授業中にグラウンドを見ると

 今、俺のクラスは国語の授業をしている。体育祭や学園祭が迫っているとはいえ、学生の本分は勉強である。クラスメイトの中には、授業以外のことで疲れ切ってしまい、すっかり居眠りしてしまっている者もいる。



 普段真面目に授業を受けるタイプのクラスメイトもうつらうつらしているのは、体育祭の練習で疲れているからもあるかもしれない。もしくは夜更かししてしまったか。



 俺は毎日のように花音は遊びに来るものの、花音は早寝早起きするタイプで夜には帰るし、俺も睡眠時間はぐっすり取れている。

 そもそも授業中はしっかり授業を受けたいタイプなので、滅多な事でないと俺は眠ることはないが。それに国語の授業は好きな方だ。現文が特に好きだったりする。古文も楽しいけれど、そこまで得意ではない。



 っていうか、俺は苦手科目があるが、花音は確か学年トップで苦手科目がないはずだ。……聞いたら一学年上の数学も分かったりするんだろうか? とそんなことをなぜか考えてしまった。



 そんな中でふと、窓の外を見る。窓の外のグラウンドでは花音のクラスが体育祭の練習をしていた。勢いよく走っている花音は、上から見ていても速かった。リレーの練習で、するりとバトンを受け取ったかと思えば猛スピードで向かっていた。っていうか、リレーはアンカーなのか。花音は本当になんでも出来るなとびっくりする。

 ふと顔をあげた花音と目が遭う。……視力も良いようだ。俺に気づいた花音は軽く手を振った。



 それに驚いていれば、「花音ちゃんが俺に手を振ってくれた!!」「花音ちゃん可愛い」と窓際の連中が一斉に騒ぎ出した。国語の先生が、「授業中は静かに」と注意していた。俺以外の生徒が花音に手を振り返していた。中には窓をあけて、「花音ちゃん頑張れー」なんて言ってたクラスメイトもいた。

 俺は花音と親しいと悟られても面倒だし、手を振り返さなかったが……そもそも俺に振ったわけではないかもしれないとクラスメイトの様子に思うのであった。





 国語の授業が終わって、昼休みである。





 ゆうきと共に教室で昼食を食べる。俺は基本的にパンや弁当をコンビニや購買で買って食べている。ゆうきは母親の作った弁当だ。冷凍食品ばかりだといつも嘆いているが、冷凍食品ばかりでも毎日弁当があるのはうらやましいことだ。




「凄い盛り上がっていたな、さっきの授業」

「そうだな」



 ゆうきは面白そうな笑みをこちらに向けている。



 昼食を食べている他のクラスメイトたちも、先ほどの花音のことを話している。違う学年にも関わらず、体育祭の練習をし、ちょっと手を振っただけで話題になる花音は本当にすさまじい人気ぶりだと思う。

 普通、手をふっただけでこんなに話題に上がって、盛り上がることなんてありえないと思うのだが……って驚きでいっぱいである。本当、俺の家に花音が入り浸っているって知られたらどうなるんだか……。



「花音ちゃんも練習頑張ってるんだ、俺も頑張る」

「天道さんに良い所見せたい!!」

「っていうか、練習でも天道さん、足はやすぎ。俺、男なのに負けるかも!!」

「花音ちゃん、体操服も似合うよなー」



 女子生徒たちも花音の話で盛り上がっているが、声高に盛り上がっているのは男子生徒たちである。

 っていうか、花音は俺より絶対足速いと思う。クラスメイトの中でも足が速いと言われている連中が負けるかもって言っているレベルだしな……。

 それにしても先ほど手は降っていたが、花音は家で見せるような自然な笑みなんて浮かべておらず、聖母様然とした表情だったので、別人のように見えた。黙っていれば見た目通りなんだよなぁ……。



「俺たちも体育祭頑張らなきゃな」

「そうだな」

「いい所を見せないとな」

「いや、それは別にどっちでもいい」



 なんかゆうきにいい所を見せなきゃなと言われたが、俺は別にそれはどっちでもいいと思った。

 まぁ、出来る限り真面目にやって良い成績を納められたら嬉しいけれど、花音に良い所を見せたいとかは考えていない。そもそも学年も違うし、花音もそんな意図して俺の競技を見ようとはしないと思うしな。



 というか、花音の場合は俺が体育祭で良い成績だろうが、悪い成績だろうが、いつでもにこにこして話しかけてくる気がする。



「ふぅん。かっこいい! とか思われたいとかないんだな」

「そうだな。別にそういうのはないな」



 花音に良い所を見せたいとか、かっこいいと言われたいとかは特にないなと考えてみて思った。そもそも家で散々、気の抜けた所見せまくっているから今更な気もする。



「でも頑張っているの見ると、頑張ろうという気にはなるかな」

「そうだな。俺たちも頑張ろうぜ。俺はかっこいい所見せたいし、やるぞ」



 ゆうきは好きな女の子に良い所を見せたいようで、笑ってそう言うのだった。


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