昼食をとって

「おいしい。私、コロッケ好きなんですよねー」



 目の前で天道はにこにこと笑ってそう言った。嬉しそうに食事をする様子を見ると、こっちも笑みを溢してしまいそうになる。天道の笑みにはそれだけの威力があった。



 ちなみにコロッケや焼き鳥のほかにおにぎりも買ってきた。俺は焼きそばとおにぎりを食べる予定だ。レンジでチンをして、あつあつの焼きそばを食べる。



「上林先輩、焼きそば美味しいですか?」

「ああ。うまい」

「私も焼きそばも好きなんですよね。美味しいものを食べると幸せな気持ちになりますよね!! あといくらかかったか教えてくださいね。払いますから」

「ああ。ご飯食べ終わった後にな」

「はい!」

「あ、そうだ。天道、明日は友達と遊ぶから」

「そうなんですか? 分かりました!! じゃあ明後日は私とまた遊んでください!」

「……ああ。それは構わない。あと親しい友人にぐらいは天道と仲良くなったことを言ってもいいか?」

「別に構いませんよ。上林先輩がそういうってことは言いふらすような人ではないんでしょう?」



 ……天道の俺への信頼が重い。何でこんなに信用してくれているのか不思議な気分だ。

 まぁ、信用されるのは悪い気は全くしないけど。寧ろ嬉しい。




「ああ。俺と天道が隣人なのも言いふらしたりしていないし、問題はない」

「ふふ、なら良かったです! まぁ、私としては別に上林先輩と仲良しですよーって言いふらしても問題はないのですが。ただ、上林先輩に迷惑はかけたくないので、言いふらしはしませんが」

「そうしてくれ」



 天道の言葉に俺は頷く。

 言いふらされでもしたらどうなるか分かったものではない。



「それにしても上林先輩の焼きそば美味しそうですね。一口もらってもいいですかー? 代わりにこの焼き鳥、一口あげますから」

「いいぞ」



 そう言えば天道は新しい割りばしを使って、焼きそばを取って口に含んだ。焼きそばを口に含んだ後、顔を破顔させる。



「美味しいですねー。じゃあ、上林先輩、これどうぞ。そのまま行ってもらってもかまいませんよ?」



 串にささっているモモを差し出してくる。

 いや、流石に間接キスはと思い、それを直接食べる事はしない。天道はえーっと言った顔をしていたが、箸で一つ取ってそれを食べる。タレが利いていて美味しい。



「もーそのままがぶっと食べていいのに。私は気にしないのに」

「俺が気にするんだよ」

「上林先輩は真面目さんですねー」



 天道が笑う。

 にこにことした目で何だか恥ずかしい気分になって、その視線を無視するように焼きそばを食べた。



 昼食が終わった後、天道から買い物代金を半分受け取った。





 それから天道に台詞行ってほしいとせがまれたのでノートを開いて、台詞を読み上げることにした。

 また天道はキラキラした目でソファの上に正座してこちらを見ている。何で毎回正座するんだろうか。




「……何で正座するんだ? 正座、つらくないか?」

「大丈夫です! それにこれから上林先輩の声を堪能するというのですから、こうして正座してきちんと待機するのは当然なのですよ。上林先輩の声で台詞を言ってもらうんですよ?」

「大げさな……」

「大げさじゃありません。私みたいな声にこだわりがある人間からしてみれば、好みの声というのはそれだけで特別なものなんですよ? 好みの声で、好きな台詞を言ってもらえるなんてなんていうご褒美なのでしょうか! 寧ろこれをご褒美と言わずに何というんですか? 私としてみればお金を払いたいぐらいです」



 キリッとした表情で天道はそんなことを言う。

 何を言っているのか、理解は出来ない。まさか、天道以外にもこういう人間はいるのだろうか……。俺は天道以外にこんな風に言ってくる人間には会った事はないが。



「お金なんていらない。そんなものじゃない」

「もー、上林先輩は自分の声の良さを実感していませんね。とっても素晴らしい声なんですよ。私にとっては聞いているだけで幸せになれるような良い低音なのです。ぶっちゃけ、天道って呼びかけられるだけでも良い声だなぁとなる感じなんですよ?」

「お、おう、そうか」

「そうですよ! お金を払うのは上林先輩が嫌がるだろうから別の方法で還元していくのです。私は上林先輩に沢山もらっちゃっている現状ですからね。なので、上林先輩、是非とも私にやってほしい事があったら何でも言ってくださいね!」

「あ、ああ」

 相変わらず勢いが凄い。あと早口で何言っているか分からない時もある。

「さて、では、お願いします!!」



 そしてお願いしますと言われて、天道の望むままに幾つか台詞を言うのであった。






 言い終わった後には、

「はぁー、やっぱり良い声ですね。良い声をこんな風に私の望み通りに言ってくださるなんて、本当に感謝しかありませんよ。とっても良い声です。低音が利いていてこう、目を瞑って聞いていてもああってなるような感じで……っ。良い声です!! 今日もありがとうございました!!」

 天道は笑みを浮かべて俺に最敬礼をした。……天道が満足した様子で俺も良かった思う。台詞を言うなんて恥ずかしい事しながら、天道に満足されなかったらやった意味がないもんな。

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