友人とカラオケへ

「よう、喜一、おはよう」

「おはよう。ゆうき」



 友人のゆうきとの待ち合わせ場所に到着した。待ち合わせは朝の10時すぎ。近くのカラオケで待ち合わせだった。

 俺もゆうきもカラオケが好きなので、休みの度にたびたび向かっている。昼ご飯を購入して、飲食持ち込み可のカラオケ店の中へと入った。飲み物だけはドリンクバーで頼んでいる。そしてフリータイムにする。



 案内された部屋の中に入って一息をつく。ゆうきが歌を入れているのを見て、スマホを覗いたら天道からの連絡が来ていた。



『上林先輩、おはようございます!!』

『天道、おはよう。どうした?』

『暇なので、連絡しただけです』



 天道は暇らしい。ここ数日、驚くほどにずっと一緒に居たから俺が何をしているのかが気になったのかもしれない。



「喜一、俺は曲入れたから次な」

「ああ」



 天道への返信を一先ずおいておいて、俺は自分が歌う曲を入れる。そしてゆうきが歌っている間に、返信をすますことにした。



『そうか。俺はカラオケに来ている』

『カラオケ!? いいですね。私も行きたいです!』

『行けばいいだろ』

『上林先輩と行きたいです!』

『機会があったらな』

『本当ですか?』


 わーいと表現しているスタンプも同時に送られてくる。



 思わずそれを見て小さく笑ってしまう。本当に天道は、朝から元気で一つしか変わらない相手にこの言い方は変かもしれないが、無邪気だと思う。



 天道からの連絡を見て、ゆうきに天道のことを言おうと思い起こす。ただしばらくは歌を入れてしまっているみたいなので、昼食を食べているタイミングで言おうと決意した。










「ゆうき、隣に住んでいる天道のことなんだが」



 そしてある程度区切りがついた昼食の時間、二人して歌を入れるのを一旦やめたタイミングで俺はそう繰り出した。



「天道さんがどうかしたのか? まさか、隣に住んでいるからって関わることになったとかは……まさかないよな? ちょっと話す機会でも増えたか?」



 天道の話題をそんなに出してこなかった俺が急に天道の話をしだしたので、ゆうきも少しは察しているらしい。とはいえ、流石に天道が俺の家に入り浸っているとは想像もしていないようだ。

 俺も逆の立場だったら嘘だろと思うだろうし、仕方がないだろう。



「あー……なんていうか、ここ数日、なぜか仲良くなった」

「お、そうなのか?」

「ああ。なんかここ数日、天道が毎日俺の家に入り浸っている」

「は? なんだ、それ」



 正直な話を口にしたのだが、突然何故その状況になるかも含めて理解出来なかったようだ。ぽかんとした表情を浮かべている。気持ちは分かる。

 しかし、俺が口にしていることは紛れもない事実である。

 改めて考えてみても天道が俺の家に入り浸っていて、夕飯まで共にして、気づけば眠って泊まり込んでいた李していた状況って意味が分からない。天道は無防備すぎると思う。



「……天道さんが、喜一の家に入り浸っている? ちょっと理解が追い付かないが、具体的にはどういうことなんだ?」

「なんというか……天道は素は学園にいる時と大分違う。具体的にはどうかは流石に話せないが、たまたま天道と話す機会があって、それがきっかけで急に天道が話しかけてきたんだ」

「まぁ、隣室に住んでいるのならば話す機会ぐらいはあるだろう。それは理解できるが、ここ数日で部屋に入り浸っているっていうのは流石に理解が出来ない」

「大丈夫だ。俺自身も何でそうなっているか理解出来ない。なんていうか、天道は声にこだわりがあるらしく……、たまたま聞いた俺の声が好みだったらしい」

「声……? まぁ、確かに喜一は良い声をしているとは思うが」



 天道花音が声にこだわりがあるというのが結びつかないようで、頭に?マークを浮かべたままゆうきは話を聞いている。



「それで素の天道は結構グイグイ来る。俺に台詞を読んでほしいとか、暇だから遊びましょうといって俺の家に突撃してくるようになった」

「あの天道さんがねぇ……学園の様子を見るとそんな風に来るようには見えないがなぁ」

「本人はイメージを崩したくなくなったとかいってたな」

「あー……まぁ、確かに一度何かしらのイメージをつけられたらそれを崩したくないって気持ちは分かる。しかし喜一のいう天道さんが全く学園と一致しないから双子か何かか? って気分になってしまうんだが」

「素の天道の方が話しやすいから学園でも出せばいいのにとは思うんだがなぁ」

「へぇ。そのうち喜一の家に行くタイミングあればその時に会えたら素の天道さん見てみたいな」



 ゆうきはそんなことをいいながらコンビニで買ったクロワッサンを食べている。



「天道も今は俺に興味を抱いて関わってくるが、多分そのうちかかわりもなくなるだろうから、来るならはやいうちがいいんじゃないか?」

「そうかな? 喜一って面倒見もいいし、天道さんが部屋にいても平然としてそうだし、天道さんからしたら関わりやすい人間だろうから、もっと仲良くなるんじゃね? って思うけど」

「いや、ないだろ。二学期入ったらそのうち関わらなくなっていくかと思うが」



 俺がそんな予想を口にしたらバッサリと何度か否定された。

 





 それから昼食を食べる間は、天道についての話題ばかりを口にしていた。




 昼食が終われば、また歌をそれぞれ歌った。



 カラオケを数時間楽しんだ後、天道に『今終わったから帰る』と送れば、『じゃあ、家着いたら教えてください』と返信が来た。



 ゆうきに誰と連絡を取っているか聞かれて、「天道と」と答えたら、「やっぱりそのうち関わらなくなるというのはないと思う」などと断言されてしまうのだった。

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