日曜日に映画を見に行ったり、花音の部屋に行ったり ③

「じゃ、きー君、どーぞー!!」

「お邪魔します」



 映画館から帰り、いつも通り俺の家に向かうではなく、隣の花音の家に向かった。




 ……隣同士でも花音の家に入るのは初めてなので、ドキドキしてしまう。というか俺は花音が初彼女だし、普段から花音が俺の家に足を踏み入れているとはいえ、彼女の家に行くのは初めてだしな。あ、でも花音の実家には行ったことがあるし、はじめてとは言えないのか?



 花音の家は綺麗に掃除されていた。俺の部屋と同じ間取りのはずだけど何だか違う雰囲気に感じられる。女の子らしい家具が並んでいる。クローゼットも大きい。花音はおしゃれをするのも好きだし、沢山洋服があるのだろう。




「えへへー、きー君、此処すわっとって? きー君はお客様やけんね。おもてなしすっけんね。はぁー、なんか私、きー君家に散々お邪魔しとっけど、きー君がうちん家におっと少し緊張すんねー」



 花音は俺をクッションに座らせると、そう言って冷蔵庫の方に向かう。



 それにしてもこのクッションもかわいらしいピンク色のものだ。ハートの絵柄だ。あとは花音が好きなゲームのキャラクターのグッズも並んでいる。




 花音らしい部屋だと思う。

 まじまじと花音の部屋を観察してしまう。



「もーきー君、そがん見られっとなんだかはずかしかよー? ふふ、でもきー君に見られるんやったらよかってきもすーけどさ。きー君、はい、これ、コーラ!!」

「ありがとう、花音」

 花音は少し落ち着かない様子で、だけれども嬉しそうに微笑んでいる。そんな花音は俺の横に座り込んだ。

「きー君、なんすー? 私の部屋に来れてなんしたか? いちゃつく?」




 そんなことを急に言って、俺に笑いかける花音にコーラを吹き出しそうになる。

 花音は俺に対する警戒心がない……というか、俺になら何をされてもいいと思っているのか、そういうことをさらりと言う。


 俺は花音のその信頼が嬉しくて、だけれども花音のことを心配になったりもする。




「……花音、俺がそれで花音といちゃつきたいって言ったらどうするんだ?」

「え? いちゃつくだけよ。きー君といちゃつきたかって思うもん」




 満面の笑みでそんなことを言う花音を見ると、俺は一生花音に勝てないんだろうなって気持ちになる。

 全てを受け入れるような優しい笑みを花音は浮かべているのだ。




「……えーとじゃあ、とりあえず花音、ゲームでもするか?」

「むー。いちゃついてもよかとに。よかよ! ゲームしよ!」




 そんなわけでいつもと違う花音と家ということで、最初は俺と花音もすこしぎこちなかったけれど、ゲームをしているうちにすっかりいつも通りの雰囲気になった。




「はぁー、このゲームおもしろかよねー。シリーズとして長かし、シリーズものってよかよね」

「そうだな。このゲーム、結婚相手とか選べて、子供まで生まれて何だか面白いんだよな」

「ねー。そういえば、きー君は子供何人ほしか?」

「ぶっ、急に何を聞くんだ、花音」

「いや、だって私、きー君とずっと一緒にいるつもりやもん。そういう将来の計画は必要やろー? それで何人ほしかと? 私はきー君との子供なら幾らでもほしかよ!」

「……俺も」

「ふふ、きー君、将来のことを考えててれとー?」



 花音の言う通り、俺は花音の言葉に将来のことを妄想してしまっていた。



 俺と花音が結婚していて、子供がいて――なんていう幸せな未来。それを考えると幸せな気持ちになって、だけどちょっと恥ずかしい気持ちになる。

 でもきっと花音が俺の隣にいてくれるなら、俺は幸せだろうなと思った。



 その後はゲームをしたり、漫画を読んだりと、のんびり過ごした。花音が自分の部屋の中を沢山説明してくれて、花音の事をもっと知れた気もして嬉しかった。





「きー君、今日は楽しかったね……」



 しばらくのんびりと過ごしていたら、花音は眠たくなってしまったらしい。

 途中から声が小さくなっていく。




「花音、眠いのか? ベッドに連れてこうか?」

「うん。きー君」




 眠たそうに花音がうとうととしていたので、俺は花音の手をひいて花音を寝室へと連れていく。



 ……何だか彼女をベッドに連れていくってなると、別の意味に聞こえるかもしれないが、そういう意図はない。



 花音をベッドに寝かせる。



「花音、じゃあ、俺、帰るな」



 そう言ってそのまま家に戻ろうとする。だけど、それは他でもない花音に止められた。



「きー君、もっとここいーよ」



 寝ぼけているのだろうか。ただ傍にいてほしいと思っているのか、花音に手を掴まれる。



「えーと、花音、俺は男で花音は女で……間違いが起こる可能性も……」

「んー。恋人なんやけんよかよ」

「前も言ったけど、そういうのはちゃんと俺が責任とれるようになってからな」

「むー……真面目さん!」



 花音はそう言ったかと思えば、急に起き上がって、俺の頬に手を伸ばし、そのまま俺に口づけをした。




「しばらくはこれで我慢すーよ!! でもそん時になったら思う存分いちゃつくけんね」

「お、おう」

「きー君のことを私がおいしくいただくんよ!」

「いや、普通逆……」

「よし、きー君、もっとちゅーしよー」

「寝ぼけてるよな? 花音、ゆっくり寝てくれ」

「うぅ……もっといちゃ……」




 花音は途中から完全に寝てしまった。



 映画を見に行って、一緒に遊んで、花音も眠くなってしまったのかもしれない。

 俺は花音が寝息を立てて眠りだしたのを見て、家へと戻るのだった。




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