俺の誕生日 ①
「きー君、お目覚めの時間よー」
花音の声と共に、目を覚ます。
昨日は花音と一緒に乙女ゲーム攻略を進めていて少し夜更かししてしまったのだ。花音が自分の部屋へと帰っていったのは、日付が今日になってからだった。
花音が持ってきた乙女ゲームが思ったよりも世界観が作りこまれていて楽しくて進めてしまったんだよな。結構RPG要素が沢山あったりする乙女ゲームって何を目指しているのか分からないけれど、作りこまれた世界観は楽しいものだ。
「きー君、おはよー」
「おはよう、花音」
「きー君、ハッピーバースデー!!」
「ありがとう」
朝一でおめでとうと口にされ、今日は俺の誕生日だったなぁと思い出す。
「今日はきー君の誕生日で、きー君にとって特別な日で、きー君が主役なんやけん、自分が王様! みたいな感じで過ごしていいからね!! 私、なんでも言う事きくけん」
「いや、そういう日じゃないだろ」
確かに誕生日は、その人にとって特別な日であることは確かだと思う。だけど、花音が言うように自分が王様! みたいに過ごしてよい日ではないと思う。
そもそも簡単になんでもいうことを聞くとか言わない方がいいと思うんだけど……。それだけ俺を信頼してくれているからこその言葉と分かるけどさ。
「ふふ、なんかきー君の誕生日をこうして彼女として祝えると嬉しかー!! 私の誕生日の時は、きー君とただのお隣さんやったもんね。そん時はきー君と恋人になれとるとはおもっとらんかったな」
「……なんかその言い方、その時から俺を好きみたいに聞こえるのだけど」
「ん? そーよ? 私きー君のこと、結構最初の方から大好きやったけんね? 異性として好きかどうかはすぐにはきづかんかったけど、そのころにはすきよーっては思ってたよ?」
花音からそんなカミングアウトをされて、俺は顔を赤くしてしまう。赤くなった顔を見られたら花音にからかわれるだろうなと思って、ベッドから立ち上がり花音に背を向ける。
「ふふふー、きー君、てれとーやろ?」
背を向けていたら思いっきり背中に抱き着かれた。薄い部屋着で抱き着かれて、花音の胸が背中にあたっていて落ち着かない。
「……花音、急に抱き着くなよ」
「だって抱き着きたかったんやもん。それに此処には私ときー君しかおらんから幾らいちゃついてもよかやん。それにしてもきー君の体温凄いここちよかー。
はっ、きー君の誕生日やけんきー君を喜ばせようと思って抱き着いたとに、私の方が得しとる!! きー君、私にしてほしかことある??」
「いや、俺も十分幸せだなーって嬉しいぞ。一旦離れてほしいかな」
「えー……じゃあ、離れるけど、きー君、してほしかことあっとやったら幾らでも言ってね? 今日は平日なのが残念よねー。休みの日やったらもっと一日、きー君のことをお祝いできたとになー」
花音はそんなことを言いながらちょっとだけ残念そうな声を出す。
誕生日がそこまで特別な日だとは思っていなかったけれど、花音がこうして俺のことを全力で祝ってくれようとしているのを見ると確かに今日は特別な日に感じた。
「きー君、今日はお誕生日仕様で、ちょっとだけおかずも多いんよー」
「ありがとう」
朝食もお誕生日仕様らしい。確かに俺の物の方がちょっと豪華というか、量が多い。あとは飾り付けがされている。どれだけおめでとうと言いたいんだろうか。
「ねーねーきー君、今日は昼も夜も私が全力で祝うけんね? 学園でも全力よ!! どれだけ私がきー君を祝いたいか分からせてやるけんね?」
「ああ。楽しみにしている」
学園でもこの調子……というのは正直、何を花音が起こすんだろうか、どれだけ恥ずかしい行動に出るのだろうかという不安はある。ただ花音がこれだけ楽しそうならば俺も嬉しいし、ちょっと恥ずかしくても別にいいかなと思うのだ。
相手が花音じゃなければ恥ずかしくて嫌だと思うことも、やっぱり花音が好きだからこそ俺は受け入れられるのだと思う。
「ふふ、きー君、きー君、あーん」
「えーと、何でいきなり食べさせようとするんだ?」
「だってきー君のお祝いだよ!! 朝からあーんってしたらきー君も嬉しくなるかなーって。あと、私がきー君にあーんしたくなったから!!」
キラキラした目でそう言われて、俺はぱくりと花音の差し出したそれを食べる。
……流石に学園ではこんなことしないよな? と思うけれど、何だか今日の花音は俺を喜ばせよう、嬉しがらせようという意気込みでいっぱいなので学園でどんなふうになるかなぁと若干の不安を覚えた。
でもまぁ、いいか。
花音が与えてくれるものなら恥ずかしいものでもいいかとそう思うのだ。
そう思いながら朝食を食べ終え、スマホに目を通す。そうすると凛久さんからも朝一で「誕生日おめでとう」と来ていた。ついでに栄之助さんからも来ていた。栄之助さんが何で朝一で連絡してきたかは分からないが……、まぁ、誕生日をお祝いしてもらえたのは嬉しく思う。
制服に着替えてきた花音は、「ふふ、お兄ちゃんもお父さんも二番乗りやね。一番初めにきー君をお祝いしたのは彼女である私!! 勝った!!」と謎発言をしていた。何で毎回、花音は張り合っているんだろう?
そんなことを思いながら登校時間になったので、花音と一緒に学園に向かう。
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