俺の地元へ ④
「それでですね、きー君が……」
花音が嬉しそうに微笑みながら、俺との出会いについて冬人たちに語っていた。
――花音はいつだってにこにこしていて、そうやって前向きでいつも笑っている花音の事が好きだなぁと思う。
そうやって穏やかに過ごしていたら、ピンポーンと来訪を告げる音が鳴った。
カメラ付きの玄関チャイムなので、先に誰が来たか確認することが出来た。
そこにいたのは……、藍美のお母さんである。俺は思わずびくりとしてしまう。
母さんがおばさんが藍美に同調して暴走していると聞いていたけれど、早速此処に実家に戻ってきていることを聞きつけてやってくるなんて思ってもいなかった。
『喜一君!! 喜一君!! いるのでしょう!! 藍美ちゃんに会うために帰ってきたのよね?? 藍美ちゃんは喜一君のことを許すと言っているのよ!! 今すぐ藍美ちゃんの所に行くのよ!!』
正直そんな声を聞いて俺が思ったことは、えー、なにこれ?? というそういう気持ちであった。
画面越しに見るおばさんは、にこにこと笑っている。
だけど言っている言葉がおかしい。何で俺が藍美に許されるとか、そういう話になっているんだろうか。ゴンゴンゴンッと玄関を叩き、恐ろしいことを口にしていて明らかに引きそうになっている。
「うわぁ、相変わらずこの人狂ってんな。喜一、一旦無視でいいぞ。流石にあの人も無理やり入っては来ないだろうから」
ゴンゴンゴンッと音が響いているが、冬人はそんなことを言っていた。
「……俺がいなくなった後、大変だった?」
「そうだな。俺や菊夜にも結構突撃していたぞ。他校なのに、すげぇよな。藍美もあのおばさんも。何だか喜一がいなくなったからって、凄い取り乱していたし」
「うん……藍美も中々、喜一に執着していたから。あのまま地元にいたら大変だったと思うよ。だから喜一は地元を出て正解だったと思う」
俺の問いかけに冬人と菊夜がそんなことを言う。
それにしても俺がいなくなって取り乱していたか。……本当に何を考えているのかさっぱり分からない。中学に上がった頃から、藍美のことは理解できなくなっていたが、おばさんのことも訳が分からない。
「ふふふーん。きー君は地元を出て正解よ。地元をでたけん、私っていうかわいか彼女できとーし、きー君幸せやろ?」
「そうだな。そういう思い込みがはげしかやつは大変やけんな。それにしてもそれだけ喜一に執着してるとか、俺もこっちきてよかったよ」
花音と凛久さんがそう言って、笑っている。
うん、俺、花音にも出会えたし今の高校に通って良かったと思ってる。幸せだと頷いて笑えば、花音が嬉しそうに微笑む。
それからずっとゴンゴンゴンッと玄関を叩かれていたが、それは途中で止んだ。どうやら諦めたらしい。
それにしても藍美やおばさんからしてみれば、俺はどういう立ち位置なのだろうか。
「藍美はなんか、『喜一は私の事を大好きなの! 自分の意志で地元を出ていくはずがない』とかわけわかんない事、言ってたっぽい。高校でも二年以上会っていないのに喜一の事を話しているらしいけど。藍美が言った高校って、他中の連中も多く通ってるし、喜一は周りから藍美の彼氏認定されていると思う。そういう話を藍美と同じ高校にかよってるやつが言ってた」
「はい?? なんで?? そもそも藍美が俺が藍美の事を好きって言いふらしていたのも意味分からなかったのに、どういうこと??」
地元から進学する事が想定されていた高校は何校かあった。藍美が通っている高校は、同中の人たちはあまり通っていないらしい。ただ藍美は中学の頃、俺に好かれていて困るとか言っていたため、高校に進学して俺のことばかり話す藍美に同中の連中は統合性がない話に藍美から離れるものもいたらしい。
というか、本当に何で二年も会っていないのに俺が地元に帰っていない間に勝手なことを言っているのか。
「ふーん。幼馴染さんは私のきー君に執着しとっとね。でも残念ねー。きー君は私んものやもん。戸惑っとるきー君もかわいかねー。きー君、どんな言いがかりをつけられても私がきー君の事まもっけんねー」
予想外のことを藍美が周りに言いふらしていることに、理解が追い付かなかった。
けれど、花音がにこにこと微笑むから、その姿を見ていると藍美のこともどうでもいいかという気持ちになった。
「藍美と同じ高校はそれなりに藍美の言い分信じているっぽいけど、俺たちの通う高校の連中は俺たちから説明したし、藍美が勝手に言っているだけって理解しているけどな」
「他校の僕たちのところまで藍美は突撃していたから、大分藍美有名なんだよ。悪い意味でも」
……っていうか、藍美がそうやって騒いでいるせいで、俺のことも少なからず噂になっているってこと? 嫌だなぁと言う気持ちにはなった。やっぱり地元を出て良かった。
「でもまぁ、花音ちゃんみたいな可愛い彼女がいることが分かればそういう噂もなくなるだろうし」
「花音ちゃんと一緒に街をぶらぶらすればいいんじゃないかな。藍美は突撃してくるかもだけど、花音ちゃんなら大丈夫そうだし」
そして冬人と菊夜にそんなことも言われるのだった。
そういうわけで街をぶらぶらする時には、藍美がやってくる可能性も大きいだろう。ちらりと花音を見れば、「私はその幼馴染が来ようとも、まけんけんね!!」なんて言って笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます