俺の誕生日 ②

 学園への到着までの間、ずっと花音はにこにこと笑っていた。俺の誕生日だというのに、自分の誕生日のように――嬉しそうに笑っていた。そんな花音を見ているだけで、俺は幸せな気持ちになって仕方がなかった。




 学園へと到着して、



「きー君、また昼にね」



 と言われて、それぞれの教室へと向かった。




 教室へと入れば、「上林君、誕生日おめでとー」「おめでとう」「上林、誕生日なんだって?」と急にクラスメイトたちから沢山声をかけられた。

 あれ、何で俺の誕生日をクラスメイトたちが知っているのだろうかと不思議に思いながら、「ありがとう……?」と口にする。


 何で知っているのか、と周りに問いかける。




「花音ちゃんが言っていたんだよ」

「天道さんが『大好きなきー君の誕生日があるんですよ!! お祝いしてくださいねー!!』って広めてたよ」

「はい!?」


 花音、何やってんの!? とちょっとびっくりした。




「ふふ、天道さん、上林君のことが本当に大好きなのね。上林君の誕生日だから、上林君に喜んでほしいって言ってたのよ。上林君に沢山おめでとうって言ってほしいってそんな風に言ってたの。はい。私からもこれ、誕生日プレゼント」




 そう言って俺の近くにやってきたのは、明知である。明知はにこにこ笑いながらそんなことを言う。

 明知の事を俺は振ってしまったわけで、少し気まずい気持ちもあるが、明知が普通にクラスメイトとして話しかけてくれるので、俺も普通に返事を返している。




「ありがとう」



 明知からプレゼントをもらったのを区切りに、倉敷たちもプレゼントをくれた。親しくないクラスメイトたちもお菓子をくれたり……花音が俺が甘い物好きなのも言っていたっぽい。



 色んな人におめでとうと言われるのは、少し恥ずかしい気持ちもあるけれど――それよりも嬉しい気持ちも強い。俺は高校に入って、そこまで人付き合いを深くしようとしていなかったから、花音と付き合わなければこんな風に周りにおめでとうって言われることもなかっただろうなと思う。



 こういうのも全部、花音がくれたものなんだなって。本当に俺は花音に与えられてばかりな気分になるので、もっと何か返したいなと自然と思った。



 なんだかその後、教師にまで誕生日を祝われ……花音の影響力の凄さを実感した。花音の影響力が強く、そして花音が心から俺の誕生日を祝おうとしてくれているからこそ、こうして学園で祝われているのだろう。花音がそれだけ周りに好かれている証であると言えるだろう。



 というか、なぜか学園の新聞にも俺の誕生日情報と花音のインタビューが載っていた。

 花音も行動力の塊みたいな存在なのに、的場先輩までも多分悪乗りしたんだろうなぁと思った。正直恥ずかしい。でも花音が俺のお祝いをしようと思って一生懸命なのはわかるからいいかと思う。



 昼休みに入ると花音が迎えに来た。




「きー君、ご飯たべよう!!」



 なんだか少しずつ花音の素は学園で浸透している。というか、俺と一緒に居ると花音はちょくちょく素が漏れているのでそれは仕方がないと言える。


 今日は的場先輩はいないらしい。ゆうきは「誕生日だし、二人で食べて来いよ」といっていたので、花音と二人で食堂に向かう。




 新聞の影響もありいつもより視線を浴びた。……全然知らない生徒に「おめでとうございまーす」と言われたりして、やっぱり花音の影響力はすさまじいと思った。あと、俺を喜ばせるぞと気合を入れている花音はしっかり俺の手を握っていて、手を繋ぎながら食堂に向かっているからというのも注目を浴びている理由だと思う。




「教室に入ってびっくりしたよ」

「えへへ、ある意味サプライズ成功かな? 私きー君こと、大好きやけん、大好きなきー君がおめでとーって言われて喜ぶと嬉しかなーって思って」

「うん。ちょっと恥ずかしかったけど、おめでとうって言われるのは嬉しかった」



 恥ずかしさもあるけれど、誕生日を人にお祝いしてもらえるというのは嬉しいことである。それにしても俺の誕生日で嬉しい、と思っているのか花音はがっつりが素が漏れている。

 へにゃりと笑った花音を見て顔を赤くしている男子生徒もいる。




「花音、素がタダ漏れしてる」

「……気を付ける! でもきー君の誕生日よ! 私にとっても特別な日だから。それにこうして恋人としてきー君の誕生日祝えるの嬉しいから」

「うん。俺も花音が恋人として俺の誕生日、全力で祝おうとしてるのは嬉しいよ。でも……・えっと、なんていうかさ。花音の素は可愛いから、あんまり他の人に見せたくないかなって……」



 正直こういうことを言うのは恥ずかしいけれど、俺が花音に沢山のものを与えられている分、俺も素直に口にしたいと思って口にした。

 花音はその言葉を理解すると、顔を赤くした。




「う、うん。ちょっと気を付ける!! でもきー君の前だときー君の事、大好きーって思ってこうなっちゃうんだよね」



 しかもこんな可愛い事を言っていた。



 それから二人して顔を赤くしながら食堂に辿り着いた。……なんか周りがちょっと騒がしかったけれど、俺はそんな周りを気にしている余裕はなかった。


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