花音と、一年生 ①
「天道さんは入学したばかりの一年生にも人気みたいだな」
「花音だからな」
放課後になってすぐ、ゆうきに告げられた言葉に、俺はとくに驚きもしなかった。
花音は可愛いし、一緒に居て楽しいし、誰もが振り返るぐらい魅力的だから。この学園の中で誰もが名前を知っているぐらい有名だし。
そういえば、倉敷は三瓶と友人関係を続けている。そういう目でまだ見れないというのを返して、前と同じように……いや、前よりも仲よくしているらしい。
その様子は同じクラスである俺たちにだって察せられるものである。他のクラスメイトたちも気づいているみたいで、見守る気のようだ。
「喜一はなんというか嫉妬とかしないのか?」
「嫉妬……いや、そうだなぁ。しないわけじゃない。花音が俺に接するみたいに誰かに接していたら嫉妬するし。今も花音の素広まっているのは結構色々考えてはいるけど」
嫉妬は当然する。花音が他の男に笑いかけていたりしたらもやもやした気持ちにはなるだろう。学園で俺と話している時の花音は、素が見えかくれしているから、良からぬことを考える生徒がいないかも不安だし。
とはいえ、花音は人懐っこいけれど自分の見た目のよさをちゃんと理解して行動しているからそのあたりは問題はないだろうけれど。それに花音は何かあったら悩みを話してくれるだろうしな。
ただ花音が人気者でも俺が比較的冷静なのは、花音が人気者なのが当たり前だと思っているのと――、
「花音が無邪気に気持ちを伝えてくるから、フラれるかもって不安はそんなに感じないんだよな」
花音が真っ直ぐに気持ちを伝えてくるから、誰かに取られてしまうかもという不安は少ない気がする。
普通、あれだけ可愛い彼女が出来ればこれからの事を不安になったりするものなのかもしれない。花音は俺を不安にさせるような暇なんて与えない。恋人関係って色んなあり方があるだろうし、本人達が納得しているのならばどんなあり方でもありなのかもしれないけれど、俺と花音は素直に言いあっていてその関係が丁度良い。
……でもあれかな、想像は出来ないけれど倦怠期がきたりするんだろうか。花音に冷たくされたら俺は落ち込む。
ずっと一緒に居れば、今の関係からもまた変わっていくのかもしれないけれど、花音と穏やかに過ごせればいいなと思った。
今年一年は大学受験に専念する必要があるけれど、大学生になったら花音との将来のためにもっと考えないとなとは思っている。俺の中では花音と一緒に大人になっても、もっと先まで一緒に居ることを望んでいるから。そのためには現実的なことを考えて行った方がいいだろうから。
そんなことを思っていたら、「きー君!!」と花音の声が聞こえた。
「花音」
花音の方に近づいて行けば、何だか後ろに見知らぬ男女二人の生徒がいた。
「これが私のきー君!!」
「この方が天道先輩の恋人ですか!」
「へぇ……どうやって天道先輩みたいな方を恋人に出来たんですか?」
何だか急に紹介されたけど、後ろの二人は何なのだろうか? 先輩と呼ばれていることからも、一年生なことは分かるけれど。何だか花音は楽しそうに笑っているけれど、仲良くなったのだろうか。
「花音、その後ろの二人は?」
「二人とも恋人同士なんだって! あのね、私ときー君がこの学園で有名な仲が良いカップルだって聞いて話しかけてきたんよー。えへへー。それでね、二人とも好きな漫画とか一緒やったから仲良くなったの」
男女二人の一年生は、恋人同士らしい。花音はすっかり目の前の二人と仲良くなっているようだ。女子生徒の方はおかっぱの少女で、男子生徒の方は眼鏡をかけた真面目そうな少年だ。
「初めまして。私は熊戸流果(くまどるか)です。天道先輩たちが有名なカップルだって聞いて興味持って押し掛けちゃいました」
「初めまして。僕は下北宗五郎(しもきたそうごろう)です」
何だか熊戸の方はキラキラした目でこちらを見ていて、少し花音と雰囲気は似ているかもしれない。下北の方は、こちらに興味津々といった様子である。
「ねーねー。きー君、ちょっと四人で話してから家帰っていい? 私、後輩カップルの話聞きたかとよね」
「いいよ。行こうか」
花音は後輩カップルの話を聞きたいと言っているし、後輩二人も俺たちの話を聞きたいようなので、そのままファミレスに向かうことにした。
それにしても花音が楽しそうだと、俺は嬉しい。
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