後輩の兄の襲来 1
ピンポーンとチャイムが鳴る。映像を見れば俺よりも少し年上の男が見えた。眉をあげて怒りを隠せない様子だ。
艶のある黒髪の背の高い美形だ。なんというか、クールな王子様のような雰囲気の男性。
「天道、これが兄?」
「あ、お兄ちゃんですね!! お迎えしましょう!!」
天道は嬉しそうに声をあげて、玄関へと向かった。そんな天道を俺は慌てて追いかける。
……天道の兄に何を言われるのだろうかと、少しだけ緊張してしまう。
「お兄ちゃん、いらっしゃい!!」
……そして天道、まるで自分の家にお迎えするみたいな対応はどうなんだ? 確かに天道は俺の家に入り浸っているけど。天道兄の形相が凄まじい事になっているんだが。
「……初めまして、上林喜一です。天道さんとは仲良くさせていただいております」
ひとまず挨拶をしなければならないと、自己紹介をする。
「……天道凛久(てんどうりく)だ」
不愛想に天道の兄――天道凛久さんはそう言って、俺を見る。俺の事を気に食わないといった様子を隠しもしないので、思わず苦笑してしまう。
「もー、お兄ちゃん!! 上林先輩に失礼な態度をとらないでよ!! 私がお世話になっている先輩だよー?」
「花音……。そうはいってもだな。男は狼なんだぞ? 分かっているのか?」
「分かってるよー。でも上林先輩はそがん人と違うけん、そんな心配せんでよかと!!」
「なんいいよっと。男は狼やって何度もお兄ちゃん言っとるやろ? こんな草食動物ですって顔しとっても、男は狼やって」
「そがんこといっとったら、お兄ちゃんも狼って事になったい。もうそがんことばっかいうんやったら、もうかえりーよ!!」
「帰らん!! 俺は花音の事心配しとっと。花音は誰よりも可愛い。こがん可愛かけん、変な男にひっかけられんかって心配しっととさ」
「あー、もうそれはわかっとっけん、とりあえず上林先輩にあやまって!! 私が迷惑かけとっとに、お兄ちゃんまで迷惑かけちゃ駄目やんか。上林先輩に失礼な態度取るんやったら、お兄ちゃんのこと、中に入れんけんね?」
目の前で天道と天道兄が口論を繰り広げている。早口で方言で口を開いていて、ぶっちゃけ、何を言っているか聞き取りにくかったりする。
とりあえずどうしたらいいか分からないので、一先ずは成り行きを見守っていた。そしたら天道に言われたからか、「失礼な態度をしてすまない。上林君、中に入ってもいいだろうか」と頭を下げられた。天道はその様子を見て満足気にうんうんと頷いている。
天道兄を中へと入れてから、座ってもらう。
天道が「飲み物ついできますね」とかいって立ち上がりかけたが、天道兄と二人で残るのは気まずいので、俺が準備することにした。あとは昼食も。色々と買ったけれど、天道兄が気に入るようなものはあればいいが。
そう思いながら準備をしている間、天道と天道兄の楽しそうな声が聞こえてきた。兄妹仲が良いことは良い事だと思う。
天道と天道兄が俺のことで喧嘩したりとかしたら悪いし、天道兄とも仲良くなれたらいいのだが。
準備を終えて机の上に並べている間、天道兄からの視線が鋭かった。まぁ、お腹はすいているみたいで途中で「ぐぅ」とお腹がなってたけど。
「――天道さん、これ、どうぞ」
「……ありがとう」
天道兄は俺がスーパーで買ってきたお惣菜を前に、きちんとお礼を言う。俺の事は警戒しているようだが、いただきますと口にして黙々と口に含む。お腹がよっぽどすいていたのだろう。それだけ天道の事を心配していたからと言えるだろうけど。
俺が食事を食べている間にもじーっと天道兄は俺の事を見ていて全く落ち着かない。
「お兄ちゃん!! 上林先輩に何を熱い視線を向けてるの?」
「花音……。俺はこの男と話さなければならないんだ! 可愛い可愛い花音の事を部屋にあげているこの男と!!」
「お兄ちゃん、私が上林先輩の部屋に押し掛けてるんだよ?」
「それは花音の主観だろう。俺は兄として可愛い妹に近づく虫の事をちゃんと確認しなきゃいけないんだ。花音はとってもかわいいからなぁ」
天道兄は俺を一回にらんだ後、天道の頭を撫でまわす。天道は何だかんだ嬉しそうにしていて、仲良い兄妹だなと思う。
天道兄はただ天道の事を心配しているんだなと分かる。大切な妹が男の部屋に入り浸っているから、男がどういう人間なのか気になるのも当然だしな。
「じゃあ天道さん、食事終わったら二人で話しますか?」
「……ああ」
「上林先輩!? お兄ちゃん今暴走気味だから何言われるかわかりませんよ!?」
天道は心配そうにしていたが、天道兄の心配を無くしたほうがいいだろうと思ったのだ。少なくともこれからもこんな風に天道兄が来て睨まれても困るし。
天道とどのくらい長く関わっていくかは分からないけど。
何言われるんだろうかと言う気持ちはあるが、天道兄が考えなしに下手な行動を起こしたりはしないだろうと感じたからというのもあるが。
それから会話をしながら食事をするのだった。
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