花音の実家 ⑨

 花音と一緒に初売りを見て回った。皆で買い物をするのは楽しいもので、俺も初売りだし良いだろうと色々買ってしまった。というか、花音に「きー君に似合いそうー」などと言われると、買おうっていう気になってしまった。



 花音も色々買い込んでいた。




「ねー、きー君、楽しかね」

「そうだな」



 おせちを花音たちの家族と一緒に囲んで食べる。咲綾さんの取り寄せてくれたおせちは美味しかった。

 年始の特番を見たり、宿題をしながら俺はのんびりと過ごしている。




「ねー、きー君、お兄ちゃんとこの前色々話したんやろ?」

「ああ」

「お兄ちゃんも教えてくれんし、きっときー君にとって大切な話やったんやろ? だから、きー君、今度でもよかけん、私に教えてよかよって思ったら教えてね」

「ああ」




 花音は全てを受け入れるとでもいうような優しい笑みを浮かべて、そう言う。なんというか、学園では花音は聖母のように優しくて、いつも慈しみを持った笑みを浮かべているとされている。学園での花音と、素の花音は全く違う。だけれど、聖母と呼ばれている所は良い例えだと思う。



 花音は全てを受け入れるといったそんな雰囲気を持っていて、確かになんというか、包容力とかそういうのも持ち合わせている気がする。わざわざ敢えて話すことでもないので、タイミングがあったら話そうと思う。というか、今はリビングで咲綾さんや栄之助さんもいるしな。



「ねーねー、きー君さ、このゲームおもしろくなか?」



 花音はそう言いながら俺にスマホの画面を向けてくる。最近配信が始まったアクションゲームをしていた。




「この声優さんの声、よかとよねー。最近のゲームは声優さんも豪華やっけんよかよね」



 花音はにこにこと笑いながらそんなことを言った。それにしても花音は好きな声優さんが出るゲームだとどんどんやっているイメージだ。



「あ、でもきー君の声のが、私は好みやね。ねぇ、お母さん、きー君、かっこよか声しとるやろ?」

「そうね。とってもかっこいい声だわ。良い声だと嬉しいわよね。でも栄之助さんの声も負けてないわよ」

「えー。確かにお父さんの声もよかけど、きー君の声がよかよ。ま、でも私の好みがきー君で、お母さんの好みがお父さんの声ってことだけやもんね」

「そうね。花音の好みが喜一君で、私の好みが栄之助さんってだけだものね」

「ね、お母さんはお父さんとどんなふうに出会ったん? 私ね、きー君の声、気に入っておしかけたんよ」

「ふふ、私も栄之助さんの所へ押しかけたわ。懐かしいわ。一目惚れして押し掛けたのよ」

「お父さんの見た目好みだったの?」

「そうよ。かっこよかったの。それで好きになっちゃったから押し掛けたんよ」



 にこにこと笑って、二人はそんな会話を交わしていた。やっぱり母娘なだけあって似ているんだなとそんな風に思った。



「花音と咲綾さんって似てますよね」

「そうだな。花音と母さんは似ているな。まぁ、違う所もあるが」

「凛久さんもそっくりですよ」

「そうか?」

「はい。そっくりです」



 うん、流石親子だなって思えるぐらい三人とも似ていると思う。

 栄之助さんは咲綾さんに色々話されて恥ずかしいのか、新聞を読んでいるのだが……その耳が若干赤い。



「咲綾、もういいだろ」

「えー、栄之助さんのよさをもっと話そうと思っていたのだけど」



 咲綾さんはそう言いながら、栄之助さんへと近づいていった。そして「可愛い」などと口にしていた。本当に仲良いなと思った。




 それから俺は家に戻るまでの間、花音の実家でのんびりと過ごしていた。その間に皿うどんを作ってもらったりとか、花音と凛久さんと一緒にカラオケに向かったり、色んな経験をした。




 凛久さんも美声だった。歌っているのはアイドルの曲や流行りの曲が多かった。



「凛久さんってアイドルも出来そうですよね」

「スカウトされたことはあるぞ。興味ないから断ったけど」



 ……凛久さんはそんなことをさらりと言っていた。凛久さん、男の俺から見てもかっこいいからな。だからこそそういうスカウトされたこともあったのだろう。



「私もあるよー。お母さんもあるっていいよった」

「凄いな」



 咲綾さんもスカウトされたことがあるらしい。まぁ、花音たちの家族は見た目が良いからな。


 勉強も二人に見てもらって進めることが出来たから良かったと言えるだろう。今年の受験に向けて、花音と遊んでばかりではなく勉強もしないとな。



「私が先生やっけんね。きー君とあえんとか寂しかけん、私はきー君の先生やるの!」



 で、花音は俺の先生をやる気満々であった。凛久さんもである。今年も花音と凛久さんにお世話になりそうだ。



「今年もよろしくお願いします」



 そう思って告げたその言葉に、



「今年もよろしくね、きー君、でもお世話になっとるんはこっちやけんね?」

「ああ。今年もよろしくな。俺は週末に来るから」



 二人はそう言って笑うのであった。





 ――そしてそんな楽しい日々を過ごしていればあっと言う間に時間が過ぎて行った。

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