倉敷の相談 ①
「あー」
「へぇー」
俺もゆうきも三瓶が倉敷のことを好きなことは見ていて分かっていたので、そういう反応になってしまった。
倉敷は俺たちがそういう反応をすると思わなかったのか驚いた表情を浮かべている。そして声をあげる。
「え、なんだ、その反応!! 郁子が俺に告白してきたんだぞ!! 驚きだろ!」
俺たちが驚くと思っていたのか、その声は驚愕に満ちている。
倉敷は全く、三瓶が自分を好きということを考えたこともなかったらしい。あれだけ分かりやすいのに全く気付いていなかったのを見るに倉敷も中々に鈍感なのかもしれない。
でも俺も花音に告白して花音の思いを聞くまで花音の気持ちなんて全く分かっていなかったからそういうものなのかもしれないけれど。
「いや、バレバレだった」
「えー? マジか!? 俺、全然気づいてなかったけど!!」
「見るからに三瓶さんは倉敷のことを好きだろう」
「えー……」
倉敷は驚いた様子で目を瞬かせている。
でもこういう事情は外から見ていたらわかりやすいかもしれないけれど、本人たちからしてみれば分かりにくいものなのかもしれない。
倉敷はその言葉に何とも言い難い表情を浮かべていた。
「そっか……周りから見たらバレバレだったのか。だからあいつらも俺にぬるい目を向けてたのか!!」
詳しく聞くと、徳定と堺――あの勉強会の時にやってきた二人に生ぬるい目で見られていたらしい。倉敷と三瓶と同じグループの二人なので、相談はしにくいということで、俺たちに相談にきたそうだ。
まぁ、徳定と堺からしてみればずっと一緒に居て三瓶の様子を見ていたら三瓶を全力で応援しそうだし、はやくくっつけとでも思っているのかもしれない。
俺も見ていて三瓶は倉敷の事が好きだってわかっているし、付き合うのもいいんじゃないかなと思うが、それも倉敷がどうしたいかが重要だろう。俺たちがお似合いだと思ったとしても、本人たちの心が一番大事なのだから。
これで倉敷が三瓶を振ることになったら周りの人間関係も含めて色々スレる可能性はあるけれども、そういうの抜きにして倉敷がどうしたいかだよな。そのあたりはあくまで本人達の問題だしさ。
「それで倉敷は何を悩んでいるんだ?」
「悩んでいるっていうか……なんていうかこう……俺は郁子と長い付き合いで、正直、そういう目で郁子を見た事なかったっていうか」
「いつからの付き合いなんだ?」
「小学生かな。そのころからの付き合いだからさ。なんというか、一番仲が良い女友達で、俺にとってはそういう風に見てなかったっていうか」
ゆうきの言葉に倉敷はそう答える。
倉敷と三瓶は俺たちが思っているよりもずっと昔からの仲らしい。近すぎるからこそ、倉敷にとって三瓶は恋愛対象として認識されていなかったのかもしれない。三瓶はいつから倉敷に恋をしていたのだろうか。
「というか、俺普通に郁子に恋愛相談とかしていたんだ。中学で彼女が出来た時も郁子とは一緒にいたし、祝福してくれてたし……」
好きな人に恋人が出来る横にいたというのは……考えただけで胸が痛い。俺だったら花音が他の誰かと付き合っていて、その隣に友達といるのは考えただけで辛い。
三瓶がいつから倉敷に恋をしていたかは分からないが、恋をしている相手に恋人が出来ても傍にいたというのを思うとよっぽど倉敷の事が好きなんだろうなと思える。近いからこそ告白するのを躊躇い、女友達という立場でいたのかもしれない。
俺は三瓶とも倉敷とも話すようになって間もないからどんなふうに二人が過ごしてきたかは分からない。けれどそれだけの付き合いで、二人にしか分からない思い出も沢山あるぐらいには二人の距離は近かったのだろう。
よっぽど仲良くないと、恋愛相談なんて個人的な相談もしないだろうし。
「……三瓶さんって女友達でもいいから倉敷の傍にいたかったとかそんな感じなんじゃないか。で……、何で急に告白したかって考えると喜一と天道さんのせいだろうなぁ」
「え? 何で俺と花音のせい?」
ゆうきが急に俺と花音のことを口にしたため、俺は驚いてしまう。
飲んでいたジュースを吹き出しそうになってしまった。そんな俺を見てゆうきは呆れた目を向けている。
「本当に自覚がないな。前も言っただろう。喜一と天道さんにあてられて、学園でカップルが増えているって。ああやっていちゃいちゃしたいって思ったりしたのか、沢山増えているんだよ。三瓶さんもそれにあてられたんじゃないか? 喜一から惚気も散々聞いているだろうし」
「……そこまで惚気てないだろう」
正直惚気ていると言われても、そんな気持ちはなかったので反論してしまった。クラスメイトたちが俺と花音のことを聞きたがることが多いので、花音とどんなふうに過ごしているか語っているだけだから、そんな惚気ではないはずだ。
と思っていたのだけど……、
「いや、惚気ている。普通に天道さんとの日常を語っているだけでも喜一は惚気ているからな」
そんなことをゆうきに言われてしまった。
ただの日常を語っているだけなのに……でもゆうきがそう言うと言うことは、惚気に見えているらしい。
「って、それはおいといて。倉敷、どうするんだ?」
「えーとなぁ……」
倉敷はゆうきの言葉に少し言いにくそうに言いよどんで、そして続けた。
「いや、なんというか……俺、郁子に告白されて驚いて、そういう対象で見ていなかったから戸惑っていて。でも嫌なわけじゃないんだよなぁ」
その表情には、戸惑いだけが見られた
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