倉敷の相談 ②
「嫌じゃないのならば、少し考えたらいいんじゃないか。本当にそういう対象に見れないのならばもっとちゃんと断るべきだとは思うけれど……」
本当に何とも思っていないのならば、もっとちゃんと断るべきだと思うので正直にその気持ちを口にする。相手を期待させるだけ期待させて、振るなんていうのは相手に対して惨い行為だと思う。
結局の所告白をしたら、「このまま友達の関係で」という答えを出したとしても、そのままでいられるかといえば難しいだろう。気持ちを伝えるという行動はそれだけその関係性を変えるものなのだ。
――だからこそ、人に思いを伝えるのは、勇気がいるものだと思う。
倉敷はそのまま続ける。
「……今は見れないけれど、未来は分からないんだ。俺は郁子のことが嫌いじゃない。郁子の事をそういう目で見たことはなかったけれど、人として、友人として郁子のことは好きだし……。でも確かに考えたいって言って結局駄目だったってなると郁子に悪いかなって」
「断り方ではなく、そういう方向で考えているだけ倉敷はちゃんと三瓶さんの事を考えているってだけでもほぼ傾いているように見えるけどな」
ゆうきの言葉に俺も確かになと考える。
そもそもの話、本当に考えていないのならばまずはどう断るかとか、どうやって大事にならないようにするかとか、そういう風に行動しようとするだろう。そうしないだけで三瓶に対して倉敷は誠実であろうとしているだろう。
それは他でもない三瓶の事を大切に思っているからだ。どうにも思っていない相手に、こんな風に悩むことはない。
「……うん。そうだな。そうなんだよ。俺は郁子の事が嫌いじゃないし。寧ろ告白された事に対しては嬉しいとさえ思ってる。だから、ちょっとは傾いているのかもしれない。でも全く郁子の事をそういう目で見た事なかったのに、告白されたからって俺ちょろすぎないか? いや、まだ郁子の事、好きになれるかどうかは分からないけど、それでも嬉しいんだよなぁって」
告白されると思ってもいなかった相手に告白されたらそれはもう戸惑うだろう。その気持ちは俺だってわかる。
俺も明知に告白された時はそれはもう驚いたし。
それにしても本当に倉敷は三瓶の事を大切に思っているんだなと飲み物を飲みながら思った。
「そういうものだと思うぞ。告白されたら意識だってするし、嫌いな相手じゃなければ嬉しいってそういう気持ちだってわくものだと思う。まぁ、俺は倉敷みたいに告白何てほぼされたことないから想像だけど」
「永沢……なんか悲しいこと言ってないか?」
「いや、普通に俺とか喜一はそこまでもてないし。まぁ、喜一は明知さんには告白されているし、天道さんと付き合っているからアレだけど」
倉敷は人気者だからなあ。そう考えるとそういう人気者な倉敷と俺たちがこうして仲良くしているのも、不思議なことなんだよな。入学したてとかだとまずは考えらなかったし。
「とりあえずこの話はおいといて。倉敷は三瓶さんのことが大切なら、今まで通りでいいんじゃないか。下手に距離を置くとかはしない方がいいだろうし、少しずつ三瓶さんとの関係をどうするか決めて行けばいいし」
「そうだな……うん。そうする。混乱しても仕方ないし、ちゃんと郁子と向き合うよ」
倉敷はゆうきの言葉に力強く頷いた。
倉敷と三瓶の関係がどうなっていくかは分からないけれど、二人が納得する未来になればいいなと思った。
それから俺たちはしばらく暗くなるまで雑談をした。帰宅したら花音がにこにこと笑いながら「おかえりー、きー君」と笑いかけてくれるのだった。
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