後輩の兄からの連絡と写真

 体育祭の準備に明け暮れているある日、スマホに凛久さんからの連絡が入っていた。



 凛久さんからは、『花音の写真が欲しい』と、そんな連絡が来ていた。そんなことを俺に言われて、どうしろというのか。

 そもそも花音の写真が欲しいというだけではどんな写真が欲しいのかさっぱり分からない。



『どんな写真が欲しいんですか?』

『花音と喜一の学園では体育祭だろう? 花音の頑張る姿が欲しい』

『学園での花音を撮るのは難しいです』

『なんでだよ? 撮れるだろう?』

『撮ろうと思えばできるかもしれないですけど、難しいでしょう。それか花音は人気なので、写真を後から買う事は出来るかもしれませんが』

『……そうか、残念だ。でも撮れそうなら撮ってくれ』

『はい』



 凛久さんは花音の頑張っている写真が欲しいらしいが、学園での花音の写真を撮ることは難しいだろう。写真部が売っていることもあるかもしれないが。

 わざわざ学年の違う俺が花音のことを写真で撮っていたら盗撮か何かに勘違いされそうだしなぁ……。学園での花音を撮るのは正直言って難しい。


 ちなみにその連絡がきたのは、昼休みだった。





 ピコンピコンと何度も鳴るスマホに、一緒に食事を取っていたゆうきは「誰からだ?」と訝し気な表情をしていた。

 俺は交友関係がそんなに広いわけでもないし、こんなに連絡がどんどん来ることも珍しいからだろう。花音の兄からの連絡だと言ったら「へぇ」とゆうきは笑っていた。



 ついでに「なら、手に入れられそうなら手に入れてこようか。写真部の友人に聞いてみる」と言ってくれたので頼んでおいた。




 それからもちょくちょく、凛久さんからの連絡は来た。最終的に「どんな花音でもいいから花音の写真が欲しい」ということだったので、家に戻ってから花音に頼んでみようと思った。もちろん、花音が嫌がるのならば写真は撮らないけど。




 その日、放課後の体育祭の練習を終えてから帰路につく。その帰り道に、スーパーに寄って、花音の機嫌を取るためにお菓子かケーキでも買うことにする。機嫌よくなったら、写真も撮らせてくれるかなと思うし。花音の写真を送るまでずっと凛久さんに催促されそうだしな。




 そんなわけでスーパーでお菓子やケーキを買うことにする。スーパーのケーキもお手頃価格で美味しいものが多いから、食べるのが楽しみだ。っていうか、花音用に買おうと思っていたわけだが、俺の食べる分まで買ってしまった。体育祭の練習で疲れているのもあり、甘いものが欲しくなるのだ。

 お菓子やケーキを購入し、食べるのが楽しみだとわくわくしながら家に戻った。

 家に戻ってしばらくして、花音から連絡が来た。




『もう、家についてますか?』



 体育祭の練習をしているというのもあって、帰宅時間が花音とそろわないこともある。そのため、たまにこうやって家についているか連絡をよこしてくる。帰ってると返信すれば、花音がすぐにやってきた。



「きー君、おじゃましまーす!! 今日はいつもより帰ってくるの遅かったですね!」

「ああ、スーパーでお菓子とかケーキ買ってきた」

「おお!! それ、私も食べていい奴ですか? って、本当に色々買ってるー。あれ、なんか、お祝い事ですか?」



 花音は勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けて、お菓子やケーキを確認する。そして目を輝かせる。



「花音の機嫌を取ろうと思って」

「え? なんでですか? きー君、私に何かしたんですか?」

「いや、凛久さんから花音の写真が欲しいって言われてて」

「えー、お兄ちゃんから?」

「そうだ。だから機嫌取ったら写真撮らせてくれるかなーと」


 俺がそんな風に告げれば、花音は「えー」と口にして続ける。



「いやいや、きー君、そのくらいお菓子やケーキなくても構わないですよ。きー君と私の仲でしょ? ほら、これが全然仲が良くない男の子とかなら遠慮したいけど、きー君なら全然オッケーですよ。しかも、お兄ちゃんの我儘だし」



 花音は俺に写真を撮られても構わないらしい。



「で、どうします? どうせお兄ちゃんのことだからお兄ちゃんが見られない私の写真が欲しいとかですよね?」

「よく分かったな?」

「わかりますよー。ってことは、体操服とかジャージとか着ましょうか? ちょっと待っててくださいね。取ってきます」




 花音はそう言うと、俺が驚いているうちに自分の部屋へと戻っていった。少しして、花音はジャージ姿で戻ってきた。



「ふふふ、ジャージ姿も私に合うでしょう?」

「ああ。そうだな」

「私はなんでも似合いますからね!! さて、どんなポーズ取ってほしいですか? 何かリクエストがあるのならば、私喜んでやりますよ?」

「……えっと、そういうのはない」

「えー、つまらないですね。いいです、では、私が自由に動くんで、写真撮ってくださいよ」

「花音、楽しんでいるのか?」

「だってきー君との撮影会とか面白いじゃないですか」


 花音はにこにこと笑いながら、ポーズをとっていく。俺は花音に促されるまま、スマホで花音を撮る。色んな表情で色んなポーズを撮る花音を撮り終えると、



「じゃあ、次はきー君の番ですね!! てか、折角だから一緒に写真も撮りましょうよ」

「え? なんでだ?」



 俺の写真は別にいらないだろと思ってしまう俺である。




 しかし花音はすっかり俺の写真を撮る気分らしい。俺が戸惑ったまま撮影に挑み、突っ立っていたら、「きー君、突っ立ってるだけじゃだめですよ。もっとこう……」となぜか指示をされて、そのポーズを撮った。



 なんか花音ってこういうやる気に満ち溢れている時って、細かいところまで指示出すよなぁ。俺が台詞言っている時も注文つけてきてたし。

 ……花音に望まれるままにポーズを取っていると、俺は何をやっているのだろうかと言う気分になった。



「楽しいですね、きー君!」



 楽しそうに笑う花音を見ると、まぁ、いいかという気持ちになった。



「よし、きー君、ツーショット撮りましょう。ツーショット!」

「まぁ、いいけど」

「よし! じゃあ寄って!」



 そう言って微笑む花音に促されて、花音のスマホで写真を撮った。撮る時に距離が近くてびっくりしたが、花音は気にした様子がなかった。



 それが終わった後、二人でおやつを食べてのんびり過ごすのだった。

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