとそんな気持ちで一杯になっている。
『よし、じゃあ、喜一。花音に代わってくれ』
「うん」
凛久さんの言葉にそのまま俺のスマホを花音に渡す。
「お兄ちゃん、なんー? きー君とこ、一緒いきたかと。よかよ!」
花音はスマホを受け取ってすぐに、そんなことを凛久さんに言っていた。
「でも的場先輩はよかと? 付き合いだして初めてのGWとにさ」
そういえば確かに凛久さんは的場先輩と付き合いたてなんだよな。普通、妹とその恋人のことよりも、自分の恋人を気にしたほうがいい気がする。でも的場先輩なら俺たちの方を優先していても問題ないとかなのだろうか?
「ん? よかと? 的場先輩もきー君のこと気にしとるとね。やったらよか。それなら私たちと一緒にきー君の実家に行く日以外は、ちゃんと的場先輩にかまわんね!」
なんか俺たちと一緒に凛久さんがくることが決まったようだ。方言は相変わらず全部は分からないが、なんとなくニュアンスで花音が何を言いたいのかは分かる。
電話を切った後、花音がこちらを見てにこやかに笑う。
「きー君、お兄ちゃんもいっしょくーって。やけん、私とお兄ちゃんできー君を守るけんね」
「それは心強いな」
「ふふ。やろー? きー君の仲の良いお友達たちとも会えると思うとうれしか! きー君がどんなふうに育ったか知るのも嬉しいしー。きー君の昔からの知り合いに私がきー君のお友達よ! って広めるのも楽しみやしー。はぁー、楽しかこといっぱいで、私はわくわくしとっと」
それだけ前向きな思考で喜んでくれていると、こっちまで嬉しい気持ちになってくる。
「俺も花音のことを大切な恋人だと自慢できるの嬉しい」
恥ずかしいけれど、花音が俺の恋人だと自慢できるのは嬉しい。
「うんうん。たくさん自慢しーね」
花音はソファに寝転がりながら、嬉しそうに笑っている。
「ねーねー、きー君はさ。実家でなにしたか? 私はきー君の実家でのんびりできるだけでも嬉しかけど、きー君がいきたかとことか沢山あるんやったら私も一緒いくよー」
「んー、そうだな。二年と少しぶりだから色々懐かしい所は見て回りたいかな。その分、幼馴染に遭遇する率は上がるけど……、正直母さんの話を聞いた限りだと俺が何処にいても幼馴染がきそうな気がする」
母さん曰く、藍美は暴走しているらしいから。俺が帰ってきたことを知って接触してくる可能性は高い。
でも正直言って、今更俺に接触してきて藍美はどうしたいのだろうか? このまま地元に帰りにくいと言うのは嫌だから、これを機に帰りやすくなれるのはいい事だと思うけど……藍美が何を考えているのか、何をしたいのか……俺には藍美が中学デビューしてからさっぱり分からないのだ。
そんなことを考えていたらソファから起き上がった花音の手が俺の頬に触れる。
「きー君、なんばかんがえとっと? 幼馴染の子のこと? ね、きー君、不安やったとしても私と一緒にいるんやけん、私のことだけかんがえとってよ」
真っ直ぐに花音が俺の目を見つめて、そんなことを言う。その真っ直ぐな目から、俺は目をそらせない。
ただただ俺のことを真っ直ぐに見据える、美しい瞳。
その瞳に見惚れていたら、そのまま花音の顔が近づいてきて、唇を奪われた。
「ね、きー君、私のことだけをずっと、きー君は考えておけばよかとよ? 分かる?」
「……うん」
本当に俺は花音には敵わないと思う。
不安な気持ちよりも花音のことばかりが頭をよぎる。花音は素直にうなずいた俺を見て、笑って俺の頭を撫でた。
そんなやり取りをした後、俺と花音はGWに向けて荷造りを始めるのであった。
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