後輩の兄の襲来 2
さて食事が終わった。天道兄と一緒に会話をすることになっていたのだが、天道が子供のように渋っていた。天道兄は食事中は比較的、穏やかに話していた。天道の前だったからだろうけど、俺を気に食わないという態度はしながらもそれ以上はなかったし。
「お兄ちゃん、絶対に上林先輩に失礼なこというでしょー? お兄ちゃんはもう帰っちゃえばいいんだよー。私は上林先輩とのんびり遊ぶんだから」
「花音……っ。そんなにこいつに懐いてっ」
「もう懐いてって私は犬とかじゃなかとよ!? お兄ちゃんが大人しく私たちと楽しく遊ぶっていうのなら、帰らんでもよかよ!! 一緒に遊ぼ!!」
「くっ……可愛い。俺の妹、可愛い。でもダメだ。幾ら可愛く言っとっても駄目だ。俺はこの男と話をつけねばならんっ」
「もー……上林先輩は全然そういうお兄ちゃんが心配しているようなのではなかって」
天道は可愛く遊ぼうと誘惑して話をさせるのを止めさせようという戦法だったらしい。確かに可愛かった。……俺が天道の兄っていう立場だったらすぐに言う事聞きそうなレベルだと思う。
俺どうするべきだと、兄妹の言い争いをみながら少しぽかんとしてしまったが、「いや、天道、俺は天道さんと話すから」といったら天道は「えー」と文句言いながら了承し、天道兄は「よし、よく言った」となぜか満足していた。
それから「じゃあ私、自分の部屋でのんびりしてますから、お兄ちゃんに意地悪されたらいってくださいね!!」と天道は俺に言う。
そして天道兄には「上林先輩に余計な事いったら怒るからね!! よくしてもらってるんだから。お兄ちゃんの事も上林先輩の事も大好きだから喧嘩してほしくないし」って言ってた。
……本当にもう、さらっと大好きとか言うと勘違いする奴は勘違いするぞ? と心配になる。
「……上林君」
「はい」
さて、天道兄と二人っきりになってしまった。正直な話を言うと、気まずい。何を言われるのだろうかと緊張するのもある。とりあえず仲良くなれたらいいんだが。これで天道と話さなくなったら……まぁ、それはそれなんだが、天道としゃべるのは楽しいし、来ないよりは来た方がいいから。
「花音は可愛いだろう?」
「はい。そうですね」
「とっても花音は可愛いんだ」
何回言うんだろうと思いながらも俺は素直に頷く。天道が可愛いのは事実だし。
「……そんなに可愛い花音が家に入り込んでいて、上林君はよからぬことを考えたりしないのか? いや、寧ろ花音は懐に入れた相手にはグイグイ行く方だからきっと上林君にもグイグイいっているだろう。気を許した花音は普段の様子ももちろん可愛いが、可愛さが倍増する。そんな可愛い花音が家にいるんだぞ!?」
急に俺の方に顔を近づけてきて勢いよく言う天道兄。……やっぱり、兄妹だからか似ていると思う。なんというか、勢いがあるところとか。そういう所を感じて思わず笑ってしまう。
「何を笑ってるんだ?」
「いや、天道に似てるなと思いまして……。えっとあと、天道がグイグイ来るのは確かに可愛いとは思いますけど、天道とそういう関係になるとか想像できないですし。天道はただ俺と遊びたくて家に来ているの見ていたら分かりますから、そういう事はないですね」
なんというか、本当そういう気持ちは現状芽生えていない。元から天道と関わる事になるとは思っていなかったし、こうやって天道が家にいるのもいまだに夢か何かな気もするし。
そもそも天道を見ていたら本当に遊びたくて来ているだけっていうのが分かるからそういう事はない。
「へぇ……それ本心か?」
「本心ですね」
「……花音の事を傷つけたりしないって、誓えるか? もし花音に何かしたら俺は上林君を許せないが」
……そういう天道兄は凄い目をしていた。何だろう、今にも俺を殺しそうな肝が据わった目。ただそういう表情をしていても様になっているから美形って得だよなと思う。
そう言う目で見られることに慣れてないからビビりそうにはなるけど、しっかり答えないと天道兄も不安になるだろうから目をそらさないようにしていった。
「はい。誓えます。天道の事を傷つける気はありません」
「……そうか、なら今はそれを信じてやろう」
天道兄はそう言った。ちょっとほっとする。天道は何を言うか分からないって心配していたけれど、とても良い妹思いのお兄さんだと思う。俺は一人っ子だから、そういう兄妹って憧れたりする。
「よし、花音を呼ぶか」
「はい。そうしましょう、天道さん」
「あー…それやめろ」
「何がですか?」
「天道さんだと花音とこんがらがるだろ。凛久でいい」
「え」
「俺はちょくちょく様子見に来るつもりだからな。今は信じてやるけど、まだ俺の世界一可愛い妹と仲よくするのを完全に認めたわけじゃないからな!!」
「あ、はい。じゃあ凛久さんって呼びます」
そんな会話をした後、自分の部屋に戻っていた天道を呼ぶことになった。
……天道兄——凛久さんは今日はいつまでいるつもりなのだろうか?
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