体育祭の競技

 週明け、俺はいつも通り起きて学園に向かった。

 昨日は夜遅くまで花音が俺の部屋にいた。このまま泊まったら駄目かなどと問いかけられてしまったが、流石にそれは断った。



「凛久さんもいないし……」というと、「じゃあお兄ちゃんが居ればオッケーですね?」と言われてしまったが……もしかしたら花音は凛久さんが来たときは俺の部屋に泊る気なのだろうか……。

 そんなことを考えながら学園の教室にたどり着く。




「今日さ、花音ちゃんに挨拶したら、『おはようございます』って返してくれたんだ。本当に可愛いよなぁ」

「達史は本当に天道さんのことが好きね。でも天道さんみたいな聖母様相手は大変よ? それよりもわ、私と……」

「ん? なんだ、郁子、最後の方聞こえなかったが」

「な、何でもないわよ、達史のバカ!」

「な、なんだよ! バカって。それよりさ、花音ちゃん、最近俺に返事してくれているし、遊びとか誘ったら来てくれるかな?」

「二人きりはハードル高いわよ! それなら私たちも一緒に行くわ。それに二年生に囲まれたら天道さんも委縮するでしょう? 天道さんを誘うって言って後輩も誘いましょうよ」




 クラスでの目立つグループの倉敷達史と、三瓶郁子の声が響く。二人とも美男美女である。



 倉敷はどうやら花音に惚れているのか、本当によく花音の話題を口にしている。元気系のスポーツ少年で、サッカー部のエースで女子生徒によく呼び出しされている。

 三瓶郁子は髪を茶色に染めていて、化粧もばっちりきめているような目立つ女子だ。花音とは違ったタイプで男子生徒にもてる美少女である。



 花音の事を誘う気なのか、と思いながら俺は席に座ってぼーっとしていた。



「おはよう。喜一」

「ああ、ゆうき、おはよう」

「土日は相変わらずだったのか?」



 花音の名前を出さずにゆうきが問いかけてくる。流石に教室で花音の名前を出すのは面倒なことになると、ゆうきも分かっているのだ。互いにしか聞こえないような距離で話しているとはいえ名前は出さない方がいいだろ。



「ああ。今回は兄まで来た」

「へ? 兄もか? ちゃくちゃくと仲良くなっているなぁ」



 面白そうな顔をしてゆうきが言う。



 まぁ、確かに最初に花音と話し始めた時よりも着々と仲良くなっている気がする。まさか、花音の兄である凛久さんとまで交流を深めることになるなんて思わなかったからなぁ。



「まぁ、仲良くなるのは良いことだな」



 そう言いながらちらりとゆうきは倉敷たちの方を見て、続ける。



「知られたらややこしそうだよな、本当」

「ああ」



 だから隠せるだけ隠す。花音は人気者だから俺みたいな普通の生徒と仲よくしていたらきっと騒がれるだろう。今、花音の話をしている倉敷たちだって驚くことだろう。


 そんな会話を交わしているうちに、朝のホームルームの時間になった。





 二学期に入って体育祭と文化祭が順次行われていくというのもあって、今日は体育祭でどの競技に出るかの話し合いもされる。文化祭のことは、また後日に話し合いされることになっている。



 それにしても体育祭と文化祭の時期ってうちの学園は近いんだよな。文化祭は外部からも人が来れるようになっていて、花音が学園外にまで広まるぐらいの人気者だから多分去年よりも来場者は多いと思われる。

 そう考えると花音の影響力はすさまじいと思う。




「では次は――」



 順当に体育祭の競技が決められていく。

 俺は足が速いというわけでもないので、無難に個人競技は障害物競争と玉入れに参加することにした。

 ゆうきは俺よりも足が速いので走る系の競技に出ることになっている。

 体育祭の競技決めが終わった後にスマホを見たら花音から連絡が来ていた。



『きー君、体育祭、どの競技になりました? 私はリレーと100メートル走に出ますよ!』

『俺は障害物競争と玉入れだ』



 それにしても見事に走る競技に出るらしい花音は、成績もよいし、運動神経も良いし、本当にハイスペックだと思う。



 才色美女と言う言葉が良く似合う。その単語だけ聞くと普段の花音は本当に想像できないよなと俺は思うのだった。

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