バレンタイン ①


 今日は2月14日。

 バレンタインである。女子が男子にチョコレートを渡して、愛の告白をしたり、友チョコを配ったり――そんな日で、クラスメイトの中でも落ち着かない様子を見せているものも結構いた。



 俺は特に普段通りである。



 今までの人生でも本命チョコレートなどもらったこともない。そういえば、地元ではなぜかややこしいことになった幼馴染が毎年くれていたっけ。俺が幼馴染を好きだみたいなそんな勘違いをしてややこしかった時ももらった気がする。


 そして花音は「今日は、楽しみにしとってね?」とにこにこと笑っていたので、友チョコのようなものはくれるつもりなのかもしれない。



「花音ちゃんからチョコレート、もらえたらなぁ」

「天道さんはチョコレート渡す予定あるのかな?」



 ちなみにバレンタインも相変わらず花音は話題になっていた。花音を見てそわそわしているものもいれば、なぜか花音にチョコレートを渡して付き合おうとする男子もいたりとか――色々と話題になっているらしい。



 ちなみに友チョコも花音は大量にもらっているようだ。花音からは渡す予定はないらしい。



「そういうの渡すと俺に気があるかも! って勘違いす―人もおるやろうしね」


 と花音は言っていた。



 バレンタインは毎回、スーパーのチョコレートのコーナーで美味しそうなものを買って食べたりしているのだが、今年は花音と一緒にそういうチョコレートを購入して食べている。



 花音も結構自分でチョコレートを買って食べているらしい。ちなみに土日に凛久さんがやってきた時に「一緒に食べますか?」と聞いたが、「どうせ大量にもらうしな」といっていた。



 とはいえ、凛久さんは手作りチョコレートは基本的に食べないらしい。何が入っているか分からないというのと、世の中には本当に料理音痴な人もいて知り合いでそれで大変な目に遭った人もいるらしいのだ。市販のものだけは一応食べるらしい。一人で食べきれないものは此処に持ってくるとも言っていた。



 それにしてもバレンタインのチョコレートは色んな種類があったりして、楽しいよなと思う。


 美味しそうなチョコレートは冷蔵庫にまだ眠っているので、花音と二人で今日も食べる予定だ。甘いものは別腹で幾らでも入るものなのだ。




 放課後になって、俺はさっさと帰宅してのんびりしようと思っていた。









「上林君、ちょっといい?」



 だけど、なぜか明知に声をかけられた。



 明知とは体育祭ぐらいからちょくちょく話すようになっていたけれど、この前の件から特に話すようになっていた。

 学園で率先してゆうきと居る時に話しかけてくるから、俺が二番目に話している女子は明知かもしれない。

 そんなことを考えながら先導する明知についていく。人気のない空き教室についた。




「明知、どうしたんだ?」



 明知がわざわざ俺を呼び出す意味も分からない。そもそもバレンタインの日にこうして呼び出しをされると勘違いする人もいると思うんだけどな……と思う。

 明知は俺の言葉に少しだけ黙り込む。何か悩みでもあるのだろうか? と心配にはある。俺が口を開こうとした時、明知が口を開いた。




「上林君、これ」

「チョコレート? くれるのか?」



 明知はチョコレートをくれた。四角い箱に入ったラッピングがされたチョコレートだ。甘いものが好きだからもらえるのならば、嬉しいものだ。

 でもなんでわざわざ呼び出して渡したのだろうか。あれかな、改めて渡すのが恥ずかしかったからとかかな。



「うん」

「ありがとう。もらうよ」



 俺はそう言ってチョコレートを受け取る。中身はどんなチョコレートだろうか? と開けるのが楽しみである。



「明知、こうして呼び出して渡すと勘違いされるから気を付けた方がいいぞ」



 明知もクラス委員長として、クラスメイトたちに慕われている女の子だ。誰にでも話しかけて、クラスメイトたち全員と仲が良い。そういう明知がわざわざ呼び出して渡すとなると、勘違いする人もいるだろう。

 俺はそういう事は考えないけれど、勘違いする人もいるだろう。



 花音と凛久さんもちょっとしたことで勘違いされて、大変だったことがあると言っていたし、明知も気を付けた方がいいだろうと思って出た言葉である。

 でもそれを言ったらなぜか明知は黙り込んだ。



「明知、どうした?」

「えっとね、上林君」



 明知は俺の言葉にそう言って、俺の方を見る。

 何だか決意に満ちたような目をしていて、どうしたのだろうか?



「勘違いじゃないよ」

「え?」

「あのね、勘違いで呼び出して渡したりなんてしないよ。上林君のことを気になっているからこうして渡しているの。ううん、気になっているというより好きだなと思っているの。だから上林君さえ良ければ、私とお付き合いしてくれない?」



 一気に言われた言葉に俺は固まってしまうのだった。

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