年が明けて


 年が明けて、学園生活が再会される。すっかり冬休みはずっと花音たちと過ごしてしまった。その間にちゃんと遊ぶだけではなく、勉強も進んでいた。



「ゆうきは年末年始どうだった?」

「俺は普通だな。家族と過ごして終わったな。親戚も顔を出していて楽しかったぞ。喜一は、楽しかったか?」

「ああ。楽しかった」



 ゆうきは俺が花音の実家に行っていたことは知っているので、俺の言葉を聞いて笑った。


「今日は喜一の家に行ってもいいか?」



 もっと話を聞きたいと思ったのか、俺にそんな風に言った。花音に連絡を入れて確認をすれば問題ないというので、ゆうきに了承の言葉を口にする。

 ゆうきはそれを聞いて嬉しそうにしていた。


 教室では年末年始の話が沢山されている。実家に久しぶりに帰ったクラスメイトは、久しぶりに会えて楽しかったと口にし、美味しい物を食べられたとか、お年玉をもらえたとか、そんな話で盛り上がっているのだ。




 俺は結局母さんと父さんとは電話しかしてないからな。花音の実家に行ったわけだし、俺にとって特別な年末年始になったからな。というか、花音の方が母さんと連絡とりあっていたりしてるみたいだしな。

 そんなことを思いながら俺は学園でのんびりと過ごしていた。



「上林先輩、こんにちは」



 学園の廊下を歩いていたら花音に声をかけられてしまった。



「……ああ。こんにちは」



 体育祭と文化祭を終えてから、花音は俺に接触してくるようにはなっている。とはいえ、なんというか、若干――花音は素の雰囲気があるというか、なんだろう、年末年始にひたすらずっと一緒に過ごしていたから気が抜けているのだろうか。

 俺がこんにちはとだけ言って踵を返せば、花音の視線を感じてしまったし……。家に帰ったら花音に軽く言っておこう。



「上林、花音ちゃんに話しかけられてたな! いいなぁ」

「天道さんは相変わらず可愛いわよねぇ。どんな風に年末年始を過ごしたのかしら?」



 倉敷と南海に、そんな風にも声をかけられた。花音の周りにいる生徒にも何故、花音に話しかけられているんだという目を向けられてちょっとだけ驚いてしまった。

 人にそういう目を向けられるのはあまり落ち着かないものだ。





 そんなことを考えていると、花音から連絡がきていた。それは的場先輩を家に呼ぶことになったということだった。

 そんなわけで放課後は俺、花音、ゆうき、的場先輩で過ごすことになった。




「きー君、永沢先輩、おかえり」

「お邪魔しているわ。上林君」



 花音はにこにこと微笑む。的場先輩も楽しそうだ。



「花音、今日はどうしてあんなに話しかけてきたんだ?」

「えー、そんなにはなしかけとった?」

「そうだな。なんか、うん。去年より素が出ていたというか、なんか漏れてたっていうか」

「そがんつもりなかったんに! でもあれやねー、私、年末年始きー君おって楽しかったって思いよったんよ。きー君とはなしたかって気持ちが漏れたんかもしれん」



 花音はそんなことを言いながら困った顔をする。悪気なく、自覚もなくそういうのが漏れてたんだなぁと思う。しゅんとされると、「落ち込むな、花音」と思わず口にしてしまった。やっぱり花音はしゅんとしているより、笑顔の方がいいからな。



「大丈夫よ、花音ちゃん、上林君。例えば二人の関係が露見することがあったら私が味方して良いようにするから。それにほら、さっき言っていたでしょう。花音ちゃんは上林君のことを守るんでしょ。だったら大丈夫よ。私たちで上林君を守りましょうね」

「いや、何で俺が守られる対象なんですか……」

「花音ちゃんは上林君が大好きなのよ。それに私も花音ちゃんと喜一君が仲よくしているところをずっと見ておきたいもの。だからこそ、守るわよ」



 ……なんか的場先輩が俺のことを守るなどということを言い出した。花音もなぜかそれに頷いて、「私がきー君を絶対に守るんよ!!」などと自信満々に言っているし。



 花音に素の雰囲気が醸し出ないようにと言っておこうと思ったけれど、花音にこういう顔をされると何も言う気がなくなる。何だかんだ俺も花音っていう存在に絆されているんだと思う。


 面倒なことは嫌だと思うし、花音という人気者と仲が良いと悟られるとややこしいことにはなる。けど、花音と一緒に居るのは楽しいし、面倒なことも受け入れてもいいかという気にさえなっている。



「ね、上林君、年末年始はどう過ごしたの?」

「俺も気になる。天道さんの家はどうだった?」



 それから的場先輩とゆうきにそう問いかけられて、俺と花音は花音の実家での日々を語るのだった。

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