委員長
堂ケ崎さんと電話越しに初めて会話を交わしてから数日が経過した。特に俺と花音の日常は変わらない。俺が堂ケ崎さんと会話を交わしたからか、花音がよく堂ケ崎さんの話を俺にするようになったぐらいだろうか。
――生まれた時から一緒で頼りになると堂ケ崎さんの事をそんな風に花音は言っていた。
生まれた時からずっと一緒に育っていて、だからこそ凛久さんとも花音とも仲良しなのだろう。花音は長崎でのびのびと過ごしていたのだろう。
その当時の花音の昔の話を聞くと何だかすぐに想像が出来て楽しい。花音は昔の色んな話をしてくれる。家族で釣りに行った話とか、猪を見かけた事があったとか……そういう話だ。俺も同じように昔の話をした。幼馴染の話は敢えて触れずに話していた。そのことに花音は気づいていただろうけれど、花音もそれに触れることはなかった。
花音は相変わらず俺の家にいつもいて、にこにこ笑っている。学園でも時折花音が話しかけてきて、若干周りからの視線は痛いが特に問題は起きていない。
「上林、どうやって花音ちゃんと仲良くなったんだ? 俺も花音ちゃんと仲良くなりたい!!」
「どうやってって言われても……まぁ、同じマンションだから時々はなすから」
ごまかすようにそう言う事しか出来ない。……倉敷に花音が毎日家に来ていることを言ったら何と言われるだろうか。それなりに会話をするようになって、倉敷の性格も分かってきているから、面倒なことにはならないとは思うけど……。
しかし何で花音と仲良くなったかと改めて考えれば、花音が俺の声が好きだと言って俺の部屋にやってきて、それでグイグイ来たからなんだよな……。俺は花音みたいにグイグイこられなかったら、こんな風に仲良くなれなかったと思う。一年前の俺に後輩の女の子とこれだけ仲良くなっているぞと伝えたとしてもきっと信じないだろう。俺は自分から後輩の女の子と仲良くしようとはしないし、きっとただの隣人のままだっただろうな。
それにしても花音が上手く周りに説明しているのか、今の所全く問題は起こっていなくて安心する。
ただ流石に花音が毎日家にいるとか、年末年始に花音の家に行ったとか、そのあたりを知られたらややこしそうな気がする。……というかまず信じてもらえないような気がしてならない。
もう今年は大学受験があるので、年明けから特に受験の話をしている人たちが多かった。俺の第一志望は凛久さんの通っている大学だ。今の所、花音と凛久さんに勉強を診てもらっているからか成績も上がっているし、このまま頑張れば合格圏内だと思うから勉強を進めていくことを決めている。
そういえば昨日は花音が「きー君、来月誕生日よね? 私沢山おいわいすっけんね? なんかほしかものある?」などと聞いてきていた。欲しいものといざ言われても特に思いつかなかった。なので「花音がくれるものなら何でもいい」と答えておいた。
多分、花音は俺の誕生日を盛大に祝ってくれそうな気がする。この年で誰かに盛大に祝われることなどそんなにないから少し楽しみでもある。
そんなことを考えていたら花音から連絡が来ていた。
『きー君、今日はシチューでよか? シチュー食べたかとよね』
それに了承の答えを返す。それにしてもシチューか、シチューも美味しいよな。材料をどちらが買ってかえるかなどをスマホで相談しあう。
帰宅しようとゆうきと一緒に廊下を歩いていると、階段の上から声をかけられた。
「上林君、永沢君」
声を掛けてきたのは、明知である。明知は花音とは違った親しみ深さがある。
こちらに向かってやってこようとしてくる明知――と、そこで明知の体が傾く。足を踏み外したらしい。
慌てて落ちてくる明知を受け止める。なんとか受け止められてほっとする。というか、明知は結構軽くてびっくりした。
「大丈夫か!? 喜一、明知さん」
「あ、ごめんね、上林君」
幸いにも明知が足を踏み外したのは、下の方だったから良かった。
「いや、俺は大丈夫。それより明知は大丈夫か」
「うん。大丈夫、ありがとう」
明知には怪我がなかったものの、足をひねっているらしいので、ゆうきと一緒に明知を保健室へと連れて行った。
その後、保健室の先生に明知を任せて俺とゆうきは帰宅することにした。
翌日になって明知から、
「昨日はありがとう。これお母さんと私で作った料理だから良かったら食べてね」
そう言ってタッパーにつめた料理をくれた。
放課後にも食べてほしいとバックごと渡された。俺が一人暮らしなのを聞いていたからだろう。
そのタッパーを持って家に帰宅したら花音が目ざとくそれを見つけた。花音は相変わらず俺の家に来ていた。いつも花音は俺の家にいるからすっかり家にいるのが当たり前になっている。
「きー君、昨日人助けしたっていいよったもんね。それにしてもこれおいしかねー。私も料理の勉強しようかな。的場先輩に料理ならおうとしよっとよねー」
そしてそれを昨日作ったシチューと一緒に食べて、にこにこと笑っているのだった。
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