二人きりの夕飯

「上林先輩、出来ましたよー」



 天道が夕飯を作っている間も、俺はギャルゲーをしていた。中々目標のエンドに向かわないので、再挑戦していた。また一番初めにやった生徒会長ルートをやっていたのだ。



 少しずつ、生徒会長攻略の糸口が辿れてきたのでそれに熱中していた。



 天道は机の上に皿に乗せた料理を運んできた。

 炊き立てのご飯に、冷蔵庫の中にあった野菜を炒めた野菜炒めに、これもまた冷蔵庫の中にあった卵で作られた卵焼き。簡単に作られたものだが、美味しそうだ。

 見ているとお腹が鳴った。



「お腹すいているんですね。私もお腹ペコペコですよ! さぁ、簡単なものですが、召し上がれなのです!」

「ありがとう、天道」

「どういたしましてー。私も食べます!」



 ゲームは床に座ってやっていたので、一旦ゲームを中断してソファに移動する。そうしたら天道は当たり前のように俺の隣に座った。



「じゃあ、いただきますして食べましょう」

「ああ」




「「いただきます」」



 二人でいただきますと言ってから、食事をする。



 早速卵焼きから口に含む。甘さが利いていて美味しい。俺の好みの味である。野菜炒めの方も塩コショウで味付けされただけだが、美味しかった。



 夕食を取りながら、天道と会話を交わす。



「上林先輩は料理は結構する方ですか? 私はこの春から一人暮らしし始めたばかりなので、まだまだ簡単なのとかしか出来ないんですよねー」

「俺もそんなに出来ない。簡単な一人暮らしの食事だな」

「ですよねー」

「というか、聞いてもいいか分からないが、一つ聞いてもいいか?」

「答えられることなら問題ありません」

「中学生まで長崎に住んでいたって言ってたけど、親と一緒に暮らしていないのは何でなんだ?」

「あー、それはですね。元々おばあちゃんの家がこっちにあって、その関係でこっちに住むってことになったんですよ。だけど、私が通うことになった高校まで電車通学になりそうで……ぶっちゃけ、私って可愛いじゃないですか。可愛い私が毎日電車に乗って通学すると痴漢とかに狙われるんじゃないかってお父さんもお母さんもお兄ちゃんもおばあちゃんも心配しちゃって。私も一人暮らししてみたいって願望があったし、それで一人暮らしすることになりました! このマンション、歩いて学校行けるから近くて楽なんですよねー」



 何か深い理由でもあったらまずい事を聞いたかもしれないと思ったが、深い事情はないらしい。

 確かに、天道は可愛い。これだけ可愛い妹が居たら俺も心配するだろう。




「でも、一人暮らしは一人暮らしで危険なことはないか?」

「だからこそ、セキュリティもよさげなここにしたのです。このあたりは治安も良いですし、心配性な家族とは連絡も毎日のように取り合ってますしね。そんな上林先輩は何で一人暮らしなのですか?」

「俺の場合は地元ではない高校に通うことになったのと、父親が仕事で海外に行くことになって母親もついていったっていうのもあって一人暮らしをしてる」

「へー。上林先輩はついていかなかったんですね。まぁ、ついて行ってたら今こうして上林先輩と過ごすことも出来なかったということですし、私としては上林先輩が日本に残ってくれて嬉しいですけどね!」



 ……笑顔でそんなことを言われて、悪い気持ちにはならない。素の天道はさらっとこういうことを言うから、人によっては勘違いして大変な気がする。やっぱり、素の天道には少し心配になる。



 俺の両親は現在海外暮らしである。俺は諸事情で地元以外の高校に行きたかったというのもあり、そのことを両親が知っていたのもあり、こうして一人暮らしをしている。地元はそこまで遠い距離でもないから通おうと思えば実家からも通えたんだけどな。



「まぁ、高校受験の後に急に決まったし。それに俺は外国語喋れないからな……。日本で発売するゲームもやりたいの沢山あったし」

「そうなんですね。まぁ、日本にいるからこそ好きな本すぐに買えたりとかしますしね。私も日本暮らしを楽しんでいるので日本にいたいなーって思います」

「だよな。あとさ、毎日のように連絡とっているって、俺の家に入り浸っていることも知ってんの?」



 ふと気になって問いかける。



 心配性な家族が、隣人の男の家に天道が入り浸っているのは知っているのだろうかと。

 天道はあっけからんとした表情を浮かべて笑った。




「お母さんは知ってますよ! 幼馴染も知ってます。お父さんとお兄ちゃんはどうだろ? お母さんが話していないなら知らないかもです!」



 ……それ大丈夫なんだろうか。俺だったら可愛い娘や妹が男の家に入り浸っていたら心配になるんだが。妹がいないから実際の所は分からないが。



「まぁ、心配は無用なのです。お母さんは寧ろ、お世話になっているのね、挨拶しないとって言ってました」

「……そうか」



 まぁ、考えても仕方がないことなので一先ず置いておくことにする。もし天道の家族が俺の元へやってきたとしても、ただゲームしたりして遊んでいるだけだし問題ないしな。



「「ごちそうさまでした」」




 その後、夕飯を食べ終わり、またギャルゲーを再開する事になった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る