花音の実家 ⑧
「明けましておめでとう、きー君!!」
俺の新しい年で一番最初に聞いた声は、花音の元気な声だった。
目を開ければ、にこにこと笑う花音が客間のベッドに横になっている俺は花音を見上げる。
「……あけましておめでとう、花音」
寝ぼけた頭で、此処は花音の実家だったかと思い出す。
「きー君、寝ぼけとる? 可愛かね。それにしてもこうしてきー君の声であけましておめでとーって聞こえっと嬉しかね」
花音はすっかり目を覚めしているようで、俺のことを見て嬉しそうな表情を浮かべている。そんな花音に起こされて、俺はおきあがる。
リビングへと向かえば、もうすでに咲綾さんも栄之助さんも、凛久さんも目を覚ましていた。というか、寝間着なの俺だけだ。慌てて着替えに向かおうとすれば、
「そんなに慌てなくていいのよ。もうちょっと寝間着でもいいわ」と咲綾さんに言われてしまった。
結局花音に手を引かれて、俺は寝間着のままソファに座らされる。
「ねーきー君がどがん初夢みたん?」
「初夢? いや、とくに見なかったな」
「みんかったん? 私ね、きー君、夢みたんよ。夢でもきー君会えて、現実でもきー君にあけましておめでとうっていえて私幸せなんよー」
嬉しそうに笑って、花音はそんなことを言った。どうやら俺の夢を見たらしい。それでこんなにこにこと微笑まれると、何だか少しだけ照れくさい気持ちになった。
「俺は花音の夢を見たぞ!」
「お兄ちゃんの夢に私でとったん? どんなことしよった?」
「にこにこと笑いよったよ。なんか高校の制服きとった」
「そうなんねー。お母さんとお父さんはどがん夢みたん?」
花音はそう言って、咲綾さんと栄之助さんに話しかける。
「私は栄之助さんの夢よ。出会った頃の夢をみたんよ」
「私は茄子だった」
なんというか、栄之助さん以外は人の夢を見ていたらしい。朝ご飯は咲綾さんの握ってくれたおにぎりと卵焼きだった。おせちは昼前に届くようになっているらしい。
朝食を食べた後は、花音たちと共に神社に向かうことにする。近場にある神社に皆で歩いている。
花音は俺の顔を時折見て、嬉しそうに笑っている。
「花音、どうした」
「んー、なんかきー君とお正月過ごせっと楽しかねーって思いよっと。こうして神社に一緒にあるとるんも楽しかけんさ、この後初売り見に行くとも楽しみやね」
「そうか。良かったな」
「うん。私めっちゃ幸せよー」
花音は何処までも嬉しそうだ。そんな花音と会話を交わしながら俺達は神社へとたどり着いた。
ちょっとした屋台もある。東京の大きな神社だと、大量の屋台があって人が込み合っているものだが、此処はそこまで混雑していなくてのんびりとした雰囲気が良いと思う。
「あんね、向こうやと餅が結構うってあっとよ。こっちで売ってなかって知って最初びっくりしたんよねー」
「へー、そうなのか?」
「うん。福岡の奴で、長崎の祭りやお正月の時とか必ずうっとったんよ」
やっぱり地域によって色々と違いがあるのだなと俺は花音の話を聞きながら思った。というか、福岡県のものでも長崎にまで出てくるものなのか……と話を聞いて驚いた。
花音や凛久さんたちから話を聞きながら参拝をするために並んだ。そして俺たちの順番が来たのでお参りをする。
――受験に合格できますように。
俺ももう今年の四月には高校三年にあがり、受験生である。大学受験に成功するようにと祈ったのだ。
「皆、何いのったん?」
「俺は受験についてだな」
「俺は花音が幸せになりますようにって」
「私は家族が仲良く暮らせるようにね」
「私は家族の健康を願った」
花音の言葉に俺、凛久さん、咲綾さん、栄之助さんと答えていった。
「そうなんね。私はねー、皆で仲良く過ごせますようにって祈ったよ」
花音は楽しそうにそう言って微笑んだ。
その後はおみくじを引いた。花音、凛久さんは大吉で、咲綾さんは中吉、栄之助さんは吉、俺は大凶だった。……一人、大凶でうわっとなってしまう。
思わず落ち込んでいると、花音が俺の顔を覗き込む。
「きー君、大丈夫よ。きー君が大凶やったとしても私がおっけんね? 私は大吉やし、そもそも私がきー君の側で、きー君のことを幸せにしてあげっけん。心配せんでよかよー。私がいればきー君の運気もきっと上がるはずやもん」
「凄い自信だな、相変わらず」
「だって、私が傍に居たらきー君も幸せやろ?」
「まぁ、そうだな」
花音からそんな言葉を言われると、俺も大凶を引いてしまったこともどうでもよくなってくる。本当に、花音が傍にいるだけで幸せな気持ちになるのも確かだし。
「花音は喜一君と本当なかよしやねー。よか関係やわ」
「咲綾、あの二人は近づきすぎではないか?」
「栄之助さん、落ち込まないの。仲良いことはよかことやんか。ね?」
「ああ……」
咲綾さんと栄之助さんが何か話していたが、何を話しているか聞こえなかった。
そういえば、凛久さんは? と思ってきょろきょろとあたりを見渡せば、凛久さんが屋台で串焼きを買ってきてくれていた。
一本ずつ歩きながら食べて、神社を後にする。
この後は初売りのお店を見て回ることになっている。
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