部屋の中
部屋の中に入り、エアコンの風にあたり、ようやく暑さから解放された俺は、ふと我に返って焦っていた。
だって、暑くて勢いのままに部屋の中に入る事を提案してしまったが、よく考えればあの天道花音が俺の部屋の中にいるって考えてみればヤバい状況である。
天道天音は俺に促されるままにソファに座っているが、そもそも何故この後輩は躊躇いもせずに此処に入ってきたのか。
飲み物やアイスを冷蔵庫にしまって、改めて天道花音を見た俺は何て話しかけるべきなのか分からなかった。
「……座らないんですか?」
「あー……座るが、えっとその、天道はホイホイ男の部屋に入っては駄目じゃないか?」
「そうですか? 私はちゃんと問題がないと確信したからこそ、入ったのですが。上林先輩は私を襲ったりとかしないでしょう?」
「というか、俺の名前、良く知ってたな」
「ああ、声が好みだったので調べました。上林先輩の事を情報収集したら私が部屋に入ろうとも襲ったりはしないだろうなと言う確信を持てたので。私も流石に襲いそうな相手の部屋には入りませんよ」
「……そうか。って調べたってなんだよ。もしかして俺をじっと見ていたのは……」
「ええ。関わっても問題ないか確認してました。ついでに情報収集をして問題ないかしっかり調べたんですよ。幾ら、声が好みだったとしても! 私は可愛いですから襲われる可能性はありましたからね」
自分で言うのかよ、とあきれながらもこれだけ可愛ければ自分が可愛いと自覚する出来事は山ほど起こっているだろうし仕方がないだろうとも思った。
というか、本当に学園に居る時とキャラが違うくないか?
学園では聖母のようで、穏やかで、いつも笑っているといったイメージが定着しているが、目の前の天道花音はなんともまぁ、いつも学園にいる時よりも年相応というか、なんというか、こちらの方が俺は話しやすくて良いと思うが。
「なぁ、天道……学校に行く頃と雰囲気が何故違うんだ?」
「あー、それはですね。高校に入学したらこう、こっぱずかしい聖母みたいとかいう評価をもらってしまいましたし、こう……その期待を裏切るのはって思ってしまって。それに私の素って大分、オタクというか、煩いというかそういうのもあるんですよ。あとは、方言も出そうだし、って思ったら皆が夢見る私でいるのもありかな! って。皆が私のことを噂するのは気分が良いですしね」
にこやかな笑顔で、天道花音はそう言い放った。なんとも晴れやかな笑顔だった。
「方言っていうのは?」
「ああ、私、中学までは長崎に住んでいたんですよ。親の都合でこっちに来たので、あまり気を抜くと出る時があるので」
「今は普通に見えるが……」
「気にかけていれば出ない時は出ないですよ」
「……というか、それだけ隠してたにも関わらず俺にはさらっと言っていいのか?」
「問題ありません。上林先輩は言いふらしたりなんてしないでしょう?」
「しないが……」
「それにですね! これから交流していくのですから知ってもらってた方がいいでしょう?」
それが当然だとでもいう風に謎の発言を天道花音はした。
そもそも俺の声が好きだとは聞いたが、結局何でわざわざ話しかけてきたのか、何を俺に言いたいのかもきちんと聞いていない。
……交流していくって、どういうつもりなのか。暑さで俺は夢でも見ているのではないかとさえ思うような出来事が今起こってるのだ。だって、おかしいだろう? なんで天道花音が俺と交流するとか言っているんだか。
「交流? 天道は俺と交流するつもりなのか?」
「ええ、ええ。その通りです。私は学園では上林先輩がご存じの通りに私は大人しくしていますが、たまにはこう思いっきり話したい気分もあるのです。しかし、イメージを壊すのは何だかなって思っているのですよね。それに上林先輩の声で好きな台詞とか言ってもらえないかなーとか思ってて。駄目ですか?」
「……え、いや、駄目っていうか。突然すぎて驚いてはいるが」
俺は思わず、そんな声を出す。
正直言って頭が追い付いていない。
天道花音の素にも驚くし、俺と関わろうとしている事にも驚く。
「ふふふっ、なら問題ないですね!! 上林先輩が私の好きな台詞とか囁いてくれるのならば、代わりに料理作ったり、お掃除したり、差し入れしたりぐらいはしますよ! それで、どうですか!! あと私が語りたいときに話を聞いてもらえたらなーと」
「……お、おう」
戸惑いながら頷いたら、天道花音は満面の笑みを浮かべた。その笑みに、天道天音に惚れているわけでもない俺でもどきりっとするほど魅力的なものだった。
「ありがとうございます!! 上林先輩!! じゃあ、私、今日は失礼しますね!! 用がある時はこちらに来るのでよろしくお願いします!! 今日は部屋にあげてくれてありがとうございました!!」
天道花音は俺が了承したことに満足したのか、そのままぺこりと頭を下げて去っていった。
俺は慌ただしく去っていった天道花音に唖然として、しばらく固まってしまうのだった。
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