日曜日を三人で

「今日は何をするんだ?」

「ここでのんびり過ごす! きー君と遊ぶの!」

「……日曜だと言うのに、出かけたりしないのか? 俺は花音とお出かけしたい!!」

「却下! きー君と私が仲良く歩いていたらきー君に迷惑かけちゃうでしょー」

「は? なんだ、それは」




 凛久さんは花音とお出かけをしたかったらしい。それで俺に迷惑をかけると花音が言ったかと思えば、その言葉を聞いた凛久さんは俺を睨むように見た。説明しろとその目が語っている。



「あー……花音は学園で、聖母のようだとか人気者なんですよ。ファンクラブみたいなのもあるぐらいで、俺が花音と仲良くしているって悟られたらややこしいことになりそうなんで」

「なんだと!? 花音が聖母のようだというのは分かる。花音は可愛い。俺の妹は目の中に入れてもいたくないぐらいに可愛い!! それは当然として、喜一は花音と仲よくしているというのに、周りの目を気にして外では会わないというのか!? そんな覚悟もなしに、俺の妹と仲良く――」

「お兄ちゃん、ステイ!!」



 ……急にくわっとした表情で俺に迫ってきた凛久さんに、花音がまるで犬か何かを止めるように制止の声をかけた。本当にこの二人は似ている。



「きー君に、そんなこと言わないでよ!! 私が学園で周りのイメージ壊すのやだなってそのまましているからってのもあるんだから!!」

「周りのイメージ通りのように演じる花音……くっ、見たい」

「やだよ、恥ずかしい」

「俺は見たい。喜一は同じ学園だから見放題だろう!! 普段と違う様子の花音……なんて素晴らしいんだろうか」

「いや、きー君は学年違うから見放題じゃないし! 私もきー君のことを学園で見かけたいって思とっても見かけられんとに」



 二人の会話を聞きながら、俺は凛久さんの言っていることを考える。確かに花音とこれだけ仲よくしていて、外には外出したくないっていうのはちょっとずるいかもしれない。



 確かに花音と仲よくしているのを知られたら色々とややこしいことにはなる。花音のファンの連中は色々言われるかもしれないが、もしこれからも仲よくするならそんなことは言ってられないだろう。

 ああ、でも……花音の事は呼び捨てになったし、凛久さんとも出会ってしまったけれど、ぶっちゃっけずっとこのまま花音と仲良くやって、これ以上仲良くなるとかは想像しにくい。花音と話すのは楽しいし、花音のことは面白い後輩だと思っている。でも現状それだけで、それ以上にまで食い込んでいるわけではない。

 ……もし花音と学園でも仲よくするって事になるのならば、その時は俺の中で花音が特別になった時だ。



 そう考えながら、口論を交わす二人を俺は止めるのだった。




 結局、花音と俺が出かけることを拒否したので、今日も一日家でのんびりすることになった。







「きー君、これ、面白いですね」



 花音はまるで自分の家でくつろぐかのように、ソファにパジャマのまま寝転がって漫画を読んでいる。

 昨日は凛久さんが突然襲来してきたからか、驚いた花音はいつも通りの無防備な姿をあまり見せていなかったのだが、今日はもういいやと思ったのかすっかり昨日よりくつろいでしまっている。



「花音!! 男の家でくつろぎすぎだ!」

「もー、お兄ちゃん、煩いよ。きー君家だから大丈夫だって」



 凛久さんは無防備な花音の体にブランケットをかけていた。そして俺に「花音が無防備でも駄目だからな!!」と警告していた。まぁ、妹がこれだけ無防備にしていたら不安にもなるだろう。



 そんな会話の後は、花音は漫画読んでるし、俺はスマホゲームしているしで、自由だ。凛久さんは「俺は何をすればいいんだ!」とか落ち着かない様子だったが、「自由でいいよ」と花音に言われて、テレビをつけてみていた。

 スマホゲームに熱中して、ずっと指を動かしていたらすっかり昼になっていた。

 俺が昼時に気づいたのは、その美味しそうなにおいからだった。先ほどまでそれぞれ他のことをしていた花音と凛久さんが俺がスマホゲームに夢中だからと二人で昼食を準備してくれたらしい。




「ごめん。花音、凛久さん、昼食作ってくれてたんだな」

「謝らなくていいですよ! 今出来たから食べましょう!!」

「喜一、花音の手作りだと神に感謝しながら食べるがいい」



 三人で机に昼食を並べて食べる。




「それにしても花音も喜一もそれぞれ他のことをするなら、花音は漫画を部屋に持ち帰って読めばよくないか?」

「嫌だよー。きー君家で、きー君と他愛もない話しながらなのが楽しいんじゃんか。一人で部屋で漫画を読むのも寂しかし。きー君家に来とったら、漫画読みながらきー君と話したり出来るやんか。そっちの方が楽しかもん」

「ぐぬぬ、そうか」



 凛久さんはどうにかもう少し俺の家に花音が遊びに来る頻度を減らしたいようだが、花音は減らす気はないらしい。



「喜一、花音に来て欲しくないとか思ったらすぐいうんだぞ」

「なんばいいよっと、お兄ちゃん!! 私はお兄ちゃんになんて言われようときー君家に来るけんね?」




 凛久さんは花音にすごまれて、納得いかなさそうに頷いた。

 それにしても家に来る? って、聞くとなんか違和感がある。……花音が行くのに来るっていうのか? 方言はよく分からないが、長崎だとそういうのか? そのうち花音と凛久さんの会話とか聞いてたら俺も方言が分かるようになったりするんだろうか。

 そんな風に思いながら俺は花音と凛久さんの会話を聞いていた。






 それから、夕方まで自由に遊んだ。花音が言ってほしいという台詞を凛久さんの前で言ったりするのは恥ずかしかったが……すぐに慣れた。

 夕方になると凛久さんは明日は大学だから帰ると言った。



「お兄ちゃん、帰るんね。じゃあ、また!」

「待て待て花音。もう18時だぞ? 花音も帰ろうな? いつまで居座る気なんだ?」



 花音が凛久さんを見送る側に回っていることに、凛久さんが突っ込みを入れる。




「えー……きー君、まだいいですよね?」

「俺は構わないが……」



 俺は構わないが、と思いながら凛久さんを見れば凛久さんは凄い形相をしていた。しかし花音が俺の家にまだ居座る気満々なことが分かったのか、



「喜一、連絡先を交換するぞ」

「いいですけど……」

「花音に手を出していないか確認するからな!! ついでに花音の可愛い写真もおくれ!!」



 確認の連絡をさせられるらしい。

 それから凛久さんと連絡先を交換して、凛久さんはまた俺に「確認するからな!!」と言って去っていった。

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