夜になった。



 天道の望むままに台詞を言った後は、俺はギャルゲーの続きに勤しみ、天道は昨日同様に自由に過ごしていた。夕飯は天道が作ったものを食べ、そのあとはそれぞれ自由行動である。



 今日も昨日のように寝てしまったら困る。

 そう思いながら昨日と同じようにソファで寝転がって漫画を読んだり、スマホをいじったりしている天道の事を見る。



「何ですか、私の事をそんな風に凝視して。何か私の顔にでもついていますか?」

「いや、昨日と同じようにソファに寝転がっているから昨日みたいに寝るんじゃないかと思ってしまっただけだ」

「大丈夫ですよ!! 今日の私の目は凄くさえていますし、なんなら徹夜でも出来そうなぐらいの元気さがありますよ」

「徹夜はやめてくれ。俺も流石に明日は用事があるから徹夜は出来ないから」

「冗談ですよ、冗談。本当に徹夜するわけないじゃないですか。っていうか、上林先輩、その言い方だと翌日に用事がなければ私が徹夜するって言ったら付き合ってくれるようなそんな感じだったりします?」

「まぁ、まだ夏休みだし、問題はないからな」

「もー、私の事を甘やかさないでくださいって何度も言っているのに、そんなに甘やかせるようなことばっかり言って! どんどん甘えちゃいますよ?」

「甘えられても特に問題はない」

「もー、簡単にそんなことを言っちゃだめですよー?」



 特に甘やかしているつもりもなければ、天道が少しぐらい我儘言ったところで問題はない。本当に嫌ならば俺は完全に拒否するし。

 とはいえ、話し始めて数日でこんな気持ちになるのは天道がグイグイ来るからだろう。



「そのギャルゲーも結構進んでますけど、次はどんなのがいいですか? ちなみに乙女ゲームを持ってくる予定なのですけれど、乙女ゲームの中にはこう、登場人物がどんどん住んでいくのだったり、ヤンデレ監禁バッドエンドとかあったりするんですけど」

「おい、それ明らかに天道の年じゃダメじゃないか?」

「えへっ」

「ごまかしてもダメだぞ……。まぁ、いい。俺にやらせてくれるっていうのならばちゃんと全年齢性の奴にしてくれ。あと乙女ゲームをやるのも俺は初めてだからもう少しこうソフトな物の方が良い」




 明らかに年齢制限がかかって天道の年齢では買えないようなものを買っているんだと呆れてしまう。


 そう言うゲームは正直乙女ゲームをやったことのない俺にとっての初めての乙女ゲームにはハードルが高すぎる。天道は俺の言葉に悩み始めてしまった。



「うーん。となると、どうしようかなー。私がお気に入りの奴は結構死にルート会ったりするものなんですけど、死にルートあるものとかでも全年齢性のものなら大丈夫ですか?」

「ああ。それならまだ……、というか死にルートあるものとかも好きなのか?」

「死にルートというか、そこそこ濃いキャラクターとストーリーがあるもののほうが好きなんですよ。死にルートが多い乙女ゲームだと、何時でも死のうとするなと思えるぐらいにどのルートでも死ぬ子がいたりするんですけど。あるルートでは死なずに済むとかあって、そういうの見ると楽しいんですよねー。あと死に際の声とかって、とても素晴らしい演じ方をしてくれる声優さんたちも多いですし」




 そんなことを語られて死にルートが多すぎる乙女ゲームの良さはやってみないと分からないだろう。登場人物がどんどん死んで行ってしまうとか、不幸すぎるだろと思うものの天道がこれだけ進めるというのならば面白いゲームなのだろうと思う。

 天道が楽しそうにしているのを見ていると、俺もそのゲームに興味が湧いてくる。




「興味が湧いた」と口にすれば、天道は「本当ですか? じゃあ次のゲームはそれですね」と満面の笑みを溢したのだ。



 天道は好きなものに関して話すときにはいつだってこんな風に生き生きしている。



「早速明日――って、明日は上林先輩はおでかけでしたね。それにこのギャルゲーもまだ終わっているわけではありませんし……」



 天道は明日と言いかけて、はっとした表情をし、しゅんとした顔に変わる。ころころ表情が変わって、本当に面白いと思う。



「……明後日は来る予定あるんだろ。それに、友人と遊び終わった後にこちらに来ても構わない」

「え、本当ですか!? じゃあ上林先輩、遊ぶの終わったら私に連絡してくださいよ!! そしたらすぐに駆け付けますから!」

「ああ。分かった」

「約束ですよー。ふふ、明日も上林先輩と遊べるなんて楽しみです! って、もうこんな時間ですね。私、今日は帰りますね。これ以上居座るのは明日お出かけする上林先輩にはつらいと思いますし」

「ああ」

「じゃあ、おじゃましました!! 上林先輩、また明日」

「ああ。また明日」




 天道はにこにこと笑いながら、隣室へと戻っていくのであった。

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