何故か約束を取り付けられる。

 昼ご飯の準備をしている間も、ずっと花音と凛久さんは言い争いをしていた。方言も使いながらの言い争いは、正直何て言っているかいまいち分からないし。

 というか、よくそういう妙な事で言い争いが出来るなぁ、元気だなとそんな気持ちになる。今日の昼ご飯は焼きそばである。簡単に作れる焼きそばだけど俺は気に入っている。

 三人分の焼きそばを皿に分けた。




「花音、凛久さん、出来たぞ。言い争いはそこまでにして食べよう」



 俺がそう言えば、言い争いをしていた二人は「「ご飯!」」と声をあげて言い争いをやめた。



「焼きそばですねー。ふふふ、きー君が作ってくれた焼きそば~♪」

「喜一、ありがとう。食べる」



 二人ともすぐさま、席について食事を取り始める。



「あ、そうだ。きー君」

「ん? なんだ?」

「さっきのお兄ちゃんと話していた話ですけど、私、きー君とお兄ちゃんのデートを許可することにしました!!」



 なんか花音が焼きそばを食べながら、そんなことを言い出した。



 一瞬、何を聞いているか理解できなかった。花音はにこにことしているが、意味が分からず普通に食事を続けてしまった。




「きー君? 聞いてます? 私はお兄ちゃんときー君のデートの許可を出したのです!!」

「……聞き間違いじゃなかったか。何だ、それは」



 意味が分からない。そもそも男同士でデートも何もないだろう。というか、あれか文化祭で俺が凛久さんと一緒に花音の劇を見に行くことになったということか。

 それはそれで楽しそうだけれど、とても目立ちそうな気がする。



「嫌か、喜一? もちろん、文化祭で出会ったことにするぞ?」

「あーと、本当にそうしてくれるなら構いません。少しは目立つかもしれませんが、凛久さんと一緒に回るのは楽しそうですし」

「よし、じゃあそのあたりをちゃんとするか」

「え、なんですかそれ」

「ちゃんと偶然の出会いを上手く演じないとな。よし、上手く考えよう」



 やっぱり花音と兄妹だなと思う。そういう所もちゃんとしようとするのは前に出かけた時の設定に凝っていた花音を思い出す。



「ふふふ、きー君、その代わり、私とデートしましょう!! デート」

「はい?」

「お兄ちゃんだけ、きー君とデートするなんてずるいですもん! 私だってきー君と仲良しだもん。お兄ちゃんよりも!! だからお兄ちゃんに文化祭デートは譲るけど、別の日に一緒に思いっきりデートしましょ!! お兄ちゃんよりも長い時間、きー君と遊びます!! それで手を打ちました!!」



 なんか勝手に花音が凛久さんとそんな取引をしていたようだ。勝手に決められたことだが、花音が楽しそうなのでそこまで拒否しようという気にはならない。



「きー君、嫌ですか??」



 俺が黙っていると不安そうな顔で花音が言う。凛久さんがその花音のしょんぼりした表情に、断らないよな? と俺に視線を向けている。



「ああ。構わないよ、花音」

「やったぁあああ!! じゃあ、きー君、どこ行くか決めましょうよ。一日中遊びましょう!! 学園の生徒たちにバレないように、ちょっと遠出しましょうよ。私、きー君とならきっとどこでも楽しいと思いますけど、どうせなら沢山楽しめるところがいいですよねー」


 花音はテンションが高い。いきなり大きな声を出されて、俺はびっくりした。



「きー君、どこ行くか考えますね!」

「おう」



 花音は俺が嫌がるような場所に俺を連れて行ったりしないだろうから、とりあえず頷いておく。



「よし、喜一、文化祭ではな、道に迷っていた俺が喜一に道案内をしてもらって仲良くなる感じにしようぜ」

「……いいですけど」



 正直凛久さんはそういう演技が得意なのかもしれないが、俺はそういうの得意ではない。



「ははは、俺が全力で演技をするから心配するな」



 ……まぁ、凛久さんがそういうなら恐らく大丈夫だろう。俺はそんな風に思いながら昼食を食べるのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る