俺の地元へ ①
GWが始まった。
俺と花音と凛久さんは、早速俺の地元に向かって出発することにした。
地元までは一時間半ほどかかる。俺はこうして地元に帰るのも久しぶりすぎて内心ドキドキしていた。
花音がいるから地元に帰っても何の問題はないと思っている。けれども、やっぱり久しぶりだと思うと色々考えてしまうものである。
「喜一、大丈夫か?」
「きー君、大丈夫?」
凛久さんと花音は、駅まで歩く間に俺の顔を覗き込んで心配そうな顔をしている。
「うん。大丈夫。少し色々考えているだけだから」
幼馴染――藍美のことを俺が好きだとか、そういう噂が出回って、噂を信じた奴らに藍美を悲しませるなとか言われて、居心地が悪い中学生活だった。
そもそも中学に入学したころから藍美は中学デビューをしていて、俺は姿が変わっても幼馴染だと思っていたけれど、そもそも距離を置いたのはあちらが先だったはずだ。
なのに急に藍美が発端となって、そういう噂が出回り――、俺は人気者の藍美の事を悲しませている、藍美にその気がないのに好意を寄せているとか、そういう風に思われたんだったっけ。
藍美は男女共に仲が良くて、女子生徒たちとも仲よくしていた。
だからこそ女子生徒たちがまず俺のことを最低だとか、遠巻きになりだして……それで後は藍美の事を好いている男子生徒たちもややこしいことを言ってきた。
俺は藍美ほど交友関係が広いわけではなく、俺に普通に接してくれる生徒は少なかった。
幼稚園や小学生からの知り合いは、俺と藍美が幼馴染だって知っているしそういう目で見てくることはなかったけれど。
大人たちにまで伝染して、大人たちの中でもそういうことを言ってくる人もいたしなぁ。だから中学の最後の方は余計になんだかなぁってなっていたんだ。
でもそういう場所に向かうという今、俺は不安よりも楽しみの方が強い。
それはやっぱり目の前の二人のおかげだろう。
「ねーねー。きー君、私、きー君のことを虐める存在がいたらとっちめるけんね! きー君のことは私が誰からでも守るけん、安心してね」
「そうだぞ。喜一。変なこと言ってくる奴がいてもそもそも花音っていう可愛い彼女が隣にいればどうにでもなるだろうからな」
「お兄ちゃん、なん、それ」
「いやだって、喜一がその幼馴染の女と何かあったとしても、正直、花音がいれば最強だろう。花音がいるのに他の女に手を出すなんて説得力なさすぎる」
喜一さんはシスコン発言をしていた。
……でも確かに花音っていう彼女がいるのに、幼馴染とどうのこうのあるっていうのは説得力がない。花音は可愛くて、優しくて――花音がいれば俺は十分なので、誰かに目移りする気もないし。
そんな会話を交わしながら駅にたどり着き電車に乗る。
午前中の早い時間なのもあって、あまり人気はない。
「ねーねー、きー君、実家ってきー君のアルバムとかある?」
「あるよ」
「わー、じゃあ、みたかー! 子供の頃のきー君かわいかやろなぁ」
花音はそんなことを言いながら楽しそうににこにこしている。
「喜一は生まれてから中学までそこで育ったのか?」
「そうですよ。だから高校生活で一人暮らし初めて新鮮な気持ちでしたね」
親元を離れた事もなくて、地元を離れた事もなかった。だから高校で一人暮らしをすることになって、入学してすぐはバタバタしてたっけ。
そのころは花音と凛久さんは、長崎にいたんだよなぁ。
そう考えると今、一緒に地元へ向かおうとしているのが何だか不思議な気持ちになってくる。
「一人暮らしは中々大変だよな。俺が一人暮らしだって知って家に突撃してこようとした女も多かったからなぁ」
「それは凛久さんだけだと思います」
凛久さんみたいなかっこいい人がフリーだということで、女性陣たちは凛久さんを落とそうと必死だったのだろうと思う。
「お兄ちゃん、今は的場先輩おっけん、突撃もへっとー?」
「……いや、まだいるな。本当にうっとおしい」
凛久さんの周りには彼女がいてもグイグイ来る肉食系女子が多いらしい。やっぱりモテるのも大変だと思った。
「花音は喜一と付き合いだしてからも告白されるか?」
「ううん。元々私告白しちゃいけない雰囲気出していて告白、そこまで多くなかったし。そしてきー君と付き合いだしてからは今んところ、全然なかね。なんか周り曰く、私ときー君がイチャイチャしとーけん、割り込めないって思われとるみたい」
凛久さんの問いかけに花音がそう答える。
ゆうきや倉敷にも俺と花音は学園でいちゃついているって言われているもんな……。特にそういうつもりはないけれど、普通に花音と話していてもイチャついている認定されている気がする。
そんなこんな話していると乗り換えの駅にたどり着いたので、花音と凛久さんに声をかけて一旦電車から降りる。
乗り換えの電車がくるまで少し時間があるので、その間にベンチに座って飲み物を飲む。
駅のホームにある自販機で購入したものである。
「ふふ、なんかこーしてきー君の地元へ向かうとも旅行みたいでたのしかねー。大好きなきー君とお兄ちゃんと一緒にお出かけってたのしかー」
「花音、滅茶苦茶かわいか!!」
凛久さんは花音の発言にスマホでパシャパシャと花音の写真を撮っていた。
いきなり写真を撮りまくるのはどうかと思うけれど、凛久さんの言葉には同意である。
駅のホームには人が少ないけれど、凛久さんが急に写真を撮りだしたりしているからか目立っていた。
しばらくして乗り換えの電車がきて、電車に乗り込む。
それからしばらく電車に揺られて、俺の地元にたどり着いた。
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